《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》15.初めての給料
さて、婚約から一ヶ月後。
この日私は、予定通りユリウスと婚姻を結んだ。
これで晴れてオラリア公爵夫人となったわけである。
と言っても、特に何があるわけでもなく、ユリウスからは「改めてよろしく頼む」と言われただけだった。
私もそんなことより、重要なイベントがあった。
晝前、私を含めた使用人たちは大広間に集められていた。
皆の表は明るい。何せ本日は待ちに待った給料日なのである。
「アネッサ・フラール。こちらへ」
「はい」
「ヨハン・グルイソン。こちらへ」
「はい」
ユリウスが一人一人呼んで給金袋を手渡していく。
フレイ(わたし)の名前が呼ばれたのは、一番最後だった。
返事をして彼の下に向かうと、僅かに厚みのある茶封筒を渡される。
と、違和を抱く。
「ん……?」
「どうした、フレイ」
「あ、いえ……ありがとうございます」
ユリウスに聞かれて、私は誤魔化すように禮を告げて彼から離れた。
そのあと、自分の部屋に戻ってから封筒の中を確認して、「やっぱり」と獨り言を呟く。
想定していたよりも金額が大きい。
封筒にやや厚みがあったのでもしかしてと思ったのだが。
自分の妻だからと、特別扱いされてしまったのだろうか。
私としては、そこは公平にしてもらいたかった。
「……余計にもらった分は返しに行こう」
そう決めて廊下に出ると、ちょうどポワールが部屋の前を橫切ろうとした時だった。
私が手に持っている封筒を見て、「あ~」と何かを察したような聲を上げる。
「もしかして、お給金たくさんってなかった?」
「はい。だからお返ししようと……」
「ううん、返さなくていいんだよ~」
ポワールが朗らかに笑いながら言う。
「それはユリウス様からの頑張ったで賞だから」
「がん、ば……?」
「本來貰う分とは別に、すごい頑張ってるな~、いい仕事してたな~って人にはこっそりボーナスを出してくれるの」
「あれ? でもそんな説明されてなかったと思いますけど」
「ユリウス様はひっそりこっそりしているつもりだからね。たくさん貰いすぎましたって返しに行っても、『こちらの支払いミスだ。まあけ取っておいてくれ』で済まされちゃうし」
ユリウスの聲真似がやけに上手い……
いやそれは置いといてオラリア家、隨分とサービスが充実している。
食事もしっかり三食、栄養たっぷりのご飯を食べることが出來るし、有給休暇の申請も可能。
ここの使用人たちが皆楽しそうに働いているのも納得だ。
「ねえフレイ、明日私と一緒に街に行かない? 今日はお給料日なんだし、楽しんじゃおう!」
「……はい。よろしくお願いします」
誰かと街で買いするというのは、初めてかもしれない。
だからか、その日はずっと頬が緩みっぱなしで「フレイさん楽しそう」と料理人に言われてしまった。
翌日、私はいつものメイド服ではなく藍のワンピースを著ていた。
マリーが「私のお下がりでよろしければ」と、大量にくれた服の一著だ。
お下がりにしては、やけに生地が新しいが……
街に行ったら、ユリウスやマリーにも何かお土産を買おう。そう計畫を立てながら廊下を歩く。
「……?」
使用人が何だかざわざわしている、
まさかフレイとアニスが同一人だと気づかれた?
その辺りのことはマリーにお任せしてしまっていたが。
心配しつつ玄関に向かっていると、使用人の男に呼び止められた。
「あ、フレイさん。今玄関に行かない方がいいよ!」
「何かあったんですか?」
「奧様のご令妹が自分の旦那を連れて、急に押しかけて來たらしいんだ! 姉に會いに來てやったとか言ってるそうだが……」
「え!?」
こんな日に限って、何しに來やがった……!!
【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われた少女の手を取り、天才魔術師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される)
***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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