《悪魔の証明 R2》第42話 030 ミリア・リットナー(1)

今日の本題は決して天地を見に來たことではない。

目的のその主はただひとつ。

自分の敬する教授レイに命じられたスピキオの偵察だ。

つまり、スピキオがどのように勝つのかが私の知るべきことであり、天地が彼をどのように追いつめるかのようなことばかり注目していても仕方がないということだ。

レイや私たち――第六研と同じ超常現象懐疑論者である天地の応援はそれなりにしているが、私はこの天地がスピキオに勝つことはないと踏んでいた。

スピキオは腐ってもトゥルーマン教団青年活部筆頭の男だ。そう甘くない相手であることは、重々承知している。そんなところまでのぼり詰めた男が、そうやすやすと教団の信用を失墜させるような敗北を喫するわけがない。

天地の口を暴力で封じてでも、勝ちにくるはずだ。

そそくさと天地がカードを用意している間も、スピキオの行をくまなく監視する。

一挙手一投足さえ見逃す気はない。

もちろん、ここまでするのには相応の理由があった。

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幾度となくスピキオは帝都大學に現れて、連れて來たトゥルーマン教団に所屬している自稱超能力者たちを、第六研が主催するサイキック・チャレンジという懸賞金がついた超能力検証テストに挑戦させている。

だが、このデスマスクは未だに自らそのサイキック・チャレンジに挑戦しようとしない。

そして、天地のような超能力懐疑論者との超能力検証においては、超能力――要はマジックの類いを披するが、未だ私たちの前で彼はその手口を見せたことがなかった。

だからこそ、來るべき日――スピキオ自が追い詰められ、サイキック・チャレンジに挑んでくるそのいつかに向けて、このような赤の他人の検証テストに出席しスピキオの報を詳細に調査しなければならないのだ。

「今日はあなたの手口を私が必ず見破ってやるわ」

そのような理由から、思わず力のこもった聲が口かられる。

とはいえ、実はレイから指示をけているのは、検証を観察し事の顛末を報告しろということだけだった。だが、自分の使命がスピキオの手口を解明することだと私は勝手に思い込んでいたのだ。

「いや、勝手にじゃないわ」

と自分の思ったことに突っ込みをれてから、ステージ上のデスマスクに熱い視線を送る。

スピキオは未だ心ここにあらずといったじで、その場に突っ立っているだけに見える。

だにしないそのスピキオの振る舞いは、本當に呼吸をしているのかと思わず疑ってしまう程だった。

直近でやったことといえば、天地の指示通り後ろを向いただけ。後は健闘を祈るポーズを取るためか、天地とお互いに肩を叩きあったくらいだ。どこからどう見ても、事前に何か仕掛けた様子はなかった。

カードの中が示されようとしている現在もそれは同じだ。

「スピキオ。今、私はカードを観客の方々に見せた。君はこの中に何が書かれているかすべて當て、君の言う超常現象、それを起こさなければならない。すなわち私に超能力をやって見せなければならないということだ。果たしてマジック紛いのトリックに通している私を前にして、君にそれはできるのか?」

カードの中を裏返した瞬間、天地がスピキオに最終通告をした。

ごくりと數ない観客たちはそれぞれ息を飲む。

だが、次にそれと相反するかのように聞こえてきたのは、ククッ、という重低音の笑い聲だった。

いきなりスピキオがを正面に向ける。

天地の用意した段取りをすべて無視するかのような行だった。

「……そんなことより、このスピキオともっと面白い話をしましょう。天地先生」

と、何やら意味深な言葉を述べる。

「おい、スピキオ。君は――いったい、何を言っているんだ? ちゃんと契約通り私が用意した検証をけたまえ」

天地がスピキオを睨みつけながら語気を荒げる。

計畫していた超能力検証が事の通りに進まないことを察知したのだろう。

その天地と同様、私も眉をしかめた。

なぜ、いきなりスピキオは超能力の披を止めたのだろうか。

もしかすると、第六研の自分がこの場にいるから、手口を隠蔽しようとしている可能もある。

そんな私の思いや観覧席のざわめきを他に、スピキオは言う。

「結果のわかっているつまらない超能力検証など止めて、もっと面白い話をしましょうと言っているのです。そうですね――例えば、天地教授、あなたについてのお話はいかがですか?」

「な……」

スピキオに問いかけれられた天地は、反論しようともせず何故か聲を失った。

「……それではしお話させて頂きましょう」その反応を無視して、スピキオは言う。「まず初めにですが、天地先生。大変申し上げにくいのですが、あなたは自ら、自分の評価をネット上に書き込んでいらっしゃいますね。無論、現実とはかけ離れた高評価な意見です。いけませんね。ネットでは嫌われますよ、自作自演は」

このスピキオの臺詞を耳にした私は、まさかと思いすぐに天地の顔へと目をやった。

「ス、スピキオ! な、何を拠にそのような虛言を言っているのだ!」

ようやく気を取り戻したのか、天地がステージの上で怒聲をえ反論する。

だが、この天地の反応からすると、スピキオの指摘は當たらずも遠からずといったところなのだろう。

そう訝ってしまうほどの狼狽え振りだった。

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