《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》74.家族になれなかった

エントランスに向かうと、兵士たちの制止を振り切って、ミルティーユが強引に押しろうとする最中だった。

「本日はお帰りください、ミルティーユ様」

「私に指図するんじゃないわよ!」

「そんなことを仰られましても、困りますよ~」

相手が公爵家の人間だからか、兵士たちも強く出られずに困っている模様。

「ミルティーユ……お前は何のために來たんだ?」

ユリウスが呆れ気味に問いかけると、ミルティーユは「ふんっ」と、腕を組んでそっぽを向いた。

「お父様から家宅捜索の件を聞いて、急いで駆けつけたのよ。こんな大事なこと、何で私に知らせなかったのよ」

「いや、だから何故お前が……」

「私だけ仲間外れなんて、許さないわよ!」

目を吊り上げて、捲し立てるミルティーユ。

その迫力にぽかんとしていると、ミルティーユは私を見るなり骨に顔を顰めた。

「髪もボサボサだし、きったない格好ねぇ。見るに堪えないから、これでも著てなさいな」

そう言って、自分の著ていたボレロを私に押し付けて來る。

「このままでも大丈夫ですから……」と返そうとしたが、け取ってくれないので、お言葉に甘えることにした。

恐る恐る著てみると、彼がつけている香水がふわりと香った。

両親と私を攫った男、そして使用人たちは城の留置場に収容されるとのこと。

皆がっくりと項垂れながら、屋敷から次々と連れ出されていく。

私はその景を靜かに見守っていたが、ふと大事なことを思い出した。

「あ、バレッタ!」

「どうしました、アニス様?」

首を傾げるイーサンに説明すると、彼は「彼のバレッタはどこだ?」と母に問い質した。

母はぶすっとした表で、何も答えようとしない。しかしイーサンに再度問われると、悔しそうな顔でポケットからバレッタを取り出す。

質屋に売られていなくてよかったと思ったのも束の間、母はバレッタを私に投げ付けて來た。

「おっとっと。危ない危ない」

ポワールが難なくキャッチして、「はい」と私に手渡した。

どこも傷付いていないみたいでよかったと、で下ろす。

これを取り返そうという気持ちのおかげで、私は強い心を持ち続けることが出來た。

ありがとうと、謝の気持ちを込めながらバレッタを優しくでていると、

「お前のせいで、ロートリアス家はもうおしまいだ……」

父がくような聲で言い放った。私を睨む目は憎悪に満ちている。

「アニス……私たちをこうして苦しめて、楽しいか?」

「お父様、何を仰って……」

「あんたなんて、何もかもがソフィアに劣るくせに! なのに、どうしてあんただけが幸せになるのよ! こんなの、納得いかないわ……!」

「お母様……」

私への謝罪の言葉は一切ない。それどころか理不盡な怒りや恨みをぶつけてくる姿に、の奧がじくじくと痛む。

私は結局、この人たちの家族になれなかった。

「お前たち……っ」

「ユリウス様」

聲を荒らげようとするユリウスを、私は首を橫に振りながら止めた。

きっと、どんな言葉も両親の心には響かない。

「オラリア公を懐したからといって、いい気になるなよ、アニス! お前のような出來損ないなど、いつか痛い目に──」

バシンッと乾いた音が、父の言葉を遮る。

ミルティーユが、父の右頬に平手打ちを喰らわせたのだ。

そして鬼のような形相でぶ。

「さっきから黙って聞いてれば……それでも人の親なの!?」

「こっ、この小娘、一何を……グフッ」

パァンッ!

二発目のビンタは、左頬に命中した。

「キャーッ! あんた、こんなことをしてただで済むと……ギャフッ」

パァンッ!

母にも、強烈な平手打ちが炸裂する。

だがミルティーユは、まだ気がおさまらないらしく、怒りの矛先を使用人へと向けた。

「こいつらを止めなかったあんたたちも同罪よ!」

そう言って彼らにも平手打ちしようとするので、兵士たちに取り押さえられてしまった。

ミルティーユの暴走ぶりに驚きつつ、私は彼に頭を下げた。

「ミルティーユ様……私のために怒ってくださって、ありがとうございました」

勿論、暴力はいけないことだと思う。

だけど嬉しかったし、ちょっとスッキリもしていたのだ。

「ふんっ。謝してるなら、後でタルトタタンを作りなさいよ。いいわね?」

「タ、タルトタタン?」

「返事!」

「はいっ!」

慌てて返事すると、ユリウスが「いつの間にミルティーユを餌付けしたんだ」と耳打ちしてきた。

私はそんなつもりは全然なかったんだけどなぁ……

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