《悪魔の証明 R2》第47話 032 エリオット・デーモン(2)

……といっても、助手席のとは違い、年齢は相応に高そうだ。おそらく、十五歳から十七歳くらい。紛うことなきツインテール金髪。目はき通るように青い。

なぜだかわからないが、顔はふてくされていた。

あの殺気はその態度から來るものなのだろうか。

のリボンと同じの黒いブラウスを著ているが、姉妹というわけではなさそうだ。

まず、顔の造りが全然違う。そして、瞳のの相違。のそれは漆黒だったが、の方はき通るような青。

二人ともボロボロのカマロには似つかわしくないという共通點はあるが、その他ありとあらゆる部分で姉妹とじる部分はない。

おそらく自分のこの直に間違いはないだろう。

そう一通り推理し終えた矢先のことだった。

と目が絡み合う。

特段、視線を切る必要もないと思った私はそのまま彼を見つめていた。

やがて、怒ったように彼はぷいっと顔を反対側に向けた。

その拍子にしウインドウから離れたせいで、の全が私の視界に飛び込んでくる。

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先程のブラウスは言わずもがな、極端に短いスカート、太ももを半分覆うニーハイソックス、首から下げたポシェット、全てが黒ずくめだった。

この黒裝束――これが俗にいうゴスロリというやつなのだろうか。

數年前に読んだオタクを批評する新聞記事が頭に浮かんだ。私の趣味に合わない人種が著る服であると、その記事を読んで思った記憶がある。

だからといって、彼に対し何ら思うことはない。

そのタイミングで、ブロロロ、と車のエンジン音が鳴り響いた。

先頭車両から順に次々と車は前に走り出す。クラクションの音や、タイヤが軋む音、さらには通行人の足音。それらが一斉に私の周りを取り囲む。

渋滯はようやくき出したようだ。

歩道手前にいたこともあり、自然とカマロの運転席が視線の先に來る。

「こいつは……」

その中の様子をうかがった私の口から図らずも聲がれた。

運転席にいるのは男だった。

アフロのようなパーマヘア。デスマスクかと見まがいそうな白い仮面。表現が難しい程の漆黒のスーツ。

「スピキオ・カルタゴス・バルカ……」

私は彼の名を呟いた。

スピキオは、ずいぶん前から教祖トゥルーマンの右腕としてトゥルーマン教団で働いている男だ。

青年活部の筆頭ではあるが、テレビへの出は比較的ないので、世間的にはあまり認知されていない。

そういったことから、道行く通行人の中で彼に注目する者はほとんどいない。おそらくそのほとんどが、カマロの運転席にいるスピキオをどこにでもいるトゥルーマン教団の一員だと思っていることだろう。

だが、ラインハルト社私設警察の人間である私にとっては話は別だ。

スピキオはトゥルーマン教団青年活部の筆頭として、私設警察ではかなり有名な人だった。

かといって、それは私設警察が何かしらの容疑で彼をマークしているという意味ではない。

トゥルーマン教団は社會からの信頼も厚いし、政治に干渉はしているが、表向きは一宗教法人だ。

その宗教法人青年活部の長が、自らの手を汚すような真似をするはずがない。

さらにいえば、例えそういうことがあったとしても、政治的圧力でもみ消されるだけだ。また、私設警察も裏から手を回されくことはない。

なので、スピキオはトゥルーマン教団の大規模な催事があった時の私設警察が保護しなければならない対象として、社のデータにエントリーされているというだけだ。

とはいえ、そのような分である者は、いかにトゥルーマン教団が巨大な組織とはいえそう數は多くない。

なので、私設警察の人間であればほとんどの者が彼のことを知っている。

そんな相當な分であるのにもかかわらず、スピキオが運転手もつけず自ら運転している姿は意外だった。

この見窄らしいカマロも彼とは明らかに不釣り合いだ。

憶測に過ぎないが、おそらく単なる本人の趣味でこのような狀態の車に乗っているといったところなのだろう。

でなければ、彼のような分の人間が自らこのような車を運転する道理はないはずだ。

だが、一般の通行人がそのような経緯を知る由もない。

トゥルーマン教団の人間が仮面をつけたまま運転することは日常でよく見かける景だ。

ゆえにあの特有の仮面を被ったスピキオが運転していても、彼が誰であるか通行人の興味を引くことはないだろう。

スピキオがるカマロは鈍いエンジン音を響かせながら、私の目前を走り去って行く。

あのカマロが向かおうとしている方面には國立帝都大學しか大きな場所はない。おそらくその近辺で、碌でもないことをする気ではあることだけは間違いないだろう。

果たしてふたりを引き連れて、トゥルーマン教団青年活部筆頭スピキオは何をするつもりなのだろうか。

小さくなっていくカマロの後ろ姿を見送りながら、私はそう訝った。

だが、すぐに首を橫に振る。

妙なことに干渉する必要はない。私は私の仕事をするだけでいいんだ。

なぜなら、私はエリオット・デーモンなのだから。

そして、信號は私の獨白を肯定するかのように青へと変わった。

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