「はぁ・・・はぁ・・はぁ」

地下水路を走る、息を切らしながら何かから逃げるように。

時折、後ろを振り向くが、そこにはなにも居ない、それどころか音一つしない。

する音と言えば、男の吐息が狹い水路を反響しながら、徐々に獣のような音に変わるぐらい。

「クソっ！」

そう言うと男は、また走り出した。

手に持っている端末を見ながら走る、端末には地図が示されていた。

先の突き當りを右に曲がると、地上に出られるのか、表示のマークが違っていた。

肺が痛い、足を止めて呼吸をしたい。

男は様々な事を考えながら走っていた、そうしなければ今置かれている狀況の、最悪なシナリオが頭の中を支配してしまう。

灼熱が背中を押し続けていた。

男は角を曲がる時勢いそのまま、大きく膨らみながら曲がって行った。

壁にぶつかり位の勢いだったが、壁に手を當て、その手をそのまま、前に前に進むために手で壁を引っ張る様にして、出口を目指した。

突き當りの壁には梯子が設置されており、梯子を早く昇ろうとしたが、走り疲れたのか、最初の一歩目が梯子の一段目に屆かなかった。

梯子を摑んでいる手は壁に當てた時に、皮が剝け、が滲んで來ていた。

フッと息を整える為に目を閉じ、大きく深呼吸をした。

目を開け、行こう！そう思った矢先だった。

「ねぇ？もう終わりなの？もっと走ろうよ！」

げなの子が男の背後から聲を掛けてきた。

男は一瞬で目を見開き、背中にじていた、灼熱。それも冷えてしまった。

壁に背中を押し當てながら隅の方に、逃げるように一歩、また一歩と橫に移して行く。

壁には男のなのであろう。橫にザーっと引かれていく赤い線が、徐々にが屆かない暗闇の中に消えて行く。

「ねぇ？聞いてるの？答えなさいよ！」

の子は返事がない事に怒っているのか、手に持っている、ぬいぐるみを強く抱きしめた。

「もう良い！遊んでくれないなら、死んじゃえ」

「影(シャド)の(―ナ)騎士(イト)！」

すると男の居た隅の方から黒い騎士が現れた。

その騎士は黒い姿だが、重厚のある鎧を纏っており、ロングソードをの子に振り下ろした。

「キャッ！」

の子は振り下ろされたロングソードを避けたが、巻き上げられた水路の水を頭から浴びてしまった。

何処かのお嬢様を思わせるなりをしていたの子、その髪型に服は生臭い泥の様なヌメリのある汚れが付いた。

「もう良いや、私のコレクションにしてあげようと、思ってたけど要らない」

の子の表が変わったのは明らかだった。

凍るような空気、なのに足元からは超高溫の熱が、靴を通しても伝わってくるのが分かった。

「影(シャド)の(―ウォ)壁(―ル)」

ゴゴゴと何かが地面から出て來る音だけが聞えて來た。暗闇の中に姿を隠したままの男。

「アンタ、ランク幾つだっけ？」

「Ｂ級ヒーロー・影井(かげい)(そう)従(じゅ)」

「影井？」

の子は聞き覚えがあるのか、頭を傾けて考えた。

そして、思い出したのか、怪しい表を見せながら話し出した。

「お前、影井(そう)介(すけ)の息子だろ？」

「なんで親父の事を知っているんだ」

暗闇の中から驚いたような聲を出して來た。強く歯を食いしばり、握った拳の怒りを何処にぶつけたら良いのか、そんな悔しそうな表をしている。

男の父はA級ヒーローだった。

Ａ級ヒーローの中でも三本指にる程の実力者で、多くの人卓越した個で救って來た。

だが、ある時、突然姿を消した。

痕跡を一切殘さず跡形もなくこの世から消えたのだ。

男は父を探す為に、ヒーローの道に足を踏みれたが、誰に聞いても、何処で調べても、消えたその日の仕事の詳細が殘っていなかった。

ヒーローになって何年も経つと男自が、父を探す。その目的が薄れ、忘れていった。

そして今、父の名を知っているの子。

ただ生きる為にヒーロー活をしていた自分に憤り、怒りが込み上げて來た。

「お前は誰を殺した？」

影井家の個は影をる事だった。それは使い手によっては強力な個だったが、最初にある「條件」をクリアしないと、影をれない。

それは「の繋がったを殺す」

影・それは日のに出來た影ではなく、心の影が個発の條件だった。

殺したに深いを持っていれば、持っているだけ強い力を手に出來るが、個を使う度に殺された者が心の中でぶ。

あの時の痛み、個の為に殺された恨み、そして絶対に許さないと。

「俺は誰も殺してない！」

言えない影、それは誰にでもあるが。その深さはを側から蝕んでいく。

「そう？じゃあし移しない？」

「良いぜ、なんて言うかよ！ここで死んでもらう！」

男が攻撃を仕掛けて來たが、の子がそれを防いだ。

「影(シャド)の(―ウォ)壁(―ル)」

の子が影井と同じ個を使ってみせた。

「なんで！」

「なんで？私の事を知らないってことは無いよね？」

「Ｓ級ヒーロー・「ソムニウム・ファーブラ」ヒーローの君がなんで・・・」

「ソムニウム・ファーブラって私の名前じゃないから気を付けてね？」

不敵な笑みを男に向ける。

それは天使の様な笑みではなく、悪魔的な悪意に満ちたものだ。

「死」という絶対者のもつ実力から出て來るモノであり、支配される者は逃れる事が許されない。

そして、その顔は黒く染まり、目と口だけが白い。

恐怖が男を支配する。