《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》66.嗅覚

「ミ、ミルティーユ……?」

ユリウスは突然のことに目を丸くする。しかし次の瞬間、ミルティーユに手首を摑まれて、をビクッと震わせた。

その反応を見て、ミルティーユは言葉を続ける。

「いいこと、ユリウス? 恐怖癥のあんたとまともに付き合ってくれるようななんて、アニスくらいしかいないわ」

「そうだな……」

ユリウスはそう返して項垂れた。

ユリウスの質を否定せず、時には守ろうとしてくれたアニス。

このを知ったはユリウスに幻滅して離れるか、「慣れれば平気になるはず」と過剰なスキンシップをとるようになるかのどちらかだった。

きっと、アニスのようなはこの先現れることはない。

「お父様に聞いたわよ。アニスのことで、新聞社に抗議に行ったんですってね。以前のあんたなら、相手のが世間でどんなに悪く言われても、何もしなかったのに」

「……」

「そのくらいアニスが大事なんでしょ!? 逃げられたなら、どんな手を使ってでも連れ戻しなさい! そうじゃないと、あんた一生幸せになれないわよ!」

「……だったら、どうすればいい!?」

ミルティーユの手を振りほどきながら、ユリウスは執務室に響き渡るほどの大きな聲を出した。その表は苦渋に満ちている。

「どれだけ探しても、手がかり一つ見つけられないんだぞ! 俺だって……アニスに戻って來てしい……そして謝りたいんだ……」

悲痛な思いを吐しながら、片手で顔を覆うユリウス。

憔悴しきったその姿を目の當たりにし、ミルティーユは「ふふん」と笑みを浮かべた。

「諦めるのはまだ早いわよ。私にいい考えがあるの」

「いい考え……?」

の力を借りるのよ」

自信満々な様子で言うミルティーユに、ユリウスは「ろくでもないことを考えているのでは……」と不安を覚えた。

そしてミルティーユは訝しむユリウスを連れて、オラリア邸の近くにある牧場にやって來た。

牧場主夫婦への挨拶もそこそこに済ませ、高い柵に囲まれたエリアに向かう。

パカラッ、パカラッ。

並みのよい白馬が「ヒヒーン」と啼きながら自由に走り回っている。

「おい、あの馬に何をさせるつもりだ」

「まあ、見てなさいよ」

ミルティーユが懐から取り出したのは、白い布地に薔薇の刺繍がったアニスのハンカチだ。牧場に來る前にマリーに言って、借りたものである。

すると白馬は一目散に駆けて來て、ハンカチの匂いをふんふんと嗅ぎ始めた。

「よしよし。アニスの匂いをしっかりと覚えなさいよ」

白馬の顔をでながらミルティーユが言う。それを見て、ユリウスはハッとした。

「ミルティーユ、お前まさか」

「匂いを辿らせて、アニスの居場所を見つける作戦よ!」

「…………」

本當にろくでもないことを考えていた。ユリウスは呆れた表を浮かべた。

冷ややかな視線を向けられ、ミルティーユは「ちょっと何よ、その目」とむっとした。

「馬の嗅覚は、人の千倍と言われてるわ。しかもこの子は、アニスによく懐いているらしいの。きっとあのを見つけてくれるはずよ!」

「そんなこと出來るわけないだろう! 馬に人探しをさせてなんて聞いたことが……」

ユリウスは、そこで言葉を止めた。

白馬がじっとこちらを見詰めているのだ。「自分に任せてしい」と言うように。

だが今は、他に方法が思いつかない。

藁ならぬ馬にも縋る思いで、ユリウスは白馬に話しかけた。

「頼む……俺をアニスのもとへ導いてくれ!」

「ブルスァ」

ユリウスの期待に応えるように、白馬は気の抜けるような啼き聲を上げた。

    人が読んでいる<【書籍化決定】白い結婚、最高です。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください