自分の能力の確認、そして長の仕方の確認を終えたハルは、そこからは戦闘を避けてひたすら黙々と階段を上がっていく。

どれくらいの時間が経過したのかはわからないが、今のハルのでも疲労が蓄積してきたとじてきた頃に階段が終わりを迎え、通路のような場所へと出た。

途中分かれ道があったが、右手を壁にあててそれに従って進んでいくと途中で空気が変わったことに気づく。

「もしかして……外か？」

窟の中獨特のよどんだ空気が、外からって來る新鮮な空気へと変化している。

ドクドクと高鳴る鼓に背中を押されるようにはやる気持ちを抑えることができず、歩きから早足へ、早足から小走りへ――小走りから全力疾走へと徐々に速度をあげて空気が流れてくる方向へとハルは突き進んでいく。

「っはあはあ……」

疲れたに鞭打ってなんとか足をかし続ける。

空気だけでなく、外からのがってきているのか窟が次第に明るくなってきているのをじた。

そして、最後の曲がり角を曲がった先。

「外だ！」

眩いまでの太のに目がくらんで一瞬目元に手をかざすハル。

そこはもう完全に外へ繋がっており、ついにハルは窟から出することに功した。

「やった！　……えええええぇえええぇぇええ！？」

激の聲を出した次の瞬間、驚きの聲が周囲に響き渡る。

そこは崖の中腹であり、飛び出そうとしたハルは落ちそうになるを全力で止めていた。

見晴らしの良い風景が広がっていたが、足元がししかないことに肝が冷え、ハルは先ほどとは別の意味で心臓が暴れているのをじていた。

「ふっ……ぐっ、はっと、はあはあはあはあ――助かった……」

なんとか後方にを戻してもちをつくことに功したハルは大きく息を吐いて安堵する。

出口と思われた場所から二歩進んだ場所は、足場が無く切り立った崖になっていた。

し強めに吹く風がハルの思考を冷靜なものへと変えていく。

「これは肝が冷えるな……一歩分の幅しかないのか」

そっと覗き込むように改めて外を見ると、なんとか壁沿いに張り付いて移すれば、崖の上に繋がっていそうだった。

恐怖心はあるが、覚悟を決めたハルは壁に張り付きながら移していく。

「慎重に、慎重に、ゆっくりと、ゆっくりと……」

自分に言い聞かせながら、ハルは慎重に壁をつたって登って行く。

移速度が極端に遅いため、崖から上がることができたのはそれから數時間経過したのちの話だった。

疲れ果てたハルだったが、なんとか街に戻ることに功した。

「ふう、やっと戻ってこられた……」

疲れたに鞭打って冒険者ギルドへと向かうハルだったが、すれ違う冒険者たちが驚いた表でハルのことを見ていることに気づく。ハルの顔を見るとひそひそと聲を潛めて何やら喋っているようだったが、普段なら聴き取れるそれも疲労と早くギルドに向かいたい気持ちのせいか彼の耳にはってこなかった。

「――なんだ？」

首をひねりながらも、ハルは冒険者ギルドの建にっていく。

「はっはっは、結構溜め込んでやがったなー」

った瞬間、そんな聲がハルの耳へやけにクリアにってきた。

ハッとしたように聲の主に視線を送ると、それが誰かわかる。

ハルが今回ったパーティのリーダーの聲だった。ハルの荷をニマニマとした表で品定めしている。

「……あぁ、よかった、無事だったのか」

リーダーの男の言に一瞬固まってしまったハルだったが、次の瞬間には安堵をじていた。囮にされたとはいえ、パーティメンバーが無事だったことにハルは思わずほっとしたのだ。

しかし、その思いはパーティメンバーは違ったようだった。

「って、てめえ、生きてやがったのか！」

まるで死人が帰ってきたかのような反応をパーティメンバーが見せる。

歓迎されるまでいかなくとも、ここまで酷い反応をされると思っていなかったため、ハルは再び首をかしげることとなる。

「あ、あの、ハルさん。その、パーティのみなさんがあなたの死亡屆を出されまして、ハルさんがいなくなってから一週間経過したので、屆けを理しました。それなので宿に預けていた荷は、えっと、言いにくいのですが、こちらのみなさんのものに……」

