《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》56.帰宅

數日ぶりにオラリア邸に帰って來ると、玄関の前に誰かが立っていた。

「あっ、フレイー! おかえりーっ!」

ポワールが満面の笑みを浮かべながら、私に駆け寄って來る。

今の時間は、晝食の下ごしらえで大忙しのはずなんだけど……

「えへへ。フレイの顔が早く見たくて、抜け出してきちゃった」

「ちゅ、廚房は大丈夫なんですか?」

「あとでフレイと一緒に、頑張って働きますって料理長に言ったら、許してくれたよ~」

さりげなく私も巻き込まれてるような。

だが、いつもと変わらない様子のポワールに、何だか安心を覚える。

「ねえねえ。それ、なぁに?」

「たんぽぽの花びらで作ったジャムです。ベアトリス様が、お土産にっていっぱい持たせてくれたんです」

左手に抱えている紙袋の中を説明すると、ポワールは「たんぽぽのジャム!? よく分かんないけど味しそう!」と目をキラキラと輝かせた。

「マリーさんが今どこにいるか分かりますか?」

「さっき、買いに出かけちゃった。そんなに遅くはならないと思うけど」

「そうですか……」

早くたんぽぽジャムを渡したかったんだけれどな。

まあ仕事をしながら、帰りを待てばいいか。

「ん? フレイ、そのバレッタどうしたの?」

屋敷にろうとすると、後ろにいたポワールが不思議そうに聞いて來た。

「こちらも……ベアトリス様にいただいたんです」

「そっか~。とっても似合ってるよ!」

「あ、ありがとうございます」

こうして手放しで褒められると、嬉しいし照れてしまう。

ふと執務室の窓へ目を向けると、ユリウスがこちらを見下ろしていることに気づき、私は急いで深くお辭儀をした。

けれど顔を上げた時には、彼は既に窓辺から離れてしまっていた。

廚房に行くと、料理人たちに「おかえり~」、「向こうは大変だったろ?」と溫かい言葉をかけられる。

「おう。よく帰ってきたな、フレイ……」

料理長は、何故か右目に黒い眼帯をつけていた。そのせいか、いつにも増して威圧がある。

彼のに一何が起こったのだろう……

「料理長ね、シラタマって白いのを油で揚げたら跳ねて、火傷しちゃったの」

眼帯をじっと見る私に、ポワールがこっそり教えてくれた。

「ど、どうしてそんなことを?」

「フレイの影響で東洋のお菓子が大好きになったみたいで、自分でも々作ってるんだって」

「なるほど……」

だがシラタマを揚げるのはアリだと思う。

外はカリッと香ばしくて、中はもっちり。甘いソースをたっぷりと絡めて食べたら絶対に味しいはず。

「フレイさん、マリー様が帰って來ましたよ」

接客擔當のメイドが、私にそう教えに來てくれた。

料理長の許可を貰ったので自室にジャムを取りに行ってから、マリーの部屋に向かう。

ドアをノックすると、「どうぞ」と中から聲がした。

「失禮します……」

部屋にると、買いから帰って來たばかりだからか、マリーは珍しく私服だった。

濃緑の落ち著いた合いのドレスが、よく似合っている。

「おかえりなさいませ、アニス様。そして、実家が隨分とご迷をおかけしました」

「いえ。ベアトリス様も使用人の皆さんも、とっても優しい方々でした。それと今度、こちらに遊びに來たいと、ベアトリス様が仰っていました」

「……はい」

「あ、お土産もいただいたんですよ」

私がジャムのった瓶を差し出すと、マリーは目を丸くしながら、それをけ取った。

「これは母が作ったものですか?」

「はい。私もしお手伝いさせていただきました」

「ありがとうございます……」

マリーはお禮を言いながら、瓶をそっとでた。

その姿に、私はベアトリスから聞いた話を思い出す。

このたんぽぽジャムは、フレイが昔よくベアトリスと作っていたらしい。

「それでは、私は廚房に戻りますね」

最後に一禮して、マリーへと背中を向ける。

そうして部屋を出て行こうとすると、ガタンと椅子から立ち上がる音がして、「アニス様」と名前を呼ばれた。

振り返ると、彼は普段通りの表で私に問いかけた。

「そのバレッタは……いえ。母は……あなたに何かお話されましたか?」

「……いえ、何も」

私が首を小さく橫に振って答えると、マリーは「そうですか」と相槌を打ってから目を伏せた。

部屋を出て廚房へ戻る途中、バレッタにそっとれる。

ベアトリスとマリーは、今も深い悲しみを抱えている。

なのに亡くなった後も、家族からされ続けているフレイが羨ましい。

こんな酷いことを一瞬でも考えてしまった自分に、私は自己嫌悪を覚えた。

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