《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》49.対峙

深呼吸してから応接間のドアをノックすると、中から「どうぞ~」と牧場主の聲が聞こえてきた。

ドアをゆっくりと開けて、中にる。

「失禮します。お茶とお菓子をお持ちしました」

顔を正面から見られないように、真橫を向きながら言う。

前が見えないので、慎重に歩いていると、

「何よ、この……」

ミルティーユが怪訝そうに呟くのが聞こえた。

私だって、好きでこんなことをしているわけじゃない……

「ど、どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

「すみません。紅茶を淹れている最中に首を捻ってしまって、この狀態からかせないのです」

「そうか……そんなことがあったのに、持って來てくれてありがとな」

私の噓をあっさりと信じたらしく、牧場主が労いの言葉をかけてくれる。

く、首がちょっと痛くなって來た。

橫目で確認しつつティーカップと皿をテーブルに置くと、ミルティーユが「あら?」とし驚いたような聲を上げる。

「私が言ってたお菓子、ちゃんと用意出來たのね」

「このお嬢ちゃんは、オラリア家のメイドさんなんです。ミルティーユ様のために、作りに來てくれたんですよ」

「はい。では、私はこれで……」

を斜めにお辭儀をし、さっさと応接間を出ようとした時だ。

「ちょっとあんた、顔ぐらい見せなさいよ」

「ヒャッ」

ミルティーユがそう言って、私の顔を覗き込もうとするので、私は慌てて後退りした。

しかしミルティーユは引き下がらず、尚もぐいぐいと距離を詰めてくる。

「その顔、見覚えがあるわ……」

「ひ、人違いかと!」

「……ま、そうよね。気のせいだったみたい」

素っ気なく言うと、椅子に座り直してタルトタタンを食べ始めたのか、「ふふ。この味よ、この味」と喜ぶ聲が聞こえる。

今度こそ退散しようとすると、部屋の外から音がした。

「カミさんがやっと帰って來たみたいだ。お嬢ちゃん、ちょっとミルティーユ様を頼んだよ」

「え、あの」

「そんじゃ!」

牧場主は元気な聲で言うと、私の橫を通り過ぎて応接間から出て行ってしまった。

ああ、狀況がどんどん悪い方向へ進んでいく。

部屋の前で立ち盡くしていると、ミルティーユが「ちょっと」と聲をかけてきた。

「あんたに聞きたいことがあるのだけど」

「何でしょうか……」

「アニスってどんな?」

質問の容に、口からヒュッと変な音がれる。

これはもしかして、気づかれているのでは。

するとミルティーユは、嘲笑うような聲で言った。

「アニスの妹が偽の招待狀を使って夜會に出席したらしいけど、本人も相當な悪なんですってね。だからあの歳まで結婚出來なかったんじゃないかって、街中で噂になっているわよ」

街中で噂……?

愕然とする私に、ミルティーユは笑いながら続ける。

「オラリア家に嫁いでからも、やりたい放題だって聞いたわよ。ドレスやアクセサリーを毎日のように買い漁っているとか。些細なことで暴言を吐いたり、使用人に暴力を振るうとか」

牧場主が何だか私に優しかったことを思い出す。

ユリウスとマリーが、私を街に行かせまいとしたのもきっと……

「しまいには獨の貴族や、平民の男にまで手を出してるそうじゃないの」

見に覚えのない話ばかりで、私は拳を握り締めた。

「行き遅れてたところをユリウスに娶ってもらえたのに、恩を仇で返すようなことをして、あのも何考えて……」

「私は……そんなじゃないっ!」

怒りのに任せて、聲を張り上げる。

ふうふうと息を荒らげながら、ミルティーユを正面から睨み付ける。

ミルティーユは口をぽかんと開いて固まっていたが、すぐに目を見張った。

そして私を指差してぶ。

「ア、ア、アニスー!?」

「ええ、アニスですが何か?」

「何かって……何であんた、ユリウスと結婚したのにメイドなんかやってるのよ! 馬鹿じゃないの!?」

「余計なお世話です! それでは失禮します!」

私は応接間を後にすると、そのまま玄関を飛び出した。

後ろから牧場主の「お嬢ちゃん、今馬車を出すから待っててくれ」という聲が聞こえたが、構わずにオラリア邸へ走って帰る。

怒りと悔しさ、そして焦燥で頭がどうにかなりそうだった。

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