《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》41.白馬追っかけ隊

マリーの話によると、この近くにある牧場で飼われている馬が、柵を飛び越えて走。オラリア家の庭園に迷い込んでしまったらしい。

使用人総出で、どうにか捕まえようとしているようだが……

「無理じゃないですかぁ?」

馬を必死に追い続ける使用人たちを見て、ポワールが小首を傾げながら言う。

口には出さないが、私もそう思った。人間が、馬の速度に敵うわけがない。

しかしマリーは、首を橫に振った。

「諦めたら、そこで試合終了です」

「確かにそうですけど~」

「それにこのまま馬を放置しておけば、この庭園の全てを破壊し、ただの草っ原になるかもしれません」

私とポワールは「なるほど……」と聲を合わせながら、今も庭園を疾走中の白馬へ視線を向けた。

「ですが、どうやって捕まえればいいんでしょうか」

「とにかくひたすら追いかけてください」

「そんな……」

「馬を走らせ続けて、力が盡きるのを狙う作戦です」

そう言いながら、マリーはどこからか取り出した荒縄を私たちに渡した。

「……他に作戦はないんですか?」

「ありません」

私が質問すると、即答された。

あの白馬は最近牧場にやって來た新りで、やんちゃな格なのだとか。

牧場主が何とか制止させようと大聲でび続けるが、全然言うことを聞いてくれない。

そうして、ここまで必死に追いかけて來た牧場主は、木の下で真っ白に燃え盡きていた。

そんな彼のためにも早く捕まえなくては。

私とポワールも、早速白馬追っかけ隊に加わった。

「てやんでーい、待ちやがれー!」

「うおおっ、止まれーっ」

「早く止まりなさいよぉ~!」

パカラッ、パカラッ。

白馬は軽やかに走り続け、一向に止まる気配を見せない。

そして逆に、私たちが疲れ始めていた。一人、また一人と落していく。

気が付けば、今も白馬を追いかけているのは、私を含めた數人だけとなっていた。

「フレイ~、頑張れ~」

早々とリタイアしたポワールは、遠くから私に聲援を送っていた。

応援してくれるのはありがたいが、私もそろそろ限界が近づいている。

このままだと、白馬が疲れる前にこちらが全滅してしまう。

白馬との距離も全然まらないし……

ん? だけど大きく引き離されてもいない。

それと、時折馬が降り向いて私たちをチラチラ見ている。まるで何かを確認するように。

……もしかして。

「皆さん、止まってください……!」

私と一緒に走っている人たちに向かってぶ。

みんなは、「?」と不思議そうにしながらも足を止めてくれた。

白馬の方も立ち止まり、つぶらな瞳で私たちをじーっと見詰めている。

その隙を狙って一人が走り出そうとするので、私は「ストップ!」と止めた。

そして待つこと約一分。

白馬は芝生の上で、腳を折り曲げて座ると、瞼を閉じて眠り始めた。

私たちがそっと近づいても、起きようとしない。

「ねぇねぇ、この子どうして急に止まったの?」

ポワールが私に小聲で問う。

「私たちが立ち止まったからだと思います」

「どゆこと?」

「多分この子は、私たちと追いかけっこして楽しんでいたんですよ……」

昔辻馬車の仕事を手伝っていた時期に、こういう馬の走騒があった。

その子も、追いかければ追いかけるほど走り続けるくせに、こちらが止まると向こうも「え? もう終わりなの?」と立ち止まって大人しくなっていたのだ。

スヤスヤと眠る白馬の頭を優しくでながら、私は溜め息をついた。

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