《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》65.解き放たれた

アニスが消息を絶ってから十日が経った。街で聞き込みしたところ、失蹤當日に彼らしき人がナッツ屋を訪れたことまでは判明した。

しかしそこから先は、何も分かっていない。

「…………」

ユリウスは、ぼんやりと執務室の天井を見上げていた。何度も溜め息をつきながら。

すると廊下から「ユリウス様は今お仕事中ですので」、「応接間でお待ちください」と慌てた聲が聞こえて來た。

そして執務室のドアが勢いよく開かれた。

「オーホッホッホッホ! やっと謹慎が解けたから、久しぶりに來てあげたわよ、ユリウス!」

高笑いしながらって來たのはミルティーユだった。バサバサと扇を仰いでいる。

ここ最近は、エシュット公爵に謹慎を命じられていたのである。引き籠もり生活から解き放たれた彼は、やたらテンションが高かった。

だがユリウスを一目見るなり、首を傾げる。

「どうしたの? 何か元気ないみたいじゃない」

「……お前には関係ないことだ」

「関係ないって……わたくしはあなたの従姉妹よ」

「ああ、そうだな」

「……?」

聲に覇気のないユリウスに、ミルティーユは訝しむ。

明らかにいつもと様子が違う。

「まあいいわ。今日はアニスに用事があるの。あのの作るタルトタタンを食べに……」

「彼ならいない」

「じゃあ、戻ってくるまで待つわよ」

「アニスは十日前から行方不明になっている。今日のところは諦めて帰るんだな」

「行方不明ってどういうことよ、それ!」

ユリウスに詰め寄ろうと、ミルティーユは執務機に近づくと、更なる異変に気づいた。

インク瓶は引っくり返っているし、機の上の書類たちが真っ黒に染まっている。

そして、それらを片付けようともしないユリウス。

「捜索願は出したの? 実家には確認した?」

「そんなものとっくに出しているし、ロートリアス家にも書狀を送った。だが向こうにも帰っていないそうだ」

ユリウスは目を伏せて、淡々とした口調で語った。

そしてようやく汚れた書類を片付けようとするが、上手く纏めることが出來ず、床に散らばってしまう。

「ああ、もう仕方ないわねぇ」と、ミルティーユは書類を拾うのを手伝った。それから、ふんっと大きく鼻を鳴らす。

「あんたの不調の原因は、よーく分かったわ。でも落ち込んでる場合じゃないでしょ。早くあのを見つけないと」

「……アニスはそれをんでいないかもしれない」

「はぁ?」

「彼がいなくなるし前、喧嘩をしてしまったんだ。それで俺に想を盡かして、いなくなったとしたら……」

ユリウスは機に両肘をつき、組んだ両手に額をのせながら自嘲する。

実の娘を蔑むロートリアス家や、くだらない醜聞から、アニスを守りたかった。

それが、こんな自分を理解してくれた彼への恩返しだと思ったから。

だが、その思いはアニスの重荷になってしまっていた。

もしアニスが自らの意思で姿を消したのなら、自分に彼を連れ戻す権利なんてない。

「あんたねぇ……もっとシャキッとしなさいよ、このメンタルよわ男がっ!」

ミルティーユは聲を荒らげながら、執務機をバンッと強く叩いた。

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