《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》75.ただいま

「タルトタタンのこと、忘れるんじゃないわよ」と念を押して、ミルティーユはエシュット邸に帰って行った。

私たちも騎士団が用意した馬車で、屋敷に帰ることになった。

「私はあっちに乗るね~」

ポワールはそう言って、イーサンと同じ馬車に乗り込んだ。もしかしたら、私とユリウスに気を遣ったかもしれない。

私たち夫婦を乗せた馬車は、緩やかに走り始めた。

「…………」

「…………」

では暫く沈黙が続いていた。改めて二人きりになると、會話が中々思いつかない。

気まずさをじていると、ユリウスが私をじっと見據えながら口を開いた。

「……アニス、以前はすまなかった。私はあの時、君を守ることばかり考えて、君の心を理解しようとしていなかった」

「そ、そんな、謝らないでください。私こそ、ユリウス様には酷いことをたくさん言ってしまいました。本當に……申し訳ありませんでした」

「いや、悪いのは私だ」

「いいえ。私の方が……」

そこまで言いかけて、私はユリウスと顔を見合わせて笑った。

私たちは、どうしてこんなことで言い合いをしているのだろう。

「……だが、互いに謝ることが出來たんだ。これで仲直りだな」

「はい。そうですね」

「これからもよろしく頼む」

穏やかな笑みを浮かべながら、ユリウスが私に手を差し出す。

……まさか恐怖癥が治った?

彼の手を恐る恐る握ってみる。

するとユリウスは目をカッと見開き、全をガタガタと震わせ始めた。

あ、これはいけません。

私が慌てて手を離すと、震えの止まったユリウスは、切なそうな顔で私に謝った。

「すまない……」

やっぱり恐怖癥を克服するためには、まだまだ時間がかかりそうだ。

數時間後、馬車はオラリア邸に到著した。

たった半月ほど離れていただけなのに、不思議と懐かしさが込み上げてくる。

そして屋敷の前では、マリーが私たちを待っていた。

「おかえりなさいませ、アニス様」

私が馬車から降りると、マリーはいつもと変わらない様子でお辭儀をした。

しかし彼が顔を上げると、その瞳はいつの間にか潤んでいた。

「本當に……ご無事でよかった……」

マリーは聲を震わせながら呟くと、私を優しく抱き締めた。

の言葉と溫に、私も目頭が熱くなっていく。

「ただいま、マリーさん……っ」

涙が雨のようにあふれては、流れ落ちる。

私は家族を失ってしまったが、決して一人ぼっちじゃない。

ユリウスやマリー、ポワールが傍にいる。オラリア家の使用人も、とても優しい人たちだ。

だからどんなに辛くても、悲しくてもきっと乗り越えられる。私はそう信じている。

「……あれ?」

今、一瞬目眩がしたような……気のせいかな。

マリーが「どうなさいました?」と、私の顔を覗き込んだ時だった。

ぐわぁんと激しい目眩に襲われて、思わずその場に座り込んでしまった。

目の前がチカチカして、気も遠くなっていく……

「アニス!」「アニス様!」

ユリウスとマリーが慌てた聲で私を呼ぶ。

「す、すみません……何でも、ありませんから……」

何とか立ち上がろうとするが、私は結局そのまま意識を失ったのだった。

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