《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》ポワールの小話(後)

ユリウス様の結婚相手は、ロートリアス男爵家のアニス様。

だけどの末に結ばれたわけじゃなくて、契約結婚みたいなものらしい。アニス様を妻としてすることはないって、宣言したそうな。

アニス様はそれを承諾して、メイドとして働かせてしいと要求した変わり者だった。ユリウス様も、あっさり許可しちゃったんだって。

そして同じ時期に雇われたフレイこそが、アニス様だった。

私がそのことをマリー様に教えてもらったのは、フレイが廚房の擔當になってからのこと。

「いいですか、ポワールさん。あなたにはアニス様のサポートをしてもらいます」

「うーん……サポートですかぁ……?」

「何か問題でもありますか?」

「私、なんにもすることないと思います」

アニス様は、何でもこなせる超人メイドだった。新人とは思えない完璧っぷりに、使用人たちも「すごい人が來た」ってざわついていた。

私が手伝うことなんて何もなかったし、手作りのお菓子を食べさせてもらっていたぐらいだ。

「ん~っ! このタルト甘酸っぱくて味しい!」

「ありがとうございます。もしよかったら、おかわりもどうぞ」

「うん! ありがと、フレイ!」

アニス様の作るお菓子は、どれもすごく味しい。甘さ控えめで、いくらでも食べられちゃう。

私が味しいって言うと、アニス様は嬉しそうに微笑む。その笑顔を見ると、優しいお姉様が出來たみたいな気持ちになる。

そうしているうちに私は、アニス様のことが大好きになっていた。だから「この人の役に立ちたい」って思うようになった。

マリー様にそのことを話すと、

「あなたの気持ちはよく分かりました。ではアニス様の振りをして、私と歩いてください」

「えっ、何で?」

「アニス様がフレイであると、使用人たちに悟られるのを防ぐためです」

「なるほど~」

「先に言っておきますが、逆に疑われないように気をつけてください。もし、やらかしたら……分かっていますね?」

「はぃぃぃっ!」

そうして私は時々、アニス様の変裝をして屋敷の中や庭園を歩くようになった。

「……もっと優雅に歩きなさい。アニス様の歩幅はもっと小さいですよ」

「すみませぇん……!」

「今度は小さすぎます。それでは不自然ですよ」

マリー様のスパルタ教育再び。

そしてこの頃になると、私は一日の仕事が終わった後、ユリウス様に聲をかけられるようになった。

「ポワール、アニスの様子はどうだ?」

「今日も元気にお仕事されてましたよ~」

「そうか。これからも、彼を見守ってくれ」

こんな風に、アニス様のことを聞いてくるのだ。

心配なら本人に直接聞けばいいのに。ユリウス様って意外と照れ屋さんだったんだなぁ……

せっかくいいじになりかけていたら、ミルティーユ様が押しかけてくるようになっちゃった。

すごく人なんだけど、私に負けず劣らずの自由奔放なお嬢様!

そんなミルティーユ様も、いつの間にかアニス様に餌づけされた模様。まあ、気が強いだけで悪い人じゃないんだけどね。だからアニス様が拐された時には、ロートリアス男爵夫妻に本気でぶち切れていた。

あの人たちがアニス様にしたことは、絶対に許されることじゃない。私だってロートリアス男爵夫妻をぶん毆ってやりたかったし。

だけどアニス様は、自分に暴言を吐いてくる両親を辛そうな顔で見詰めるだけだった。いっぱい言いたいこともあったはずなのに、それをぐっと堪えていた。

優しいだけじゃなくて、強い。でも可哀想な人だと思った。

だからこそアニス様には幸せになってしかったし、ユリウス様が結婚式を挙げるって聞いた時は、本當に嬉しかった。

だがしかーし、その結婚式で大事件が起こってしまったのだ!

「待つんだ、ユリウスっ! ユリウスゥゥゥ~~~~っ!」

ユリウス様のダイナミック逃走劇の後、エシュット公爵は膝から崩れ落ちた。

私の隣では、マリー様が「ここのステンドグラス、綺麗ですね」って現実逃避していた。

こ、これって、馬を連れて來たからって、私が悪いわけじゃないよね!? だって新郎が馬に乗って逃げ出すなんて、普通思わないじゃん……!

だけど、こんなカオスな狀況の中で、アニス様は微笑んでいた。「もう仕方ないんだから」というじで。

キスの一つも出來ないヘタレウス様を心からせる人なんて、きっとこの人ぐらいなんだろうなぁ。

だからね、ユリウス様。アニス様を幸せにしなかったら、私ものすごく怒りますよ!

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