《悪魔の証明 R2》第40話 029 ミリア・リットナー(2)

「――もう、ちゃんとしてよね。もうすぐクレアスは二十九歳でしょ。いつでもどこでも寢て、恥ずかしいとは思わないの? しかも、これはデートなの、デート。その大事なデートで寢る男なんて最低なのだけれど」

と、思わず小言を口にしてしまった。

「そうだな、ミリア。そう思うし、最悪だとも思う」クレアスは悪びれずに即答した。「けどな、ミリア」

「何?」

私は先を促した。

「ほら、何だっけ――天地教授だったか。彼がこっちを見ているぞ」

言われた瞬間、はっと私は壇上にいる天地へと顔を向けた。

だが、クレアスの言葉とは違い天地はテーブルの上にサイズの大きいカードを置いている最中だった。

「ふふ、冗談だよ、冗談」

そう言って、クレアスは屈託なく笑う。

もう、と腹を立てながらも、図らずも私の顔にも笑みが浮かぶ。

本當に不思議な人だ。おそらく男からもからも好かれるタイプの人間。そう、の方からは特に。

何にせよ、彼に寄ってくる外敵には気をつけなければならない。

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そう深く決意してから、私はステージへと再び目を移した。

ステージの上では、天地がスピキオを後ろに振り向かせている最中だった。

白い仮面はぼーっと突っ立っているだけで、特段何かする素振りはない。天地にトリックを仕掛けるのであれば今のだとは思うが、単に言われるがまま行しているように見える。

そう思いはしたけれど、観察を怠ることはできない。

今日せっかくアキハバラステートセンターに出向いてきた意味がなくなってしまう。

スピキオのが完全に裏返ったのを確認すると、今度はステージの前へと自らのを持っていく。

「では、これから行う超能力テストの検証方法を説明します」

ステージの前へと自らのい、天地はそう宣言した。

説明の容は、カードの中を観客に見せてスピキオが超能力でそれを當てることができるかどうかを検証するという誰でも思いつくような至極簡単なものだった。

天地の話し方はテキパキとした口調だった。

臺詞を読みあげていく様は、ブツブツと何を言っているか良くわからない大學教授が多い昨今、なかなか好が持てるとはいえる。

し彼の人となりを怪しんだが、掲示板の報は確かなのかもしれない。

この対戦に先立ち、インターネットで天地の報を収集した。

格や行に難があったりすると、いくらトゥルーマン教団と敵対する私とて、応援する気がなくなってしまうからだ。

ネットの掲示板には、普段の天地は腰のらかい人間で生徒に人気のある教授だというような、聖トウキョウ國際大學に通う生徒の書き込みとみられるコメントが、多數散見された。

実際に見る天地は白を著込んでいるせいだろうか、し神経質な男に見える。

年齢は四十五歳。型自はスリムだが、彼の細長く常に難しい表をしている顔は誰もが想像する堅の大學教授まさにそのままだ。

さらによく見ると彼の頭はし禿げあがっていた。

弁は立つようだが、生徒に人気のあるタイプの教授には到底思えない。

クレアスもそう思ったのか、「なあ、ミリアのところの先生も、あんなタイプの人なのか」と尋ねてきた。

「違うわ。神経質そうなところは同じだけれど、レイ先生はでクレアスと同い年の二十八歳。すごく人よ」

し語気を荒げて否定した。

別に天地に対し含みがある訳ではない。

私は現在、國立帝都大學というトウキョウ舊市街に程近い大學へ通っており、その大學が持つ研究所――超常現象懐疑論研究所第六研究室のゼミを講している。

そのゼミを主催している教授レイ・トウジョウが、私のいうレイ先生だ。

レイは姉、私は兄と別は違うが、ふたりとも連絡を取り合っていない親がいる。そのように境遇が似ていることもあってか、レイとは先生、生徒の間を超えた絆がある。

がどう思っているのかは知らないが、なくとも私の方はそう思っていた。

だから、天地の人間となりは知らないが、そのようなほとんど知らない人間とレイをあまり比べられたくはない。

それが私の素直な気持ちだ。

「おい、ミリア怒るなよ。悪かったというか――もう何か始まるみたいだし」

とクレアスが謝罪なのか、何なのかよくわからない臺詞を吐く。

「それにさっき気になったんだけど、ミリアは他の男とデートしたことがあるのか?」

「いきなり、何?」

「だって、デートで寢る男は最低とか言っていたじゃないか。これは他にもデートの最中に寢ていた男がいるってことだろ?」

「……そんなのいるわけないじゃない」

意図するところが良くわからず、妙な態度で言葉を返してしまった。

「うん、そうだよな。知ってたよ」

と言って、クレアスはにこりと頬に笑みを浮かべる。

なるほど。話を逸らそうとして、この會話に持っていったというわけか。

一連の経緯からそう推察した私は、鼻息を荒くした。

もう、そんなのに誤魔化されないんだから。他のは騙せても、このミリア・リットナーは騙されないぞ。

と思いはしたが、簡単に許してしまう。

脳は否定するが、やはり心は正直なのだと思う。

まあ、怒った理由も理由だしね。

と気を取り直して、顔をまたステージへ持っていく。

すると、白い仮面、能面、デスマスクと、何にでも形容できそうな仮面を被った男、スピキオが私の瞳に映った。

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