世界は戦爭で満ちていた。我が祖國帝國は領土を増やす為に侵攻を繰り返す。その度に教會へと招集が掛かる。教會にて修道、聖としてのお努めよりも『帝醫隊』としての役目の方が多くなった気がする。

(______其れもその筈か。)

天界から奇跡が授けられてから異常な迄の回復速度を誇る『回復の奇跡』を習得したのだ。上位の回復魔を遙かに上回る能、そして過剰回復を可能とする迄の回復速度。過剰回復は相手に一定以上のヒーリングをかけ生組織を破壊する奇跡にのみ許された最強の攻撃治療。そして奇跡には仲間に対し強化を與えたり、邪悪なる者（亡霊、死霊など）を討ち亡ぼす加護の付與も可能としている。

「奇跡よ、我が祖國に永遠なる勝利を」

味方の兵士たちの筋を活化させる奇跡による治療。

「聖様の加護だ！」

兵士たちの士気が高まる。自分が戦爭の道にされている事は理解している。だが、それでいい。

（私が早急に國へと勝利を導く事が出來れば戦爭の被害者は減り、平和な世界へと一歩近づく。）

修業の期間も含め、１０年と言う日々を聖として過ごして來た。厳しく過酷な鍛錬、戦場、教養、全てを高水準でこなし認めらるまでの存在になることは大変な道程であった。齢１５。町娘はにうつつを抜かしている年頃だろう。化粧も覚え友人と楽しく街を歩き買いをしている筈だ。

「怪我をした兵士たちの治療に移ります。」

しかし私にはその様な時間はない。聖として、その役目を果たさなけばならない。

「流石だよな、聖様は。」

「えぇ、いつも凜々しく民の為に働くお姿は尊敬に値しますわぁ！」

「俺達には聖様がついてる！」

王宮、帝醫隊、騎士隊、民衆、教會からの期待を背負って生きている。私は人を救う為に存在する『聖』。善行を推奨し民を正す清き導き手。數多の悪行を斷罪し帝國を大陸の規律とする為にき続ける。

「聖様、公國の軍勢が帝國領へと進軍していると國境騎士隊から伝令が。」

「國境の守備は破られたのですね。」

帝國領は大陸の中心に存在する。北に公國、東に京國、西に法國、南に王國。戦爭は常に帝國領國境にて始まる。帝國領は他國の領土拡大の要とは言え、やはり帝國側の消耗が激しい。

「騎士団長に言伝をお願いします______」

『聖』自らが戦場に立ち、戦爭を早期に終わらせる。被害を最小にするには其れが一番適した選択だろう。

「______直ちに騎士団の遠征を取り止め、『聖』自らが赴くとお伝えなさい。」

神父に言伝を伝えると直ぐに教會の祭壇に掛けてある杖を取り、付き人である【シアリーズ】と共に馬車へと乗り込む。

「せ、聖様、本當に私達だけで宜しいのでしょうか？」

「構いません。帝醫隊に置いて戦闘能力では私に次ぎ貴方は高水準にあるではありませんか。それに貴方自は戦わなくとも良いのですよ、シアリーズ。とは言え、私が死ねば次代の聖は貴になるかもしれません。故に『私』と言う聖の存在を目に焼き付け學びなさい。」

「は、はい！！」

シアリーズは尊敬とした眼差しで一回り離れた若き聖を敬眼する。

(さて、この無益な爭いを収めに行きましょう)

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「既に我らが軍勢は帝國領の防衛を壊し帝都へと進んでいる。我らに恐れるものはない。」

「いや、不確定要素はある。帝國に新たな聖が誕生したと報告がっているのは知っているな？」

「聖など癒やす事しか出來ぬ修道であろう？何を恐れる必要がある。」

「お前は文獻や過去の歴史に目を通した事がないのか？聖とは勇気ある者に対する存在。それが凡百なシスター風に収まる訳がなからう。」

「しかし、最後に聖が誕生したのは既に百年以上も前の話だ。噂に尾ひれがついたに過ぎんだろう。」

「だがな.....軍師としての、と言うのか........聖の存在が気が気で収まらんのだ。」

「なに心配する事はないさ。此度の遠征に置いて、公王は我が國が三英傑である二方を戦力として投なされたのだ。この戦の勝利は揺るがんよ。」

公國領土拡大の為、公王は自らの側近である三英傑のの二人を侵略作戦に參戦させたのである。三英傑は『力』『技』『速』に別れた一騎當千の力を備えており、此度の戦では『力』と『速』が前線にて暴れる。

