《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》59.過労

煌びやかなダンスホール。

周囲からの視線を浴びながら、ユリウスと向かい合って、手を握り合う。

その握力の強さに思わず「痛いです」と文句を言うと、彼は「すまない」とすぐに力を緩めた。

「君と踴れるのが嬉しくて、舞い上がってしまったようだ」

そう言って微笑む姿に、私も釣られて笑みを零す。

そして、どこからか流れるピアノの甘い音に合わせて踴り始める。

失敗しないように、失敗しないように。

張しながら踴っていると、ユリウスが穏やかな表で私を見詰めていた。

の辺りがじくじくと疼くような不思議な覚。

照れるから、私をそんなに見ないでしい。嬉しいから、私からこのまま目を逸らさないでしい。

相反する二つのが、心の中でせめぎ合う。

これは、このは何なのだろう……

「…………」

私は目を覚まして、天井をぼんやりと見上げていた。

どうやら夢を見ていたらしい。恐怖癥ではないユリウスと踴る夢だ。

あのまま覚めなければよかったのにと、何故か一瞬思ってしまった。

「アニス様、何か召し上がりたいものはありますか?」

ずっと私の傍にいたらしいマリーに聞かれて、私は暫し悩んだ。

頭痛は治まったものの、は気怠くて食もあまりなかった。

だが薬を飲む前に、何か食べた方がいいだろう。

「あ……」

ユリウスの姿が、ふと脳裏に浮かんだ。

記憶の中の彼は、私と一緒に何かを食べていて……

私はそれを思い返しながら、ゆっくりと言葉を発した。

「スープ……」

「何のスープがよろしいでしょうか?」

「オニオングラタンスープが……食べたいです……」

夜會の後、ユリウスと語らい合いながら食べたあの味がしくなった。

「かしこまりました。暫しの間お待ちください」

「ありがとうございます、マリーさん」

「……このようなことを言っては、いけないのかもしれませんが」

「?」

「アニス様をめいっぱい甘やかすチャンスが到來して、しワクワクしております」

マリーは椅子から立ち上がりながら、表を変えずに言った。

だが心なしか、その聲は弾んでいるように聞こえる。

マリーは「それでは、失禮します」と部屋から出て行った。

……本でも読んで待っていようかな。

「私としたことが、大事なことを忘れていました」

マリーが部屋に戻って來た。

そして本棚から本を數冊引き抜いて、ベッド脇のナイトテーブルに載せる。

しかも私が読みたいと思っていた本ばかりだった。

マリー、私の心を読んだ……?

「スープが出來上がるまで、こちらをお読みください」

そう言い殘して、再び部屋から出て行くマリー。

メイド長ってすごい……

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