《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-44:冒険の時代へ

ユミールが去り、ルゥが攫われた後の、ボロボロの天界。

僕は妹が殘したもの――氷の中で脈打つ『心臓』を呆然と抱えて立つ。

それは、拳2つ分くらいの氷に包まれた心臓。

籠手(ガントレット)越しに、力強い鼓が伝わった。

オーディンが言う。

「かつてのユミールの心臓、『氷炎の心臓』だ。今はそこに、創造の力が宿されている」

空は青いままだ。微風には草の匂いもする。

でも、周囲の景は何もかもが変わってしまっていた。

崩落した巨城の殘骸があちこちに山積みになっている。水鏡にも瓦礫は落ちて、靜かで明だった水面は茶く濁っていた。

じゃらりと鎖の音。ミアさんとフェリクスさんが連れ立ってやってきた。周りでは何人かの冒険者が互いに肩を貸しあって立ち上がる。

オーディンはれ違うように背を向けた。

「行ってやりなさい」

頷いて、僕は落ちていた布でひんやりした氷塊を包むと、背中のポーチに押し込んだ。

ミアさん達の方へ駆ける。

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「みんな……」

ミアさんが街の方角を顎で示した。

一筋の虹が、巨城の殘骸の中、真っすぐに立ち上がっている。

「あの虹が、あの後地上に降りてきたんだよ。それであたしもフェリクスも、神々と一緒にユミールを追うことになった」

ノルンも言っていったっけ。過去、大勢の英雄が虹の橋(ビフレスト)を通じて天界へやってきていたって。

もう一度、人間達がやってくる景が、まさかこんな大慘事になるなんて思っていなかったと思うけど。

ミアさんは続けて尋ねる。

「なぁ、あそこにいた爺さんが……」

「オーディン、です」

「やっぱりそうかよ」

ミアさんは何か言いたげに腕を組む。目はオーディンがいた場所を見つめるけど、何も口にすることはなかった。

確かに、そんな場合じゃない。

フェリクスさんが口を開く。

「ルイシアさんは?」

「それが……連れ去られました」

2人は瞑目して、俯く。

ミアさんが拳を作った。

「うし、取り返しに行こうぜ!」

「ミア。そう単純ではないでしょう」

議論を始めてしまう2人。僕は辺りを見回した。いつもじていた、ソラーナの気配をまったくじなくなっている。

「ソラーナ?」

呼びかけても、返事がない。頭の中に響く聲さえもなかった。

「トール! ウル! ロキ! シグリス!」

誰一人として、応えてくれない。

「ヘイムダル……」

う、とくような聲が近くから上がった。

僕とミアさん達は視線をわし合ってそちらへ向かう。

ヘイムダルが瓦礫に埋め込まれたように、傷だらけの巨を橫たえていた。姿がうっすらとっている。金の魔力がかられ出ていて、まるで存在がほどけていっているみたいだった。

し、無茶をしすぎたか」

ごほっとヘイムダルは咳き込む。こんなボロボロの様子、見たことがない。

「平気なの?」

「いや……今回ばかりは、回復にかなりかかるだろう」

ヘイムダルはよろよろと立ち上がった。足を引きずりながら水鏡の方へ歩いていく。

赤鎧はあちこちが落して、見る影もない。大木のように頼もしかった神様が、今はふらついて、枯れ木のようだった。

「他の神々も探してやってくれ。おそらく発から人間を守るために、中の魔力を犠牲にせねばならなかったはずだ」

が急に寒くなった。一緒に戦ってくれていた、戦力の要である神様が、大きく傷ついてしまっている。

僕は聲を張った。

「みんなで、神様を探してください!」

冒険者みんなの手によって、やがて神様達が発見される。

トールも、ロキも、ウルも、シグリスも、ヘイムダルと同じようにボロボロだった。

僕は、ソラーナを見つける。神様は大きなトネリコ木の元まで、吹き飛ばされていた。四肢を橫たえてぴくりともしない。

金髪が地面に広がっていた。

「ソラーナ……」

「リオンか」

神様はうっすらと目を開けた。顔は青白くて、笑顔が痛ましい。

「すまない、運んでもらえるか。もう飛ぶことも、歩くことさえできそうにない」

が締め付けられた。

攻め込んできたユミールを撃退するには、ああして創世の魔力を活用するしかなかったのだろうか。ルゥが神様に向けてんでいたのは、きっとこの作戦をとるという合図だ。

創世の魔力を弾けさせて、何もかも吹き飛ばしてしまう。そんな作戦は、僕が守りきれなかった証でもあって――

「ごめん」

頭を振った。

悔しい。けない。

とにかく、何かに謝りたかった。

ルゥを守って、この世界で一緒に戦うということは――當然だけどリスクがある。れていたはずなのに、僕は今もまた心を揺らしてしまっている。

「……私は、君といつも一緒だ」

神様の力が薄れているのが、僕にはわかる。信徒だからだろうか。

それはオーディンによって<目覚まし>が封じられて、神様をじ取れなくなった時とよく似ていた。

神様を抱えて、水鏡の場所に戻る。

オーディンが僕らを待っていた。神ノルンは遠くに控えている。

「休んでて」

ソラーナを草の上に橫たえた。

主神は、槍を地面について言う。

「來たか」

僕は助け出された神様達を見渡した。

トールは柱に寄りかかったまま座り、シグリスは槍を抱くようにして顔を伏せている。ロキはこんな時でも脇腹を押さえて口を歪め、ウルは弓を持ったまま瓦礫にを預けていた。

言葉を話せるのは、なんとか目を開けているソラーナと、ヘイムダルだけだろう。

オーディンは言葉を重ねた。

「……ユミールは退けたが、神々は大きく傷ついた」

僕のポーチに、オーディンは目を落とす。

そこには、布でくるんだ『氷炎の心臓』がっていた。どくん、と微かに脈打った気がする。

「我々には創造の力をめた、ユミールの心臓が殘された。だが、フレイヤと、リオンの妹らは連れ去られたままだ」

オーディンの言葉は鬱々と響く。

僕を灰の目が見據えた。

年よ。これが答えだ」

僕は黙っていることしかできない。

「もはや我々に抗うはない……だが、もはや責めまい。滅びが遅れてやってきたのに過ぎぬかもしれないのだから」

責めるような、あるいは試すような視線。僕は言い返した。

「――違う!」

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は10月26日(水)の予定です。

(1日、間が空きます)

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