《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》十三話 言わずもがなモテるそうで
第四騎士団から約三十分の道のりだった。
街に著いたので馬車が止まると、ジェドは先に降りてそっと手を差し出す。
これでも伯爵令嬢のセリスは、慣れた様子でお禮を言ってジェドの手に摑まると馬車を降り、そして目の前に広がる街並みに「わあっ」と嘆の聲をあげた。
「ソボルプはこの辺りで一番栄えてる街だから、々と楽しめると思うぞ」
「活気にあふれていて、何だか元気がもらえます。早速行きましょうジェドさん!」
馬車の中ではジェドの天然たらしに気を張っていたセリスだったが、街についてしまえば何のその。ソボルプの街並みは、セリスの好奇心を刺激した。
「待てセリス、これ見てからにしような」
「わっ」
すぐさま歩き出そうとしたセリスの手首を、後ろからギュッと摑んだジェド。つん、と前のめりになったセリスが後ろにバランスを崩すと、倒れないようにジェドがさっと背中を支える。
セリスは背中にジェドの存在をじながら、ゆっくり見上げると頭一つ以上高い位置にあるジェドと顔を合わせた。
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「すみません……また醜態を……」
「今のは俺が引っ張ったからだろ。ごめんな?」
セリスの顔を見下ろすジェドの形の良い口は、謝罪の割に弧を描いている。まるで楽しいと書いてあるようだ。
セリスは何だか顔を合わせるのが気恥ずかしくなって、慌ててジェドから離れると勢いよく頭を下げる。
「そんなふうに逃げられると傷付くんだが」
「……すみません……つい」
「つい。……まあ、とりあえずこれ見ような」
そう言って指差す先にあるのは、ソボルプの地図だ。
どこに何の店があるのか丁寧に書かれたそれは、街に來てくれた旅人や観客への配慮の気持ちが表れている。
魔が生息する西の森が近いのに人が訪れるのは、ひとえに第四騎士団が魔の脅威から人々を守っているからだろうと思うと、何だかセリスは鼻が高かった。
「ソボルプは結構広いからな。多分今日一日じゃ周りきれない。だからこれ見て行きたいところ決めて見ような。その方が時間が無駄になんねぇだろ?」
「教えて頂いてありがとうございます。これがあればナーシャに教えてもらったお店も一目瞭然なので助かります」
そうして、二人は多くの人が行きうソボルプの中心街へ足を踏みれたのだが。
「お、多いですね……」
前日が雨だったせいだろうか。多くの人々は街に集まり、気を抜いてしまえば直ぐに人にぶつかりそうなほどだ。
特にセリスは一般よりも小柄だったので、すれ違う人の肩が顔に當たりそうになることが何度もあり、なかなか進めないでいた。
「セリス」
「はい。……っ!」
名前を呼ばれてから直ぐのことだった。
先程とは違い、包み込むように手を握られたセリスはぴく、とを小さく揺らす。
可い、と、ポロッと口に出したジェドは、人の流れにし逆らいながらも歩き出した。
「お、お待ちくださいっ」
「ここは特に人が多いから──俺の後ろに隠れてな」
ジェドは男の平均と比べてかなり背が高い。そのためか無意識に人は避けていき、そんなジェドに手を繋がれて後ろを歩く小柄なセリスが人にぶつかることはなかった。のだが。
(まっ、また妹扱いを……!)
