《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》14.ポワール

今晩のメインディッシュはポトフ。

その材料となる菜の皮をひたすら剝き続けていく。

私にとっては慣れた作業。揚げ屋で働いていた時は、芋の皮を毎日百個以上剝いていたのだ。

「剝き方がすごく綺麗~! 私がここで働き始めた頃は、皮と一緒に実を剝いて怒られてたんだよね」

「以前こういう仕事をしていたんです」

そう言いながら、皮を綺麗に剝き終わった人參を切りにする。

すると私の隣で玉ねぎの皮剝きをしているメイドは、「んん?」と不思議そうに唸った。

「でも清掃とか洗濯の仕事もやってたんでしょ? 宿屋とか公衆浴場の店番とか……」

「はい。だけど店番関係は、數年前からやらないようにしていました」

接客や店番は給料が安い分、労働がなくやりやすかったが、父に止めるようと言いつけられたのだ。

「お前のような外見のが客と関わるな。みっともない」という罵倒つきで。

私が裏方の仕事ばかりを選ぶようになった理由でもある。

「……一番最初に會った時、あんなこと言っちゃってごめんなさい!」

メイドは皮を半分ほど剝いた玉ねぎをまな板の上に置くと、バッと勢いよく頭を下げた。

の名前はポワール。フレイ(わたし)が自己紹介した際、近寄って來たおさげのである。

擔當は廚房。そして私が様々な配屬先の中から選んだのも廚房だった。

その先輩から突然謝罪されて、私は戸った。

「え? な、何がですか?」

「ほら私がどんな仕事出來るか、フレイに聞いた時に……」

気まずそうな表で言われたので、その時の記憶を脳で再生させてみる。

すると心當たりを一つ発見。

「もしかして、この手のタイプがどうとかっていう……」

「そうそれ! 私たち、てっきりあなたがユリウス様目當ての困ったさんだと思ったの」

「どういうことですか?」

「ユリウス様ってにぜーんぜん興味ないでしょ? だけどワンチャン狙いで、うちの使用人になりたがるご令嬢って結構多いの。最近流行ってるご主人様とメイドの小説に化されちゃうのかな。そういう人たちに限って仕事の経験なんてないのに、『私何でも出來ます!』って萬能タイプをアピールしてくるんだよねぇ」

「それは困ったさんですね……」

だから皆、あんなに渋い表をしていたのか。

「フレイみたいに、本當に何でも出來る人って多分初めてじゃないかな。皆『超人が來た』ってびっくりしてたもん」

「ちょ、超人……!?」

「それに、ユリウス様が新人メイドにあんなに早く心を開くのも初めてかも」

そういえば私と彼とのやり取りに、驚愕していた使用人がちらほらいた気がする。

「あのお方もどうしても警戒しちゃうみたい。私は他のメイドとの會話をうっかり聞かれたおかげで、早いうちから普通に接してもらえるようになったけど」

「……會話?」

「ユリウス様に下心を持っていないかって聞かれて、私『あんな若造ヤダーッ!』って言っちゃったんだよね。私って四十代くらいのおじ様が好みだから」

所謂おじ専というものか。何だか意外。

「そしたら、背後にユリウス様が立ってたんだもん。今すぐ辭表書こうと思ったら、『これからも頑張ってくれ』って言われたの。その日を境に態度も化したし」

「怪我の功名ってやつですか」

「一週間くらいは生きた心地がしなかったけどね」

それはまあ、そうだろう。

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