《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》12

「カンザスさんの娘曰く、キルクの中ではまだマシな方らしいですけどね。でもこちらのお屋敷と比べてしまうとアラベッタ様がそう思われても無理はないかもしれないですね」

小さな小屋で過ごしていたエインズからしてみればカンザス邸もアラベッタ邸もどちらも大差なく贅沢にじる。

「浴場に著きましたが、どなたからられますか?」

浴場の札がかかったドアの前で四人は足を止めた。

「俺らは別に後でいいぜ。エインズは海水で濡れたんだろう、先にったらどうだ?」

「……タリッジ、あなたも多はエインズ様を気遣うことができるのですね。本當に多ですが」

「お前、本當に一言余計だよな」

すぐに言い合いを始めるソフィアとタリッジ。

「だそうなので僕がまずります」

エインズのを見てヴァレオが手伝いを買って出ようとしたがエインズはそれを斷った。

「でしたら私はお二方を客間まで案いたしますので。エインズ様はごゆるりとおくつろぎなさってください」

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ヴァレオはソフィアとタリッジ二人を連れて浴場前を後にする。

エインズは一人靜かに湯を楽しむのであった。

湯から上がったエインズはヴァレオの案で客間に通された。

ブランディ邸ほどではないが、それでも広い客間だったこともありエインズはぐるりと一通り見回っていった。

最後はベッドに落ち著く。エリアスまでの旅路や、到著して早々巻き込まれてしまったトラブルもあり、疲労が蓄積していたエインズはそのまま眠りについてしまった。

「エインズ様、ご夕食の時間でございます」

「……ソフィア?」

部屋をノックするソフィアの聲でエインズは目が覚めた。

を起き上がらせると、窓から見える外の様子はすっかりが沈んでいた。

「エインズ様、起きていらっしゃいますか?」

「別にいいんじゃねえか、寢てんだろう? そのまま寢かせてやったらどうだ?」

タリッジもいるようで、廊下からはタリッジの話し聲も聞こえる。

「二人とも、いま起きたからし待って」

エインズはそう言って薄暗い部屋の中、ベッドから立ち上がる。

ドアの向こうではまたソフィアがタリッジの脇腹を肘でついたのだろうか、「いてっ」と小さな聲が聞こえた。

上著を羽織り、廊下に出たエインズ。

燈りで照らされた廊下は客間とは打って変わって眩しくじる。

「ヴァレオさんからダイニングの場所は聞いていますのでご案いたします」

寢ぐせがついているエインズに一禮したソフィアが案しながら歩きだす。タリッジはあくびをしながらその後ろをついて歩くのだった。

「エインズ様、お目覚めになられましたか」

ダイニングについたエインズを待っていたのはヴァレオ。

メイドを數人引き連れて配膳に取り掛かっていた。

ダイニングは簡素な造りとなっておりテーブルは木製、クロスはかけられていなかった。

「エインズ殿にそれにお二方、お待たせしてしまって申し訳ない。……後処理に奔走していてな」

エインズが出會ったときの凜々しい顔立ちをした人なアラベッタの姿はそこにはなく、疲れが見て取れるほどに疲弊していた。

「そうでしょうね。失禮ながら顔を見れば分かります。すみません、こんな寢ぼけ眼を見せてしまい」

頭をかきながら苦笑いを見せたエインズは勧められた席に座った。エインズに並ぶようにソフィア、向かい合うようにタリッジが座る。

「ははは、これはお恥ずかしい。なにせまだ完全には終わっていないのでな、気が休まらないんだ……」

「大変ですね」

「たしかに。だが、私の仕事なんかこんな時にしかないのだ。化粧でごまかせない程にクマが出來ようがやらなければならん」

疲弊はしているものの、まだアラベッタの目には力がある。

領主というのは大変なものなんだなとエインズは思った。間違いなく、彼に完璧な統治はできないだろう。

「いや、すまん。この場は助力いただいたエインズ殿に謝の意を込めてエリアス自慢の魚料理を楽しんでいただく場。こんな暗い話ばかりでは味しい料理も不味かろう」

アラベッタがヴァレオに目配せをすると、ヴァレオがメイドらに指示を飛ばす。

皆の目の前に手際よく料理が並べられていく。

「さあエインズ殿! エリアス家の料理人が腕によりをかけた品々だ、心行くまで堪能してくれ!」

アラベッタは葡萄酒が注がれたグラスを掲げて一気に飲み干した。

今回の騒で余程神的負荷がかかったのだろうか、空になったグラスを片手に馥郁たる香りとアルコールの余韻を楽しんでいた。

「それじゃ僕もお言葉に甘えて」

質の良い料理を口にする際、エインズが右腕を発現させ両手でナイフとフォークを使用するのはもはや當然のことのようになっていた。

エインズの突然現れた右腕にヴァレオもその他のメイドも驚きに目を見開いたが、エインズが魔法に長けていることをアラベッタから聞いていたのもあり、すぐに普段の表に戻る。

ご馳走を前にエインズの両手が忙しなくく。酸味を効かせた前菜にとろみをつけたスープ、皮はカリッと焼かれ、がほろほろとしたポワレはどれもエインズを唸らせた。

極めつけは柑橘系のソースがかけられた生食用の魚。新鮮な魚が獲れるエリアスでしか食せない料理である。

「これこれ! はぁー、味い!!」

港から距離が離れたところは波が荒い。そんな荒い波の中を泳ぐ魚はが引き締まる。弾力あるに程よく乗った脂。柑橘ソースのさっぱりとした風味で調和され口の中で一気に花開く。舌の上でさらに溶け出す脂はしつこくない旨み。

これにはいつも靜かに料理を食べているソフィアも思わず「……おいしい」とこぼすほどだ。

「タリッジ、どうだい? これがエリアスの魚料理だよ!」

このを共有したいエインズは手を止めることなくタリッジに尋ねる。

「ああ! たしかにこれは堪らんな! なんといっても酒がうめえ!」

「タリッジお前、葡萄酒はどこでも飲めるだろうが。エインズ様がおっしゃっているのは料理に関してだ」

當初はグラスに注いでもらい飲んでいたタリッジだったが、注いでもらう時間が億劫になったのか、ボトルのままけ取り直吞みしていた。

「いやソフィア殿、タリッジ殿の言葉もまた嬉しいのだ。エリアスは、魚料理に関してはもちろん有名だが葡萄酒も実は良いんだ」

アラベッタに勧められてソフィアも葡萄酒を飲む。

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『隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~』

書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売!

コミカライズ進行中!

詳しくは作者マイページから『活報告』をご確認下さい。

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