おずおずと申し訳なさそうな冒険者ギルドの付嬢の説明を聞いて、ハルは狀況を理解する。

ハルの荷の所有者は目の前でハルのことを睨み付けている冒険者たちのものになっているため、本來の持ち主の手に戻ることはない――そういうことだった。

「……そうか」

周囲から見ると一見がっかりしたようにハルは下を向く。

だがハルは気絶していた時間も含めて一週間も経っていたことに驚いていた。

「は、ははっ、いいじゃねーか。俺たちがお前の荷を有効利用してやるんだからな！　むしろ謝されてもいいくらいだぜ？」

押し黙って靜かな様子のハルを見て、冒険者たちはビビっているのだろうと決めつけ、高圧的な態度をとっている。

それに反応してなのか、気持ちの整理がついたからなのか、ハルは顔を上げてパーティリーダーを見る。

そのまなざしはこれまでポーターとして最底辺にいた人間とは思えないほどに強いを持っていた。

「なんにせよ手続きにのっとったものであるなら、その金や荷はお前たちのものだ――おめでとう」

それほど自の荷に頓著がなかったハルはふっと薄く笑い、パーティリーダーたちにそう言って別れを告げた。

そして今度は先ほど狀況を説明してくれた付嬢のもとへと移する。

思ってもみなかったハルの反応にパーティメンバーは驚き、周囲の冒険者たちも靜かにただり行きを見守っていた。

「見てのとおり俺は生きている。すまないが、死亡屆の取り下げをしてもらえるか？」

冷靜なハルの言葉に、付嬢は戸いながらも自分の仕事を果たそうとする。

「え、えっと、その、取り下げは大丈夫です。その、ご本人がいらっしゃるので、ただ確認のためカードの提出をお願いします」

彼の言うカードとはポーター登録カードのことであり、ハルは頷いてそれを取り出す。

「これでいいか？」

それは服のポケットにれていたため、サラマンダーの炎のせいかし焦げていたが、ギルドの魔道で読み取ることができた。

「はい……ありがとうございます。確認とれました。でも、その、荷の返卻は行われないのですが……」

言いづらいことだったが、それでも言わなければいけないという使命から、をかみしめつつ元でぎゅっと拳を作った付嬢はハルへとその事実を伝える。

「あぁ、わかってる。わざわざ教えてくれてありがとう」

彼の気遣いをじ取ったハルは優しくふっと笑うと、付嬢へと禮を言う。

彼の落ち著いた様子、どこか自信がある様子は彼から見て、これまでのハルとどこか違う――そう思わせるものだった。

「それから、冒険者登録もしたいんだが構わないか？」

その一言は付嬢を一瞬固まらせ、周囲をざわつかせるのに十分なパワーを持っている言葉だった。

この冒険者ギルドを常用している冒険者であるなら、ハルが冒険者を目指していたがなんの才能もないためにポーターをしていることを知っていた。

そして、冒険者になるにはその実力をギルドが指定した冒険者が確認することになっている。

最低限戦えるレベルがあるか、それが基準になっていた。

過去にハルは挑戦したことがあったが、その時はなすすべなく負けてしまっていた。

「その……よろしいのですか？」

ギフトを持たないハルが挑戦するのは、同じ結果になることは誰しもがわかっていることである。それでも挑戦するのか？　――心配するように付嬢は質問している。

「あぁ、今度は同じ結果にはならないさ」

ニヤリと笑うハル。その表を見て、付嬢はなぜかが熱くなるのをじていた。

「わ、わかりました。それでは、試験の調整をしますね。どなたかに試験を……」

「構わん、俺が相手をしてやろう」

それはこの冒険者ギルドの中でもトップクラスの実力を持っているＡランク冒険者だった。

低く響くような聲と共に現れた筋骨隆々のからは、それだけで強さをじさせる圧倒的な存在がある。

「……えっ！？　ザウスさんが！？」

「何か問題でもあるか？　なあ、ハル。俺で構わないよな？」

とんとんと自のを叩きながら、この場にいる全員の注目が質問するザウスと、質問されるハルに集まっている。

「……あぁ、構わない。ザウスが確認してくれるなら、不満は出ないだろうからな」

ハルもまさか彼が出てくるとは思わなかったが、彼ならと同意する。

それほどに、ザウスの実力、そして人柄に対する信頼はこの界隈で厚かった。

ずっとり行きを見守っている付嬢は無謀だと思っていた。

冒険者ランクとは実力、実績から判斷されて付與される。

ザウスのＡランクというのは上から二つ目であり、ハルのような実力のない人を評価するには適していない――それが彼の考えだった。

「えっと、お二人がよろしいのであれば、中の訓練所へお願いします。試験は見學は不可となっていますので、皆さまご了承下さい」

しかし、彼は仕事に忠実であるため、嫌な気持ちになるのを振り払うように首を數回橫に振ると、真剣な表で話を進めていく。

心のどこかで、先ほどの自信のあるハルの表も気になっていたための判斷でもあった。

彼の案に従って、ハルとザウスは訓練所へと向かって行った。

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名前：ハル

別：男

レベル：１

ギフト：長

スキル：炎鎧２、ブレス（炎）１、ブレス（氷）２、竜鱗１、耐炎２、耐氷１、氷牙２

加護：神セア、神ディオナ

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