自然と手を繋いで後ろに避難させる一連の流れに、奇しくもドキッとしてしまったセリスだったが、結局のところ妹扱いされているのだという結論にたどり著く。
今回のことに関してはそのおかげで助かっているわけだが、それでもセリスは反論を口にした。
「あ、あの! 大変ありがたいのですが、どうにか避けられますわ! いくら小さくても私はれっきとした十八──」
「妹扱いして言ってるんじゃねぇよ。こんなことで怪我させたくない」
「〜〜っ」
(ずるいわ……こんなふうに言われたら……)
顔は見えないが、聲から真剣にそう言っていることが分かってしまったものだから、もう反論が出てくるはずもなく、セリスはし俯き気味に足をかした。
し歩くと人がまばらになり、セリスはようやくジェドの隣に出ることができた。
そろそろ手を離してくれるだろうと思っていたセリスだったが、待てど暮らせどその様子がないので、セリスはおずおずと口を開く。
「ジェドさん。そろそろ手を……」
「もしセリスが迷子になったら、見つけらんねぇから卻下な」
「それ遠回しに小さいって言ってますよね?」
「はははっ」
大きく口を開けて豪快な笑いを見せるものの、続けてらかく目を細めてセリスを見る瞳は何だかっぽい。
本能的に手を離してもらわなければと思ったセリスだったが、口で言ってだめなら力づくで……が葉うはずもなく、されるがままに歩くほかなかった。
そんなセリスが、あれ? と気がついたのは、全く息が上がっていないということ。格差がある二人が自のペースで歩けば、格が小さく、鍛えてもいないセリスの息は上がるはずだった。
つまりジェドは手を繋いで人混みから守ってくれただけではなく、歩くスピードもセリスに合わせてくれたということになる。
(顔も人間離れしてるのに……気遣いも人間離れしてるなんて、ジェドさんって凄くモテそう)
これは第四騎士団に訪れた日から、セリスがかに思っていたことである。
顔や格もそうだが、騎士団長という立場に、優しくて気遣いも出來る。極めつけは天然たらしだ。
(一何人のの子を泣かせて來たんだろう)
ジェドにその気がなくても、惹かれてしまうは多いはずだ。
現に今、セリスと手を繋いで歩くジェドに、道行くがこぞって熱い視線を向けている。中には店の中からジェドの顔を拝みにきたもチラホラといるので、どこかのタイミングで聲をかけられるのでは? とセリスが思っていると、そのときは直ぐに訪れた。
「ねぇ、そこの格好良いお兄さん」
ボン・キュッ・ボンというに相応しい気たっぷりの大人のが、カフェテラスに座りながらジェドに向かって聲をかけてきたのである。
両肘をテーブルにつき前に乗り出している上半から見えるのは、たぷんとらかそうなを想像させる谷間だ。テーブルに乗るほどに満なそれは、のセリスでも凝視してしまう。
「お隣は妹さんかしら? 悪いんだけど、お兄さん貸してくれないかしら?」
「えっ、は、はい」
まさかこちらに話を振ってくるとは。
予想していなかったからか、咄嗟に同意の返事をしてしまったセリスだったが、まずいかもしれないと隣のジェドの顔をチラリと見る。
(そもそもジェドさんはどうしたいのかしら……?)
もはや、この格差は周りからすれば兄妹に見えるのか、という多のショックは一旦置いておくとして。
急遽一緒に街に行くことになっただけだし、ジェドは荷持ちがいるだろうと気を使ってくれただけだろう。
いをけたいのならばセリスに止める権利なんてなかったのだが。
セリスの視界に映るジェドの瞳には、しだけ苛立ちが孕んでいるように見える。
「セリス、酷いな」
「はい?」
セリスの気持ちを知ってか知らずか、ジェドは一度手を離すと、今度は指と指を絡ませるようにして手を繋ぐ。
セリスはいきなりのことに目を見開いて頬を紅させると、聲をかけたは悔しそうにカァッと顔を真っ赤にして眉をつりあげた。
「ジェド、さん……?」
「折角のデートなのに酷いな。俺はいっときだってセリスと離れたくねぇのに」
「……!?」
口をパクパクとしながら狀況が理解できていないセリスに、ジェドは一度だけ口角を上げると、ちらりと視線を聲をかけてきたに移した。
「……というわけだ。この子は妹じゃない。俺の大切な子だ。──行こうか、セリス」
「えっ、は、はい……?」
指を絡ませたまま、先程よりもし早く歩くジェドに、セリスは小走りでついて行った。
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