《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》78.さみしがり屋さん
二人で話し合った結果、聖アリティラ教會で式を執り行うことになった。
この教會は、八百年前に建てられた歴史的建造。
天井付近にある巨大な円形のステンドグラスは、荘厳なしさを放っていて、それを一目見ようと多くの人々が集まる観名所でもある。
そんなすごい場所で、式を挙げるの……?
そう考えると、今から張してきた。
「次はドレスだな。最高の職人を手配しよう!」
ユリウスの方は依然としてテンションが高く、弾んだ聲で話しかけてくる。
一何が、彼をここまで高揚させているのだろう。
「……どうした、アニス? 何か考え事か?」
「あ、いえ……すみません、しぼんやりしていました」
ハッと我に返って謝ると、ユリウスは眉を寄せて私から目を逸らした。
そして、目元をほんのり赤く染めながら言う。
「……すまない。どうやら私はし浮かれているようだな」
「しどころか、かなり浮かれていますねぇ……」
「うっ」
ユリウスの目元が更に赤くなった。
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その姿に、私のがときめく。頭をでてあげたくなるような……これが母本能なのかな。
「ですが……私はそんなユリウス様が好きですよ」
「!」
「子供みたいで可いです」
「こ、子供? そうか……」
途端、捨てられた仔犬のような顔をしたユリウスを見て、私は自分の失言に気づいた。
公爵家の當主を子供扱いするなんて、何てことを。
「す、すみません! 私ったらつい……」
「いや、大したことじゃない」
慌てて謝る私に、ユリウスは笑ってそう言ってくれたが、その後もどこか落ち込んだ様子だった。
「うーん。ユリウス様は怒ったわけじゃないと思うけどなぁ」
「そうでしょうか……」
「まあ、フレイは気にしなくていいよ~」
ポワールとそんな話をしながら、私はオラリア邸の近くにある牧場に向かっていた。ユリウスとマリーに馬を貸してくれたお禮をするためだ。
ポワールは拐事件の後、私の護衛を務めることになった。なので外出する時は、必ず一緒に出かけている。
レグラン家で暮らしていた頃は、を習っていたそうな。マリー曰く、並みの兵士よりも強いとのこと。
「おお。久しぶりだな、お嬢ちゃん」
牧場では、牧場主が羊の刈りをしていた。スリムになった羊たちがのんびり散歩している。
「先日はありがとうございました。こちらはそのお禮です」
私はバスケットにったお菓子を牧場主に渡した。
「こりゃ何だい?」
「ブランデーケーキです。パウンドケーキにブランデーをたっぷり染み込ませてさせたもので、しっとりしていてとっても味しいんですよ」
「おぉ~! 俺もカミさんも酒好きでね。こいつぁありがたい」
大喜びの牧場主。しかしふと何かを思い出したらしく、暗い表を浮かべた。
「……お嬢ちゃんに頼みがあるんだ。うちの白いのに會ってくれねぇか?」
「白いのって……あのお馬さんのことですか?」
「ああ。ここ最近元気がなくてよ。餌もろくに食わねぇし、全然走らなくなっちまったんだ。病気かと思って獣醫に診てもらっても、原因が分からなくてなぁ……」
「そんな……」
「あいつも、お嬢ちゃんの顔見たらしは元気になるかもしれねぇ」
あんなに元気な子だったのに、どうしたのかな。
私は廄舎へと急いだ。するとそこには、腳を折り畳んで床に座る白馬の姿があった。
確かに何だかしょんぼりしているような……
「ヒヒーンッ!」
「えっ」
白馬は私を見るなり、すくっと立ち上がって高らかにいなないた。
私が人參を口元に差し出すと、勢いよく食べ始める。あっという間に完食すると、「ブルルル」とおかわりまで要求してきた。
その様子を見たポワールが言う。
「すごく元気じゃん」
「元気だなぁ……」
これには牧場主も、訝しげに首を傾げている。
「こいつ、単にお嬢ちゃんに會えなくて寂しがってただけか……?」
確かに白馬は、嬉しそうに私に顔をり寄せている。
まさかこんなに懐かれているとは……
よしよしと鼻の頭をでていると、ポワールが「そうだ!」と手をポンと叩いた。
「うちの屋敷で飼っちゃおうか~。そうすれば、この子も毎日フレイに會えるから寂しくないよ」
「えっ、この馬鹿もらってくれるんかい?」
目を丸くする牧場主に、私はし考えてから頭を下げた。
「是非引き取らせてください。……この子は私を助けてくれたんです」
もし彼がいなかったら、今も檻の中に閉じ込められていたかもしれないのだ。
私が「あなた、うちに來る?」と尋ねると、白馬はどこか嬉しそうに「ブルブル」と返事をしてくれた。
ユリウスも「彼には隨分と世話になったからな」と快く承諾したので、白馬はオラリア家で飼うことになった。
パカラッ、パカラッ。
元気な足音を響かせながら、屋敷にやって來た白馬。ポワールが、彼の名前を決めることになったのだけれど。
「ビシソワーズかマッシュポテトにしよう」
「ヒィーンッ!」
「えぇ~、味しそうでいいと思ったんだけどなぁ」
どうやら白馬にダメ出しを食らって、中々決まらない様子。
その一方で私とユリウスの結婚式の準備は順調に進んでいき、ついに當日を迎えたのだった。
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