《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》指揮権放棄とルストの選択

傭兵ギルド支部の2階、いくつかの會議室がある。

その口に番號が振られ、その3番――第3小隊に私はダルムさんとっていく。すると主だった人たちはすでに揃っていた。

「失禮いたします」

きちんと挨拶をしてっていく。基本的なことだが重要だ。元軍人系の職業傭兵の人たちは上下関係とか禮儀とかにうるさい人が多い。傭兵稼業が実力主義だからといって最低限の禮儀すら欠いていると痛い目にあう。

私はできるだけ末席を選んだ。目立たないということもあるが、場の全を見渡せるからだ。

私の隣にダルムさんが座る。2列向かい合わせにレイアウトされた席は埋まった。それにしても――

「すごいメンツ」

私は思わず絶句した。

「すげぇなこりゃ」

ダルムさんがそう言うのは無理はない。なぜなら――

「へぇ、最高齢と最年のご登場じゃねえか」

そう冷やかすのは〝忍び笑い〟ことプロア。半ばふんぞり返るようにして座っているのは、態度がでかいというより、そういう風に人よりし崩れたじで振る舞うことを裝うのがに染み付いているからだろう。

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何と言うか本當に悪い人だったらこんなもんじゃすまないはずだ。

「よろしく」

そうシンプルに挨拶してくるのはパックさん。

この人は本當に禮儀禮節そのものといったような人で、悪ぶったところも、偉ぶったところも、そのどちらも微塵もない。背筋を正しシャンとして椅子に腰掛けていた。

それ以外の人たちは視線を向けてくるだけ。

ゴアズ、バロン、カークと、元軍人の人も揃っている。パックさんほどではないが、こちらもやはり姿勢を正して椅子に腰掛けているのは、規律と規範で日々を送る軍人と言う世界を知ってる人達の姿だ。

その他、駆け出しと思しき二人が居る。

歳の頃は二十歳になったかならないかくらいだろう。傭兵として標準の戦闘ジャケット姿に襟元のネッカチーフ。揃ったじの仕立ての服裝が印象的だ。張しているのか場慣れしていない雰囲気があり傭兵としてのキャリアはまだまだ淺いように思う。

彼らの視線が私の方に向く。息がぴったりと合っていてその仲の良さがよくわかる。右手を振って軽く挨拶すれば、彼らは私に軽く會釈をしてくれた。

そして――

「けっ、小娘か」

そう吐き捨てたのはあのやさぐれ男だった。椅子に対してやや斜めにふんぞり返って座っているのは態度の無駄なデカさとに染み付いた不真面目さの表れだった。

彼が部下になった人は、彼を扱うのに苦労するだろうなと思わずにはいられない。なんでこいつがここに居るのか。

「小娘でもれっきとした2級資格者です」

「ふん、二つ名もねぇくせに」

あたしの反論を彼は鼻で笑う。食い下がっても疲れるだけなので私は無視した。

それにしても、さっきダルムさんが説明してくれた面々がすべて集ったことになる。実力者揃いだが曲者揃い。このメンツをまとめ上げるのは相當骨だろう。正直私はその役目はゴメンだ。

會議室の扉が開く。ミーティングのまとめ役として傭兵ギルドの擔當者が現れる。

「流石に早いな。欠けてるものはいないな?」

私は驚いた。現れたのはギルド支部長のワイアルドさんだったからだ。

「ワイアルド支部長?」

え? なんで? なんで支部長自らご登場なの?

「どうした? 俺が擔當では不服か?」

「いえ、そんな事は」

「ここの擔當予定者が急病で倒れてな、俺が代打でったんだ。さぁ、早速始めようか」

さすがに支部長が直々にまとめてくれるとあって全員即座に引き締まる。まずは點呼。

「名前を呼ぶ。ギダルム・ジーバス準1級」

「はい」

最も資格が上位のダルムさんから名前が呼ばれる。口頭で返事が返され、これを順番に10人ぶん繰り返す。質問と返事がリズミカルに繰り返され、一番最後は3級傭兵のあのサボりのいやみ男だった。

「ルドルス・ノートン3級」

「へーい」

全員が気合よく返事をしたのに最期がしまらない。

「全員揃っているな。さて次に隊長指名だ。辭令にはすでに明記されているはずだが」

支部長が問えばゴアズさんの手が挙がり、思わぬ言葉が出た。

「隊長指名は私です。ですが私では無理です」

「どう言うことだ?」

支部長が怪訝そうにすればダルムさんが言う。

「支部長、ゴアズは指揮権放棄になってませんか?」

「なに? ちょっと待て」

支部長は手元の書類を念に確かめる。特に【】と記された部外の個人経歴報も目を通し始めた。

【指揮権放棄】

職業傭兵は2級以上で指揮権が與えられ、小隊長を拝命することが可能になる。だが様々な事であえて指揮権を放棄している人たちも居る。過去重いペナルティを食らったとか、前歴上何らかの理由で隊長の立場につきたくない人、専門技能に専念したい人などがこれに當たる。

ゴアズさんは事があって軍を辭めた人なので、そのあたりが理由だろう。

だが支部長は書類を確かめていて渋い顔になっていた。

「すまない、事務のチェックミスだ。しかしそうなると――」

支部長は場を一瞥(いちべつ)する。

「2級以上で指揮権が殘っているのは2人しか居ないな」

するとプロアさんが軽口で問う。

「誰です?」

彼が斜に構えて気楽にしているのは隊長を押し付けられる可能がない3級だからだ。支部長は答える。

「ギダルム準1級と――」

支部長の顔が私に向かう。

「エルスト2級だ」

「へ?」

想定外の狀況に、私は思わず間抜けな聲を出してしまった。今の私を囲む狀況が一気にシビアになった。

「他の2級職はゴアズ・カークが放棄、バロンは凍結となっている。殘る2人のどちらかにやってもらうしか無いな」

そりゃそうだろう。今から部隊を再編する余裕はない。でもたしかダルムさんって……

「支部長、俺は勘弁してください。俺の歳、知ってるでしょう?」

「わかってる。君に押し付けるほど厚顔じゃない」

待って待って、ちょっとまって。私は心、滝のように汗をかき始めた。

「エルスト2級、君という事になる」

待って! ちょっとまって! なんで!?

「わた、わたし――ですか?」

私は慌てふためいた。だってそうでしょう? このメンツよ?! 一癖二癖とか言うレベルじゃない、だいいちこれだけの大規模任務自が経験が淺い。

だが、場を面白がってわざと逃げ道を塞ぐやつが居る。

「いいじゃねえの? 17歳、最年隊長ってのも悪くねえぜ?」

軽口を叩くのはプロアの馬鹿だった。おのれ覚えてろよ! さらにパックさんも言う。

「私からも推薦します。私は彼を存じていますが、知恵もあるし武も優れている。彼なら役目を真面目にこなしてくれるでしょう」

お願いやめて。逃げ道塞がないで。私のことを高く買ってくれるのは嬉しいけど。

すると支部長が言う。

「皆の意見は固まっているようだな。では裁決を取る。エルスト2級に小隊長を委ねる事に反対する者」

當然私はそっと手を上げた。そう、私一人だけ。正直言ってバツが悪い。

「反対に彼に賛の者」

殘り全員――ってアレ? 上がった手は8人、ひとり足りない。

「どうした? ダルカーク」

どちらにも手を挙げなかったのはカークさんだった。

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