《才能(ギフト)がなくても冒険者になれますか?~ゼロから始まる『長』チート~》第百七十話
時はさかのぼり、まだハルとルナリアが二人での旅に戻った頃……。
エミリと別れてから數日が経過していた。
「はあ……」
浮かない表を浮かべるルナリアがため息をついた。
ずっとそばにいたらしい笑顔の行方を無意識に探してしまっている自分に気づいてしまったからだ。
「…………」
しかし、その気持ちが理解できるため、ハルはあえて何も言わない。
二人がどうしてこんなに落ち込んでいるかといえば、それはずっとともに旅をしてきたエミリとの別れを迎えたからである。
エミリと出會ってから彼らは彼のことを自分たちの家族といってもいいほど大事にしていたからこそ、巫として選ばれたエミリとの別れがうれしくもあり、とてもさみしいものでもあった。
「ルナリア!」
そして、突如振り切るようにルナリアの名前を呼びながらハルは彼の肩をつかんだ。
「ふえっ!?」
急な展開に驚いたルナリアは目をぱちくりとしながら固まっている。
「もう落ち込むのはやめよう」
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先ほどまでの勢いをなくし、へにゃりと笑ったハルは勵ますようにルナリアに優しく聲をかけた。
「エミリがいなくなって、寂しいし、辛い気持ちはもちろんある。だけど、ずっと引きずっていたら申し訳ないし、あんなに泣いて寂しがってたんだ。きっと、俺たちにそんな思いをさせるくらいなら一緒にいればよかった……って悲しくさせちゃうだろ?」
ハルは、ここにはいないエミリのことを思い浮かべている。
彼のことだからずっとハルとルナリアが落ち込んでいるのを見たら悲しんでしまうことは想像に難くなかった。
「……確かに、そうですね」
その景をルナリアもイメージしており、そんなことは彼もんでいないことはわかっていた。
だからこそ最後の別れ際にも泣きそうになる気持ちを抑えていたのだ。
「だから、いつまでも落ち込んでいないで上を向こう。そして、次に會う時には楽しい話を聞かせられるように々冒険するぞ!」
ニッと歯を見せて笑ったハルは自分にも言い聞かせるように、努めて明るくふるまっている。
「はい……はい! うん、気合りました! いっぱい冒険しましょう!」
きっとエミリはどんな話でも食いるように笑顔で聞いてくれるだろう。
その笑顔を頭に浮かべたルナリアは數回自分に刻み込むように頷いて、顔を上げると、彼の眼にはやる気が戻っていた。
「立ち直ったところで、次について話をしていこう。俺たちが向かう先にあるのは、武闘國家エグアデルという大きな國だ」
そんなルナリアの顔を見たハルは再び前を向く。
次の目的地として挙がったエグアデル。
これは神殿を旅立つ前に集めていた報の中から決めた候補地だった。
さすがに、ただ目的地もなく旅をするということはなく、キチンと下調べをしている。
「武闘國家エグアデル、ですか。なんだか騒な名前ですね……」
し不安そうなルナリアは名前を聞いての素直な想を口にする。
「確かにね。一応調べた報だと、闘技場があって年に數回大きな大會が開かれているらしい」
「大會、ですか?」
武闘國家が開催するそれがどんな大會なのか、ルナリアはイメージできていないようで、きょとんと首をかしげている。
「武闘國家という名前だけあって、武闘大會――つまり、一番強いやつを決める大會が開かれていて、その優勝者には栄譽とかなりの賞金と珍しいアイテムが與えられるらしい」
これはハルがポーター時代に読んだ本に乗っていた報である。
「むむ、それはなかなか気になりますね。私はわかりませんが、ハルさんだったらいいところまで行くのではないでしょうか?」
「どうかな……結構実力のある冒険者の人も參加することが多いみたいで、もしかしたらAランクやSランクの冒険者とも戦えるかもしれないぞ」
ハルは苦笑じりに実力者たちと戦った時の自分のことを想像する。
いろんなものと戦ってきたハルだが、高ランク冒険者たちは魔たちとは一味も二味も違う戦い方をしてくるだろうと期待が膨らむ。
試験など特別な事がない限り、普段ならわることのない、上位ランクの冒険者との戦いで自らの実力を試すことができる――それは何にも代えがたい、貴重な経験である。
「では、次の目的は武闘國家エグアデルに向かって、そこで武闘大會に參加すること、ですね!」
「あぁ、冒険者としての活とはしずれるかもしれないけど、なかなか面白そうだろ?」
ぱあっと明るくなったルナリアも期待にを膨らませているようだった。
冒険者として更なる高みに上るためにどんな経験も得たいハルも乗り気になっており、今から到著するのが楽しみで仕方ないという様子で頷く。
「大會中は、闘技場の周りに屋臺なんかが出て々な食べが食べられるらしい。あとは、一戦ごとに賭けることができてそれで、高額配當をけ取るなんてこともあるみたいだ」
「なるほど……では、ハルさんに賭ければかなり儲けることができるのではないでしょうか!」
ハルの話を聞いたルナリアは耳と尾をぴんと立てて目を輝かせる。
ハルの実力を知っているからこそ、ルナリアには報のアドバンテージがある。
もしかしたら、相手が巨漢だったり、有名な人ならば、ハルの実力を知らないため、倍率があがるのではないだろうか? そんな風に考えている。
「俺は実績がないからなあ。もし相手が有名Aランク冒険者で、無名の俺が勝ったりすれば……」
実績がない選手に対する賭けの倍率は恐ろしいほど跳ね上がる。
勝たないだろうと思われているからこその倍率だが、戦いにおいて何があるかは時の運もある。
ハルのように実績がないだけで力をめている者が勝った時が賭けの面白いところでもあるのだ。
「……いやいや、大勝することを考えてみたけど、別に金はいらないか」
「そう、でしたね」
思わず苦笑して顔を見合わせた二人はこれまでにかなりの金額を稼いできており、およそBランク冒険者のそれとは思えないほどだということを思い出す。
「でも、それなら私も參加してみようかな……」
先ほどは、自分は參加してもいい結果が出せないかもしれない。
そう思っていたルナリアだったが、ハルが參加することをイメージしていたら、自分もどれほどの実力か試したくなり、參加してみたいと思い始めていた。
控えめに言うルナリアは、そっとハルの反応を窺う。
もしかしたら反対されるかもしれない、という不安を抱えていた。
「いいんじゃないか?」
しかし、ハルは彼の參加希について即答で賛してくれた。
「あ、でもルナリアと戦うことになるかもしれないな……」
その場面をイメージするハルだったが、どうにも現実味がない。
彼らは出會った時からパーティとして互いを高める戦いばかりしてきて、ともに戦う仲間としての意識が強く、その力が自分たちに向くことを考えたことがなかった。
「そういえば、ハルさんと戦ったことって模擬戦みたいのもありませんね……」
そのせいか、改めてルナリアもハルと自分が戦っている場面を思い浮かべようとしたが、どうにもイメージできずにいる。
「でも、まあ、當たったら手を抜かずにやろうか!」
だからこそいい機會なのかとハルは考え直し、好戦的に笑って見せた。
長く旅をしてきた仲間であるため、普段戦うことはない。
しかし、ハルは彼の力を誰よりも認めており、手合わせするのが楽しみになっていた。
「……はい! 全力でいくので覚悟して下さいね!」
その笑顔に鼓舞されたルナリアも力強く笑顔で頷き、ハルと同じ思いを抱いている。
この數日後にたどり著いた武闘國家エグアデルで、彼らはそれぞれ武闘大會にエントリーすることになった――。
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