《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》三十六話 ついにその時が來る

二十三年前、ジェドは産まれてすぐ、母方の実家であるジルベスター家に移ることになった。そのことを知っているのはベルハレムの王族と、その側近の一部だけである。

ジェドはそこで、本來の第二王子としての分を隠して生きていくことになった。

ジェドが自の出自を聞かされたのは十二歳になった頃だ。

大まかな國きや、出自を隠す必要を念りに聞かされたのである。

ジェドは理解し、それをれた。

ジルベスター家での生活は自由度が高く、ジェドの格に合っていたので、わざわざこの生活を捨てるつもりがなかったことが一番の理由だ。もちろん、わざわざ火種になるつもりもなかった。

母は優しく、たまに父が屋敷に顔を見せに來てくれたので父親というものにもれられたし、妹のレベッカが産まれたことで寂しさもなかったので、ジェドは當時の生活に何ら不満はなかったのだ。

しかしジェドが十八歳になった頃、事態は急変する。

父親が病気を患ったことにより、公務ができなくなり、生前退位することになったのだ。

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それに伴い兄が即位することになるまでは良かったが、そこからが大変だった。

突然の兄の即位に、貴族たち──主にハベスが反きを強めたのである。

そこで現國王は、ジェドの元を訪れた。

『この國のために、俺のためにいてくれないか』

信頼できる側近たちは手元においておきたい。しかし、信頼するものにハベスのきを監視、出來れば引きずり降ろすための証拠を摑んでほしいと考えた國王は、その役目をジェドに頼んだのである。

ジェドはそれを快くれ、そして現在に至る。

自由はなくなってしまうけれど、自國が危機に陥るのは避けたかったから。それに半分を分けた兄の助けになりたかった。

「ジェドさんが……王弟殿下……」

「ああ。まあ形だけのな。この國の殆どの人間が俺が産まれていることも知らない。セリスも知らなかったろ?」

「はい」

ジェドはセリスの頭にそっと手をばす。

ぽん、と優しくそこを叩いた。

「王太子が去年十八歳になって王位を継承できる歳になったから、俺は既に王位継承権は放棄している。ハベスの件が終わるまで王弟であることは隠すようにとの約束があったから黙っていたが、もう良いだろ。……因みに、王弟だからって俺は第四騎士団の団長を辭めるつもりはねぇし、今更王族として働くつもりもない」

ジェドはセリスの頭から手を話すと、高い位置に座っている國王に目線を寄せる。

「もう俺の役目は終わりで大丈夫ですよね。……兄上」

「ああ。今までご苦労だった。ありがとう、ジェド。お前は私の弟ではあるが、お前がむ通り自由に生きるといい。ただ、王族として生きないのであれば、混が起きないようにセリス嬢以外には出自を明かすなよ」

「もちろんです」

「あの、私は知ってしまって大丈夫なのでしょうか……もちろん言うつもりはありませんが……!」

焦るセリスに「はははっ」と大きな口を開けて笑うジェド。

を共有したのだから焦るのはおかしなことではないだろう、とセリスは口にしようと思ったものの、王の前なので口を噤む。

かなり高い位置にあるジェドの顔をしムッとした顔で見上げれば、ジェドはくしゃりと笑ってみせた。

「セリスは良いんだ。俺がこの人はって決めた相手にだけは、伝えたかっただけだからな」

「…………! それは、どういう──」

「兄上すみません。一応言うべきことは伝えたので俺たちはもう行きます。では」

「ちょ、ジェドさんっ!?」

ギュッと手を握られ、出口へと向かっていくジェドにセリスは為すすべはなく。

「申し訳ありません失禮いたします……!」と最低限の挨拶を並べてジェドに連れ去られるようにして部屋をあとにした。

ジェドが期待をさせるようなことを言うものだから、後で不敬だと罰せられないかという不安は、すぐに消えていった。

煩いくらいに心臓が高鳴る音は、しばらく続いたままだったけれど。

◆◆◆

王宮から第四騎士団までは、馬でもしばらくかかった。

その間セリスは話したいことや聞きたいことが沢山あったが上手くまとまらず、また馬上では向かい合って話すことが出來ないからと口を開くことはなかった。

そうして寄宿舎に著くと、セリスはまたジェドに丁寧に馬から降ろしてもらい、食堂で食事中だった団員たちと顔を合わせた。

「皆さん、ただいま戻りました」

「「セリスちゃん! おかえり! お家大丈夫だった!?」」

「はい。おかげさまで。ご心配をおかけしました」

「お前ら俺には何もないのか」

「あ、団長お帰りなさい〜! あの第二騎士団の男は命令どおり地下牢に繋いでおきました」

「おう、助かった」

駆け寄ってきてくれる団員たち。

もちろんその中でもナーシャとミレッタの勢いは凄まじく、配膳を途中でほっぽり出して、駆け寄ってきてくれたので、セリスは嬉しくなって両手を広げた。

「セリスおかえり!!! 待ってたぞ!!」

「ナーシャ、ただいまです」

「セリスお嬢様〜!! ご無事で良かったです! このミレッタ、お嬢様が傷一つでもつけて帰ってきたら、シュトラール家に怪文書をおくるつもりでございました!!」

「ミレッタ話し方……それに怪文書はやめて……」

それからはナーシャとミレッタが作ってくれた夕食を全員で食べて、食類を片付ける。

途中で仕事を抜けたので一人でやると申し出たセリスだったが「一緒にやったほうが早いだろ? 馬鹿だなセリスは!」なんてナーシャに言われてしまえば、甘える選択肢しかなかった。

「セリス、ちょっと良いか?」

片付けがそろそろ終わりそうな頃、団員たちは部屋に戻ったり談話室に向かったり湯浴みをしたりと、各々やりたいように過ごしていた。

そんな中で最後の食を洗っているセリスに聲をかけたジェドに、セリスは手元をかしながら返事をする。視線だけをジェドに寄越した。

「どうしました、ジェドさん」

「今日のことでまだ伝えきれていないことがある。時間作れるか?」

「はい。それはもちろん……!」

落ち著いたら、話したいことも聞きたいこともある。

セリスは間髪れずに了承すると、洗いが終わったのでタオルで手を拭いた。

その時だった。り気の殘った手をジェドに摑まれたと思ったら、するりと小指と小指が絡む。

一瞬小指に力を込められギュッと絡み合えば、ジェドはセリスの耳元で囁いた。

「約束な、セリス」

「っ……!」

甘ったるい聲で囁いたジェドはしだけ口角を上げてから食堂をあとにする。

「天然たらしめ……」と呟いたセリス。

ジェドのせいで腰が抜けてしまいそうだったのは言うまでもない。

読了ありがとうございました。

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