《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》54.フレイ

そうして私が連れて來られたのは、たんぽぽの花壇の前だった。

「まずは、花の部分を摘んでいきましょう」

こんなに綺麗に咲いているのに、し勿ないような。

しかしベアトリスが容赦なく摘み始めたので、私もぶちぶち採って、それをザルにれていく。

ある程度の量になったら、花びらを萼(がく)から外す。力加減を誤ると千切れてしまうので、優しく丁寧に。おっかなびっくりの私に比べて、ベアトリスは隨分と手慣れているようだった。

それをしっかりと水洗いしたら、仕上げに散らすための花びらを量取って置く。それ以外の花びらを、スライスしたオレンジやレモンと一緒に數十分ほど弱火で煮込む。すると次第に、その煮は濃い琥珀に染まっていく。

「こんなじだったかしらねぇ……」

ベアトリスはそう呟きながら鍋を一旦火から離すと、を濾してたくさんの砂糖を加えた。

そして時折灰を取りながら煮詰めること二、三十分。とろみが出て來たら、仕上げ用の花びらを散らす。

「はい。これでたんぽぽジャムの出來上がりよ」

「とてもいい香りですね……」

花の優しい芳香だけじゃなくて、爽やかな柑橘類の香りもする。

數本の瓶へと移し替えたジャムは、太を反してキラキラと輝いていて、とても綺麗だ。

その様に見とれていると、ベアトリスが微笑みながら私に言う。

「上手に出來てよかったわ。何本かはあなたに持たせようと思っていたから」

「……そんなにいただいても、いいんですか?」

「勿論よ。それにマリーは、このジャムが大好きなの。昔はこれを作ってあげると、スコーンにたくさんつけて食べていたわ……」

ベアトリスは懐かしそうな表で語ると、「あ、そうだわ」と両手を小さく叩いた。

「私とお茶でも飲まない? あなたとゆっくりお話してみたかったの」

「はい」

調理を片付けてから、ベアトリスの部屋へと向かう。

「さあ、どうぞ」

そう言って、ベアトリスがドアを開けた。

この部屋にるのは、今日が初めてだ。張しつつ、室を見回す。

な裝飾のない、落ち著いた雰囲気の部屋だ。

「あれ……?」

壁にかけられている一枚の絵に目が留まる。

ベージュの額縁に納められた肖像畫。そこに描かれていた人に、私は息を呑んだ。

私とそっくりのが、優しそうに微笑んでいる。

絵を見詰めていると、ベアトリスが穏やかな聲で私に告げた。

「その子はフレイ。マリーの姉で、數年前に病で亡くなったの」

「…………」

私が言葉を失って佇んでいると、メイドがお茶とお菓子を運んで來た。

焼きたてのスコーンに、先ほど作ったたんぽぽのジャムが添えられている。

「座ってちょうだい。スコーンが冷めないうちにいただきましょう」

「……はい」

私たちは、向かい合ってソファーに腰を下ろした。

スコーンにジャムをつけて食べると、蜂に似た風味と甘みが口いっぱいに広がった。

ううん、蜂よりも花の香りを強くじる。

「とっても味しいです」

「でしょう? きっとあなたのお口にも合うと思っていたわ」

ベアトリスはそう言ってから、私に質問した。

「ねぇ、あなた。本當のお名前は何と言うの?」

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