《疑似転生記》敵前逃亡

メイリーは前世の記憶が無いのでどうだったか知らないが、この世界に來てからはこれと言った挫折を知らない。旋風狼、暴風狼、雷虎と自分よりも強い魔獣たちと戦い、楽な戦いでは無かったが全部討伐している。そのためメイリーは今回、初めて挫折を経験する。

迷宮探索は順調に進んでいた。メイリーは満足出來ていなかったが、2ヶ月という猶予期間を貰いながら2週間程度で迷宮の最奧まで辿り著いてしまったのだ。迷宮も半分を過ぎた頃から中型の魔獣の出現が増えだし、メイリーも苦戦すると思っていたのだがそう言えば、今回の目的は迷宮主の寶竜、ついでに『寶珠』であるので、無理に魔獣たちを狩る必要は無いことに思い至った。

(寶竜を倒して時間があったら詳しく探索しよう。)

と言うことでメイリーは魔獣を迂回しつつ進むことにした。偶に遭遇する魔獣とは戦うが、空間把握でいち早く魔獣を発見でき転移などで高速移が可能なメイリーが會わないように心掛けたことで、魔獣との遭遇率は大幅に減した。30階層を過ぎた辺りから大型魔獣と思われる魔獣も出現しだした。メイリーの『鑑定眼』を用いても、詳しく鑑定出來ない事からメイリーと同等以上の強さを誇るのだろう。しかし雷虎より強いとも思えなかったので今回はスルーして先に進んでいった。

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今までは魔獣に勝負を仕掛けていった節があったメイリーだったが、それを止め無駄な戦闘を避け始めたことで探索速度が、難易度が上がっても維持できたため、攻略開始2週間足らずで寶竜がいる筈の大部屋に到著したのだった。

(さて、ボス部屋だ。行ってみるか。)

メイリーは躊躇無く寶竜が待つ大部屋にっていった。そうすると案の定というか、予定通り寶竜が佇んでいた。

「ガァァオォォーー」

そんな寶竜はメイリーを見つけた瞬間、咆哮をあげメイリーに飛び掛かってくる。そんな寶竜を相手にメイリーは焦ること無く空間魔法で寶竜の死角に移し、魔法を放って応戦する。

「『焔の槍よ、敵を穿ち、燃やし盡くせ』」

雷虎を屠ってみせたメイリーの最高火力の魔法である。が大きくそこまで俊敏でない寶竜にこの槍は回避できない。流石にこれで倒せるとは思っていないがダメージは與えられる。そう思っていた。

「グラァァァ!」

(寶玉?寶珠?知らないけど、が発した?)

避けられないことを悟った寶竜が自発的に行ったのか、魔法の接近により自的に発したのか知らないが、寶竜に埋め込まれた寶珠の幾つかが輝き出す。するとメイリーが放った焔槍の火力がみるみると衰えていく。そして弱々しい火槍となり寶竜に當たる。そんな攻撃では傷1つ付いていないし、勿論ダメージなど負った様子もない。

(まずいな。一応、あれって今の私の最高火力なんだけどな。あれが通用しないってことは倒せないんじゃ?いやまだだな。)

メイリーはしょうがないので、魔法が弱まった謎を検証してみることにした。魔法矢、巖石砲、水弾、風刃、暴風。メイリーが使える攻撃魔法を殆ど試してみた。しかし全ての魔法で有効なダメージを與えられはしなかった。ただし、1つ魔法弱化についてわかったことがある。それはこの現象は寶竜の任意発であり、寶竜の発速度を上回れば魔法を弱化されないという事であった。しかし問題はそこであった。

(魔法が弱化されて無くても殆ど攻撃が通用してない。はっきり言って無理だな。長期戦を仕掛ける手もあるけど、はっきり言ってそっちの方が私にとって不利か。)

「ガァァオォォグァァー!」

「『距離よ、め』」

寶竜の攻撃、広範囲かつ高火力のブレス。防ぐのも簡単ではなく、回避するには空間魔法しか不可能。魔力がどんどん減っていくのをじる。これに加えて攻撃魔法を使って戦えばすぐに魔力が枯渇するだろう。

(ブレスに當たるだけでほぼ即死。無理だな逃げよう。)

「『次元の扉を開き、我よ、帰還せよ』」

メイリーは迷宮り口に転移することにした。これがメイリー初めての敵前逃亡であった。

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