《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》スリの銀さん

飛び上がりそうなくらいびっくりした。

ばっくんばっくん言う心臓をおさえ、手探りのために前に腕をばす。

すると突然ガッと手首を摑まれた。

聲も出ないくらいの恐怖だった。

腰が抜けてその場にへたり込んでしまい、涙目になりながら手を振り払おうと暴れる。

「はっ、何だお前。みたいな男だと思ってたけどマジで弱いじゃん。良いとこのお坊っちゃんか? よく一人でって來たな」

年の聲がする。

手首を捻られて小さな悲鳴が出た。

「靜かにしろ。外に何人も居るのは分かっているんだ。お前を人質にして逃げる。ついて來い」

そんな事させない!

私は咄嗟に王宮で待つランランと“連攜”した。

遠くて難しいかなと思ったけど案外いけた。

連攜した瞬間、私にランランの力が流れ込んで來る。

――よし! 風の能力、使える!

対抗手段があると思った途端勇気が湧いて來る。

そうとは知らない年は私の服のを探り始めた。

等を隠していないか確かめているようだ。

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太ももから腰にれた途端、ぴたっときを止めて「……ん?」と呟いた。そしてスススッと手を上にずらして、「お前……、……?」と呟く。

明らかに揺している。

この隙をついて、ランランのスキルで突風を浴びせた。

手が離れた。

彼が後ろに飛び退く気配がした。

相変わらず視界は悪い。

衛兵さん達は出口を固めなければいけないので持ち場からけない。

殿下も瘴気でけない。

ならば……もう、止むを得ないのではないか。

出來れば石にれた狀態で浄化をしたかった。

石にれて、瘴気をに一度れないと、スキルを殘したまま浄化する事は出來ない。

それは今までの経験で何となく分かっている。ただ浄化するだけでは空化した明な石が殘るだけなのだ。

でも、止むを得ない。

立ち上がり、浄化を発した。

私を中心に、ちりちりとスキルの範囲の瘴気がに変わっていく。

「何っ……!? 何だ!? お前」

年の怯む聲が聞こえる。

周りがし見えるようになってきた。

ぱさりとキャスケットが頭から落ちる。

構わずに足を一歩進めると、その分だけ浄化の範囲が広がった。

「これは……スキルか!? しまった、お前達、貴族だったのか」

そう言って彼は駆け出した。

逃げるようだ。

彼が真っ直ぐに向かって行った出り口には、殿下(倒れている)と、殿下を守る一人の衛兵さんがいる。

「どけ!」

浄化で視界の良くなったところに、軽な年が衛兵さんの剣をひらりとかわし跳び越える様子がはっきりと見えてーー私は、つい思いっきりんだ。

「ランラーーーン! 助けてー!」

バタバタと衛兵さん達が出り口に集まる足音が響く。

でも年の逃げる足の方が速い。

――ダメか……。

そう思って彼の後ろ姿を見ていたら、年は突然コテッと転んで倒れてしまった。

「!?」

逃げる時や剣をかわした時の軽さからは想像出來ない失態。

すぐに起き上がるかと思いきやそうでも無く、倒れたまま痛そうに背中を丸めている。

「ど、どうしたのかしら」

表に出ると、殿下がお布団からゆっくりとを起こして言った。

「なんで俺じゃなくてランランなんだよ……」

帝王のお目覚めだ。

めちゃめちゃ不機嫌そう。

「ご、ごめんなさい……。連攜していたから、つい」

「そっか。ごめんね、ステラ。俺が倒れるのが早すぎたばっかりに、危ない目に遭わせちゃったね」

帝王はそう言って立ち上がり、衛兵さん達が年を取り押さえているところに謎の怒りオーラを発しながら歩いて行く。

「痛ぇ……」

年はうっすら涙目になって、抵抗する気力も無さそうだ。

「殿……お兄ちゃん、この人に何かしたんですか?」

「右足の親指の骨を壊した」

「うわぁ……」

思ったよりえぐかった。

衛兵さん達が年の頭から帽子を取り上げ顔を曬し、懐から革袋を取り出して殿下に恭しく獻上する。

「……殿下。こいつ、町で有名なスリのシルヴァですよ。煙みたいに神出鬼沒で逃げ足が速く、攻撃も當たらないって評判の奴です」

金髪なのにシルヴァって名前なの……?

覚えやすいような、覚えにくいような。

シルヴァと呼ばれた年は目を大きく見開いた。

「殿、下……?」

「そうだぞ。お前、王族にとんでもない無禮をかましたんだ。どんな処罰が下るか楽しみだな?」

衛兵さん達が言うと、彼はキッと目付きを鋭くした。

「知らなかったんだよ! 知ってたらこんな面倒な奴らに関わったりしない! クソッ、貴族どころか王族かよ……。何なんだよ、庶民に変裝なんかしやがって。最悪だ……! ついてないぜ!」

その時ふと、離れたところの民家の影からぼろぼろの服を著た小さな子ども達が數人、こわごわとした様子でこちらを窺っているのに気付いた。

泣いている子もいる。

どうもあの子達はただの野次馬では無いような気がする……。

私は思い切ってシルヴァに訊ねてみた。

「あの……、あそこにいる子ども達は貴方の関係者ですか?」

「あぁ!? …………いや、全っ然知らねぇ。俺とは何の関りも無い。だから悪いのは俺一人だよ。さぁ、牢屋でも絞首臺でもさっさと連れてけよ。おい、あっちを見るな。俺を見ろ」

急に態度が変わった。

これはもう、関係者ですと言っているも同然なのでは……?

ちらっと殿下を見ると、殿下も同じ想を抱いたようだ。

怒りのオーラが急激に収束し、複雑そうな顔になっている。

「……取り敢えず、王宮に連れて行け。後で俺が尋問する」

「はっ」

衛兵さん達に引きずられて行くシルヴァを見送り、微妙な空気のまま倉庫の中の瘴気石の浄化作業にった。

放っておいたら魔獣が出そうだからね……。

木箱にれられ無造作に置かれていた瘴気石は、さっきの浄化で空化してしまったものもそれなりにあったけれどまだ黒いままの石も多く殘っている。

直接手に取って、スキルを殘して浄化していく。だけど、結構な量があるその石を浄化しているに目眩がしてきてしまった。

スキルの使い過ぎだ。

木箱にもたれ掛かって休憩をしていると、殿下が「きりがないから今日はここまでにしよう」と言って私の腕を取って立たせてくる。

朦朧としていた私は無意識に頷き、殿下に支えられながら倉庫を後にした。

殿下も、未だ殘る瘴気に當てられて倒れこそしないもののフラフラだ。

「……ステラ。ごめんね」

何に対して謝っているのだろう。分からなくて、首を橫に振った。

どのくらい歩いただろう。

倉庫から離れるにつれて殿下は元気を取り戻たようで、私をマリリン(お布団)のように背負おうとしてくれた。

「いえいえ結構です。絶対お布団より重いですから」

「いいから。乗って」

やや強引な殿下に抗いきれず、背負われて、お背中に頬をつけた瞬間なんだか圧倒的な安心に襲われてしまった。

一気に中から力が抜けていく。

みっともないとか恥ずかしいとか考える前に、意識が飛んでしまっていた。

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