「「ガハハハ！！帝國の兵士はこの程度かっ！！」」

『力』の英傑【ヴァータ】は巨大な軀と共に両手に持つ巨大斧二対で帝國兵を躙していく。

「余りはしゃがないでもらえるかしら。公國の品が疑われるわ」

己の長と同等の長さを持つ長剣を握り目にも止まらぬ速さで帝國兵を切り刻んでいく『速』の英傑【ヴュール】。

「とは言え貴方の言う通り、なんだか味気ないわね。帝國の騎士団長や副団長は出張っては來ていないようだし.........」

あらかた帝國兵を片付けたヴァータとヴュールは周りを見渡す。數百人以上の帝國國境騎士団の死が一と出來るが、それらを無視して公國軍は進軍する。

「ヴァータ様、前方より一臺の馬車が此方に向かって來ております。以下が致しますか？」

自軍の兵士から報告をけヴァータはニッと笑いヴュールへと視線を向ける。

「じるか？」

「えぇ......凄い聖気。ヴァータ、これって公王様が仰っていた__________」

『聖』としか考えられない。ヴュールは冷や汗を流す。かなり離れた場所に馬車はいると言うのに己のにれるかのように彼の聖気をじ取れた。

「___________私は今代に置ける『聖』。無益なを流したくなくば投降しなさい。」

馬車から優雅に降り一禮をする聖は第一聲にそう言った。

「はっ！小娘が生意気言ってんじゃねぇーよ。てめぇーさんは見えてないのかい、今の狀況が？」

ヴァータはくくくと笑いながらニ対の斧を構える。

「三英傑である我ら二人、そして後ろには數千と言う公國の同胞がいる。聖とは言え、貴方に何が出來るのかしら？」

ヴュールもまた長と同等の長さを誇る長剣を鞘から抜き戦闘態勢へと移る。

「愚かな........」

聖は落膽とした様子で此方へと杖を掲げる。

「神が差しべた手を振り払うのですね。致し方ありません__________」

曇り空だった空からが地上をゆっくりと照らし出す。

「_____________貴方方には此処で死んでもらいます。」

そしてが聖に當てられると、慈しむような微笑を浮かべ杖を左右へと演舞を踴るように振るった。

「何を言って.....っ！」

英傑達の後ろに控えていた數千の公國兵が突如としてしぶきを上げ苦しみ聲を上げる。

「一何が起きて.................ヴァータ！直ぐに魔力で外に防壁を張りなさい！！！」

「お、おう！」

ヴュールは即座に現狀の異変を理解し、ヴァータへと警告を促す。そして間もなくして英傑達を除く公國兵達はその場にて絶命した。その間10秒と立たない出來事であったと言う。

「さ.....流石です、聖様ッ！！」

シアリーズは興した様子で聖の常人離れとした異能に嘆の聲を上げた。

「聖としての奇跡を見せるのは初めてでしたね、シアリーズ。聖職者、又は帝醫隊と言うのはやはり祈りや回復と言った後衛の立ち位置ですから、前線で戦う剣や槍を持つ兵士からは侮られがちなのです。ですが、『聖』はその縛りにとらわれません。何故なら________」

巨漢であり公國三英傑の一人である【ヴァータ】の攻撃を杖と片手で軽々とけ止める。

「ば、馬鹿な........」

二振りの巨大斧による攻撃を軽々と止められ驚愕の表を見せるヴァータ。

「_________祝福の奇跡を己に掛けてしまえば、素の狀態の何倍にもは強化されることになります。」

祝福の奇跡は通常、仲間に対して掛ける強化の奇跡。範囲は最大で千人と軍略向きであり、通常の1.5から2倍程の強化を促す。しかし、その効力を己に掛ければ通常以上に跳ね上がる。

「ふ、ふざけないで！そんな事をすれば貴方のが持たず崩壊する筈よ！」

確かに常人がすればそうなるのは當たり前だろう。だが、己のは聖。

「崩壊する以前に回復し続けてしまえば良いだけの話でしょう？」

常時、己のには回復の奇跡を施している。怪我をすれば數秒と治り、病には掛からない。『聖』を殺すには首を斷つか心臓を一撃の元破壊しなければ倒せないだろう。

「奇跡を複合して行使できるって言うの！！この化けがっ！！！」

ヴィーユが駆け出し、長の細剣をディアーナ目掛け振るう。その速度は決して一兵士が捉えられる速度ではなく、上位の騎士団とて完全に防ぎきることは出來ず致命傷を負うほどの一撃だ。

「_____________過剰回復《ヒーリング・オーバフロウ》」

ヴィーユの利き腕が突如として弾け飛ぶ。

「うぐぁああああああ！！！」

(全に.......魔力の......防壁を張って居たはずなのに......なんで)

長剣は地面に突き刺さり、ヴィーユはその場にて足をつく。

「ヴィーユ.....くっ、三方連斬《スリースラッシュ》！！！」

摑まれていない方の巨大斧でヴァータは己の最大武技魔法を使用するが______

「無駄ですよ？」

______３方向同時攻撃である三方連斬は杖で軽々と弾かれた。

「公國の三英傑もこの程度ですか。」

そして最後に見た景は己のが四散し、視界が空中を舞ったところまでだった。

ドサ

ヴィーユの前へとヴァータの頭が転がる。

「ヴァータ........」

「公國に戻り公王に報告なさいな。次に侵略行為を犯した場合は教會の元、貴方方全ての民を斷罪すると。」

ヴィーユの腕へと治療を掛け、馬車へと戻る聖。

「お疲れ様です、聖様。」

「帝都での公務が殘っております。帰りますよ、シアリーズ。」

「はい！」

シアリーズは聖が馬車に乗るのを確認すると馬を出す。

（我々が手も足も出なかった......例えこの場に【技の英傑】がいたとしても恐らくあの聖には拮抗できない）

ヴィーユは聖の馬車がその場から見えなくなるまで視線を離さなかった。

「公王に....報告しなければ...........」