《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》28.白いのと悩み

「こちら、豆のスープです」

マグカップをテーブルに置くと、ユリウスはペンをかす手を止めて私を見た。

「……君が作ってくれたのか?」

「はい」

私が短く返事をすると、彼は椅子から立ち上がり、ふかふかのソファーに移した。

「ああ、この香りだ。コーヒーともショコララテとも違う……ん?」

マグカップに鼻を近づけると、前回との違いに気づいたようだ。

スープの中には、白くて丸いものがぷかぷかと浮かんでいる。

「これは何だ?」

「料理長が作ってくださったです」

そう説明しながら、スプーンをユリウスに手渡す。

東洋の食文化に興味を持った料理長が、豆のスープについて々と調べてくれたのだ。

まずこのスープは稅店長の賄いメニューではなく、オシルコというれっきとした料理だった。

そしてモチ、シラタマなどのれることもあるらしい。材料はどちらも米という、この國ではあまり出回っていない穀

シラタマの素は青果店にあったので、豆と一緒に買ってきたのだとか。

「ふむ……パンとは全然違う食だ。外も中もつるりとしていて、弾力もある。そして不思議と……」

オシルコスープとよく合うのだ。まるで互いを引き立て合うために、生まれてきたような相のよさ。

私も先ほど味見した時は、のあまり暫し呆けてしまったくらいだ。

ユリウスのマグカップは、あっという間に空になった。

満足な様子……と思いきや、何だか息を深く吐いた。

その様子に何か引っ掛かりを覚える。

「ユリウス様……何かありましたか?」

マグカップをトレイに載せつつ尋ねると、銀灰の雙眸が私の顔をじっと見據えた。

言おうか迷っている。そんな様子にもじ取れた。

返答を待つこと數十秒。ようやく彼は口を開いた。

「実は一週間後、夜會が開かれることになっているんだ。その招待狀が屆いた」

ユリウスは執務機をちらりと見た。

私もその視線を目で追いかけると、機の中央に封筒らしきものがあった。

「……ない」

ユリウスが小聲で何か言ったが聞き取れない。

「もう一度よろしいでしょうか?」

「夜會に行きたくない」

今度はしっかりと聞こえる聲量だったが、その代わり早口だった。

子供みたいだな、と失禮ながら思ってしまった。本人もそれは自覚しているのか、苦い表で頬杖を突いている。

「夜會そのものがどうという話ではないんだ。ただ……」

「ただ?」

「……たちが集まってくる」

「ですがユリウス様は私と婚姻してますし、強引に迫られることはないのでは?」

「未だに釣書が屆くんだ」

おっと、これは……

覇気のない聲で、明かされた事実に絶句する。

私と婚姻して早三ヶ月だというのに、まだ諦めていない猛者がいるのか。

しかもこの様子だと、一人や二人ではないらしい。

こんな狀況で夜會に出向いたらどうなるかは、火を見るより明らかだ。

「ユリウス様……」

「……分かっている。言い寄られても、斷ればいいだけの話だ」

「その夜會は、どうしてもご出席なさらないといけないんですか?」

「いやまあ、絶対というわけではないが……」

気まずそうに視線を逸らされた。

欠席すれば裁が悪くなる。そういうことだろう。

ユリウスは片手で目を覆いながら、はぁー……と長い溜め息をついた。

ここまで追い詰められている彼を見るのは、恐らく初めてのことだ。

だからなのか、無意識のうちに言葉がぽろりと零れた。

「でしたら……私が出ましょうか?」

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