《悪魔の証明 R2》第45話 037 シロウ・ハイバラ(1)

スピキオと紅のドレスのを連れてきたミリアが、第六研の研究室に室した矢先のことだった。

「で、スピキオさん。まさか、こんな小さな子で、サイキック・チャレンジに挑戦するってわけじゃないわよね」

確認するかのようにレイが訊いた。

「ええ、もちろん。そのまさかですよ、トウジョウ先生。さあ、アリス。行きましょう」

そう言葉を返すと、スピキオは紅のドレスのの頭に軽く手を置いた。

いつもの通り、レイの嫌味にも似た臺詞をまったく意に介していないようだ。

もちろん、顔は仮面で覆われているので表はうかがい知れない。だが、彼がから発散させる雰囲気でそれはなんとなくわかった。

「ホント、あなたって――期待を裏切らないわね」

呆れ気味にレイが言葉を返す。

その次の瞬間だった。

「シロウ、こっちに來なさい」

背後からミリアに呼びかけられた。

この聲に反応した俺は、返事をすることもなく、そそくさと部屋の隅へと向かった。

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「もう、シロウ。あんなところにいちゃ、駄目じゃない」

到著するなりミリアに叱られた。

その後小言が続く中、ミリアの全を視界にれる。

厚い。きれいに分かれた前髪。し長めの後ろ髪。大きな茶の目。それはそれで、魅力的だ。

だが、やはり彼の魅力といえば、このはちきれんばかりのになるだろう。

今日も、ファンキーなプリントTシャツの谷間にあるマシュマロのような脂肪から、妙な香が漂ってくる。

この憧れの魅の臭いを嗅ぐチャンスは、対面に立っている今しかない。

俺は狹い鼻腔を大きく広げた。

そして、まさに今息を吸い込もうとした矢先のことだった。

「シロウ。ミリアのばっかり見てないで、サイキック・チャレンジに集中した方がいいんじゃない」

心ない臺詞が、俺にかけられた。

こんな人を不快にさせる言葉を吐く男はひとりしかいない。

隣にいる男へと目をやった。

やはりジョン・スミスだった。

偽名くさいこの名前だけを考えれば、どこにでもいる普通サイズの男を誰でも思い浮かべることだろう。

だが、ひどくたるんだ顎と馴染みの水兵服からはみ出た腹。極端に低い背。さらに金髪のタマネギ頭。一見するだけで、そうではないとわかる。

「さあ、もう始まるよ。ああ。シロウ。畫面にる位置にいたらまずいから、そこをどいて」

ジョン・スミスが普段と同じく棒読みで指示を送ってくる。

そのままパチパチと太い指でノートパソコンのキーボードを用に叩く。

彼のその姿を束の間眺めた後、俺はちっと舌打ちをしながら後ろにを引いた。

気を取り直して、部屋の中央へと目を移す。

スピキオはいつの間にかドア付近の壁際にを引いており、部屋の中央はレイとだけになっていた。

「ところで、あなたの名前はなんと言うのかしら」

長に合わせるように腰を屈めながら、レイが尋ねた。

「アリス・ウエハラ」

赤いドレスのは短く自分の名前だけを伝える。

聲は冷靜そのもので、表にもあまり変化は見られなかった。

を見る限り、年齢は小學生になったかなっていないかくらいだが、度はそれなりに據わっているようだ。

「アリスは両親をすでに亡くしていましてね。語るまでもないことですが、生まれが底辺だから孤児院にもれない。そういった経緯があり、食べに困って舊市街地でふらついていたところを私が拾ってあげたのです」

研究室の無機質な壁にもたれ掛かりながら、スピキオが不遜なもの言いでアリスとのなりそめを語る。

「……相変わらず、どす黒いわね。あなた」

レイはそう言って、侮蔑の表を浮かべた。

とは約一ヶ月半くらいの付き合いだが、ここまでレイの表が変化するのは初めてだ。

背筋にうすら寒いものすらじる変容ぶりだった。

「ええ、トウジョウ先生。まさにあなたの仰る通り。私もそのように思っていますよ」

スピキオはとぼけたじでレイの見解を肯定した。

ひょうきんめいた口調だったが、白い仮面が機械に変換された低音の聲を発しているので、おどろおどろしいじだった。

異様――まさに、その単語がこの男にはふさわしい。

「ふん、まあいいわ」鼻を鳴らしながら、レイはスピキオから目を切った。「さて、アリス。今から、サイキック・チャレンジの要である監視者をあなたに紹介するわ」

そう言葉を続けると、間をあけることもなくのポケットから目玉に羽が生えたような丸いを三つ取り出した。

を見るのは初めてだったが、それがテレビ局などでよく使われるラインハルト・テクノロジー社製飛行式小型広範囲撮影用カメラ、アイ・モスキートであると、すぐに判別がついた。

「この子たちは、アイ・モスキート。彼らが私たちふたりの行をあらゆる角度から常に監視するわ。つまり、普通のトリックはすべてこの目玉に暴かれるということよ。ええ、もちろん、それはあなたの能力が偽であったとしたら、の話だけれどね」

そう言い放つと、レイは細長い指の間にそれぞれ三つの目玉狀の円球を挾み込んだ。

アイ・モスキートはその特ゆえに値段は相応にする。なので、超常現象研究懐疑論者と言われる人間でこの端末を所持しているのは、ラインハルトグループ會長のひとり息子であるミハイル・ラルフ・ラインハルトというパトロンを持つレイくらいのものになるだろう。

「用意はいいかしら、ジョン・スミス」

レイがジョン・スミスに呼びかける。

それに呼応するかのように、その小型の太っちょはレイに向け親指を立てた。

「ちょっと、ジョン・スミス。それじゃあ、先生にわからないでしょ」

すかさずミリアが注意した。

「ああ、そうか」と鈍く反応してから、ジョン・スミスは再び口を開く。「先生、アイ・モスキートにプログラムを送信したよ。プログラムは完璧だから、問題は発生しない」

「そう」

ジョン・スミスの言葉に短く返事をしてから、レイは天井に向けて握り拳をかざした。

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