新米料理人が珍しそうな顔をするのも無理はなかった。

今回私が使うこの豆は東洋中心に流通しているもので、うちの國には殆ど出回っていない。

私も他の種類で代用するしかないと、半ば諦めながら青果店にったのだ。

なので紙袋に詰めた狀態で陳列されているのを見た時は、「あっ！」とつい大聲を上げてしまった。

そしてこれを買ったところ、店員に変人を見るような目をされた。

「これを鍋にれて、水から茹でていくんです」

「へぇ～、こんな小さな豆なんて火にかけてらかくしても、食べ応えなさそうに見えますけど……あ、でもが赤っぽくて綺麗ですね」

どうやらこの豆の食べ方、というより使い方を知る人はないらしい。

恐らくは青果店の店員もその一人で、わざわざ好んで買った私を不思議に思ったのだろう。

私も七年くらい前、東洋料理専門のレストランで働いていなかったら、ずっと知らないままだったと思った。

二回ほど水を替えて茹で続けたら、今度はじっくりと煮込んでいく。

その間は新米料理人と一緒にじゃがいもの皮剝きをしつつ、時々鍋を確認する。

「そろそろ豆がらかくなってきたので、砂糖をれます」

私が街で買った砂糖を取り出すと、新米料理人は目をぱちくりさせた。

「わざわざ買ってきたんですか？　廚房にあるのを使ってよかったのに……」

「塩はほんのしなのでそのつもりでしたけど、こっちは大量に使いますから、そういうわけにもいきません」

砂糖を鍋に加えながら、ゆっくりと混ぜる。そこへ塩もパラリと。

すると潰れた豆が砂糖水と混ざり合って、赤茶のペーストのようなものが出來上がった。

あとは、これに水をしずつ足して……

「……？」

何か気配をじる。これは……殺気？

振り向いてみると、料理人たちが私の背後に集結していた。

その中には、剣呑な顔つきの料理長の姿もあった。

「新人メイドよ……そいつぁ何だ……？」

「わ、分かりません」

「えっ。分からねぇって、あんたが作ったもんだろうが」

「レシピは知ってるんですけど、料理名まではちょっと……」

そもそもこれ、店のメニューには存在しない賄い料理的なものだったのだ。

元気の出る飲みだと言って、店長が時々作ってくれた。

じんわりと溫かくて甘い豆のスープ。當時、あれを飲むのが私の數ない楽しみだった。

店長が稅していたことが明らかとなり、その店は潰れてしまったが。

「よし、出來た……！」

ペースト狀からとろみのあるスープに姿を変えたそれを、マグカップに注ぐ。

ふわりと立ち込める甘い香り。

ふうふうと息を吹きかけてから一口飲んでみると、口に広がる不思議な甘み。

潰れずに形が殘っている豆も、らかくて味しい。

約七年ぶりに再會した思い出の味にしていると、料理人たちが熱い眼差しを鍋へ注いでいることに気づく。

「えっと……皆さんも飲んでみますか？　鍋いっぱいに作りましたから」

私が尋ねると、彼らは力強く頷いた。