《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》二十五話 魔との遭遇、そして
◆◆◆
境界エリアを巡回するべく移を、という話になったまでは良かったのだが、セリスを含め全員が一つ見落としていた。
「そういえば私、馬に乗れません……」
「「あっ!!」」
家事全般をこなし誰にでも分け隔てなく接するセリスは貴族らしくはないが、これでも伯爵令嬢なのだ。一人で馬に乗った経験なんてあるはずがなかった。
それならば誰かの馬に乗せて貰えば良いだけの話なのだが、セリスの発言を聞いた瞬間、鼻の下をばした団員がほとんどだった。
一緒に馬に乗るのはそれほど難しいことではないのだが、なからず著することになるのだ。
セリスはあまり実が湧いていないのか「どなたか乗せてください……すみません」と救いを求めているようだったが、ハーディンは頭を抱えた。
こんな鼻の下をばしている団員とセリスを著させたことが後にジェドに伝わったらと思うと恐ろしい。
「副団長、セリスちゃんを乗せてあげてくださいよ。ここで一番強いんだし、つまりは一番安全でしょ。先頭は俺が走りますから、セリスちゃんが慣れるまではしゆっくり走ってあげてくださいね」
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「む、よし分かった。セリスは良いか?」
「もちろんです。よろしくお願いいたしますウィリムさん」
第四騎士団で唯一の既婚者であるウィリムならば安心だろう。
何人かの団員は口をすぼませているが、ハーディンはそんなもの知ったことかと知らんぷりである。自分のの方が可い。
セリスは馬に乗せてもらうと、その後ろにウィリムが乗って手綱を引く。
初めはし怖かったものの幾分か慣れてきたところで、もうしで境界エリアに到達するというウィリムの言葉によりセリスは気を引き締めた。
そんなときだった。先頭を行くハーディンが、前方を指差したのである。
「何だあれ…………」
「…………!」
一番後方にいるセリスからでも、その異変はすぐに気付くことが出來た。
「あれはラフレシア……っ! それに──」
事前の話し合いでも、境界エリアにラフレシアが発生しやすいことは第四騎士団の面々には周知の事実だった。
だからラフレシアがいること自にはそれほど驚かなかったのだが、その周りが問題だったのだ。
「あの顔ぶれは……第二騎士団……!」
騎士団長であるハベスの姿はないが、以前合同軍事演習に來ていた団員たちの數人の姿がそこにあった。セリスの元婚約者のギルバートの姿もだ。
第二騎士団員たちはラフレシアのことを予期せずに森にったのか、遠目で見ても分かるくらいに狼狽えている。
遭遇したときの対応の仕方も知らないようで、ラフレシアの中心部分ではなく花弁ばかりを狙っていて、全くと言っていいほどダメージを與えられていなかった。
それらから推測すると、ラフレシアの一番の特徴──溶解のことも知らない可能がある。
ラフレシアの種類によって効果は様々だったが、セリスはそのことについても事細かく覚えていた。
「ウィリムさん急いでください……! あの赤いラフレシアの溶解は直に當たると火傷します!」
「む! お前たち急げ!! 我々もラフレシアに戦するぞ!」
「皆さん! 必ず距離は取ってください!」
ウィリムとセリスの聲により、先頭を走るハーディンは速度を早める。
そして目的地に著くと各々事前にセリスから言われていたように距離を取り、一部の団員は弓を使って攻撃し始めた。
セリスとウィリムもその場に到著すると、セリスは攻撃要員にはならないのでまずは怪我人がいないかと辺りを見渡す。
「良かった……とりあえず全員無事ね」
現時點ではまだラフレシアは溶解を放出していなかったのか、火傷を訴える団員はいない。
しかしいつ溶解を放出されるかは分からないので、セリスはウィリムに第二騎士団たちにも距離を取るようれ回ってくれと頼んだのだが。
「第四騎士団の奴の命令なんか聞けるか!!」
「そうだ! 俺たちだけでラフレシア(こいつ)を殺る! 邪魔すんじゃねぇよ!」
セリスは第四騎士団寄宿舎の下働きだ。そんな人間の聲には従わないだろうとウィリムに頼んだというのに、それも『第四騎士団』というだけで聞きれてもらえない。
セリスを含め第四騎士団の皆は出來るだけ被害を食い止める為にいているというのに、どれだけ第二騎士団が疎ましくても助けにったというのに、向けられる眼は蔑むものだ。
(……酷いわ……っ、けれど今は……!)
セリスにとって、怒りというの優先度は低い。
突然婚約破棄をしてきたギルバートのこともよりもアーチェスの幸せを願い、合同軍事演習直後に絡んできたギルバートに対しても怒りよりも、信じてくれた第四騎士団の面々への謝の気持が大きかった。
だから今も、第二騎士団に対しての怒りをじることはあっても、それよりもこの場にいる全員が無事であってほしいという気持ちが一番強いセリスは、覚悟を決めたように大きくスゥ……と息を吸い込んだ。
「皆さんお願いします……! 至近距離では分が悪いです……! お願いですから距離を取ってください!」
「セリス!! お前の指示になんか従うわけな──うわぁっ!!!」
ダメ元でんだセリスの言葉に拒絶を示したのはギルバートだった。
しかし、ギルバートはラフレシアに接近戦を挑もうと距離を詰めたところで、バランスを崩してその場に餅をつくように座り込む。
──そして。その瞬間、ラフレシアは開いた花弁を中心に集めて、蕾のような形となる。あれは溶解を放出する寸前にするきだった。
「ギルバート様……っ!」
ラフレシアの異変に気がついた第二騎士団の面々は直ぐ様後退するが、ギルバートは突然のことに出遅れてしまったらしい。
第二騎士団の団員たちがギルバートを助けようとする様子はなく、セリスとウィリム以外はラフレシアからかなり距離を取っている狀況だった。
(まずいわ……! あれではギルバート様が……アーチェスが……っ!!)
「ウィリムさん! しだけ馬を止めてください!」
「む!? 何をするつもりだ!?」
困しながらも馬を止めてくれたウィリムにお禮を言ったセリスは、馬上から見下ろす地面までの高さに恐怖しながらも勢いよくぴょんっと降りると、地面に膝をつきながらも、すぐさま立ち上がって一目散にギルバートの元へ向かう。
義妹のアーチェスの悲しい顔を想像したらセリスは居ても立っても居られなくなり、ギルバートをその場から助けようと腕を摑んだ。
だが華奢なセリスにギルバートを持ち上げる力があるはずなく、そうしている間にラフレシアは花弁を開く。
「セリスちゃん……!!」
ウィリムは馬を走らせるがときすでに遅く、ハーディンのセリスを呼ぶ聲がその場に響いた。
「うわぁぁぁ!!!」
「…………っ」
薄紫のが放出され、び聲を上げるギルバートの橫でセリスはギュッと目を瞑った。
(…………? あれ?)
しかし痛みはおろか何かに濡れる覚もなく、代わりに聞こえたのは、何かをガンッと蹴ったような音と「グハァ!!!」というギルバートのただならぬ聲。
セリスはそろりと目を開けると、先程まで隣りにいたはずのギルバートが遠くの位置でお腹を押さえ、蹲っている姿を視界に捉えた。
理解が出來ずに視線を前に戻せば、普段の騎士服とは違うシンプルな裝いの男の姿がある。
著ていたのだろうローブを手に持ち、溶解をそれでけ止めて守ってくれた後ろ姿は、第四騎士団に初めて來た日のことを鮮明に思い出させた。
「ジェド、さん……っ」
読了ありがとうございました。
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