《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》37.怪我について

靜まり返る會場。その場にいた全ての人間が、ユリウスに視線を注いでいた。

ソフィアとハロルドと言えば、彼の怒気を當てられて、みるみるうちに青ざめていく。

「ユ、ユリウス様、落ち著いてくださいまし……?」

「そ、そうですよ。ここは、しっかり話し合って……」

「いたぞっ! マリカード伯爵子息とその妻だ!」

ハロルドの言葉を、野太い聲が遮った。

數人の私兵が、いつの間にか會場り込んでいた。

そしてソフィアとハロルドを素早く取り囲んでしまった。

「ちょ、な、何よ……?」

「あなた方には早急にお聞きしたいことがあります。別室までご同行願います」

「はぁ? お前たち何を言って……」

「招待狀の件、と言えばご理解いただけますか?」

私兵の一人がそう言った途端、二人の様子が一変した。

顔を引き攣らせながら包囲網から抜け出そうとして、しかしあっさり取り押さえられる。

そして互いを罵り始めた。

「ち、違うわ! 私は何も悪くない! ただこの馬鹿男の言う通りにしていただけよ!」

Advertisement

「何を言っているんだ!? 君だって割とノリノリだったじゃないか、この顔だけめ!」

「はぁ!? それはあんたの方じゃない!」

「うるさいうるさい!」

「うるさいのは、あなた方です」

私兵が呆れた口調で言うと、二人とも悔しそうな表で押し黙った。

そして會場からドナドナされていく様を、私はただ呆然と見守ることしか出來ずにいた。稅店主の最後の姿が脳裏に蘇る。

「……彼たちは何をしたんだ?」

ユリウスに不思議そうに聞かれて、私は「さあ……」と首を傾げながら答えた。

とりあえず、いい加減立とう。そう思って足に重心をかけた時だった。

「いたっ」

「アニス?」

「すみません。ちょっと足首を捻っちゃったみたいで……」

何か杖みたいなものを借りることはできないかな。そう思っていると突如浮遊が襲った。

背中と膝に回された腕。

先ほどよりも近くにある端整な顔立ち。

ユリウスに……抱き上げられている!?

「こっ、公爵様!?」

そうんだのは、私ではなく近くにいた男だった。

私は、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせていた。顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。

言わぬ魚と化した私を抱えながら、ユリウスはロシャワール家の使用人に「どこか休める場所はないか?」と聲をかけた。

「はい。では、ご案いたします」

そして連れて來られたのは応接間だった。

裝は全に落ち著いたデザインで、何やら不思議な香りが漂っている。

花の芳香とも違う。これは……木?

「香木か」

ユリウスがぼそっと呟く。

初めて耳にする言葉に、私は目を瞬かせた。

「東洋では木を薄く削り、それを加熱することで香りを楽しむ文化があるそうだ。ロシャワール侯はそれを好んでいて、わざわざ東洋から木材を取り寄せているらしい」

「そうなんですか……」

香りをに取り込むように、何度も深呼吸を繰り返す。

なんだか森の中にいるみたいだ。疲れた心が癒されていく。

これはロシャワール侯爵が虜になる気持ちも分かる。

私は頬を緩めながら、ソファーに腰を下ろした。

ユリウスは、使用人と一緒にこのまま會場に戻るのかと思いきや。

「何か飲みを持って來よう。ついでに私兵に詳しい話を聞いて來る」

「え。いいですよ、そんな……」

「遠慮するな」

有無を言わさぬ口調でそう告げてから、部屋から出て行くユリウス。

私は一人、見慣れぬ部屋の中に取り殘されてしまった。

その後、すぐに救急箱を持ったメイドが応接間に駆けつけた。ユリウスが手當てをお願いしたらしい。

「応急処置ですので、後で必ずお醫者様に診てもらってください」

「はい」

メイドは救急箱を開けながら言った。

し痛むかもしれませんが、我慢してくださいね……」

膏が、腫れた部分に塗られていく。

ミントにも似た爽やかな匂いだ。

それをくんくんと嗅いでいると、次第に薬を塗られた箇所が、氷を當てているかのようにひんやりと冷たくなっていく。

痛みもし和らいだ気がする。

ほっと息をついていると、ユリウスが応接間に戻って來た。

トレイに載せられた二本のワイングラスには、鮮やかなピンクが注がれていた。

「ラズベリーのジュースだそうだ」

「じゃあ、いただきます」

け取って早速飲んでみる。

予想していたような酸っぱさはなくて、とっても飲みやすい。

怪我の手當ても終わり、足首には真っ白な包帯が巻かれていた。

「ありがとうございました」

「いいえ。では、私はこれで失禮します」

私がお禮を言うと、メイドはぺこりとお辭儀してから、救急箱片手に応接間を後にした。

その後ろ姿を見送ってから、私はユリウスの方を向いた。

「それでユリウス様。うちの妹のことなんですが……」

「……ああ、そのことなんだが」

ユリウスは眉間の皺を指でみ解しながら、深く溜め息をついた。

    人が読んでいる<【書籍化決定】白い結婚、最高です。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください