《悪魔の証明 R2》第49話 041 セオドア・ワシントン(1)

「やれやれ、君もテロ事件のことか」

を前に乗り出して、諌めようとした。

だが、すぐにミハイルの手が先に鼻先にびてくる。それを見た私は、再び椅子に腰を落ち著けた。

「大統領、質問がございます。ARKとトゥルーマン教団が裏でつながっているという噂は耳にしたことがありますか?」

と、訊いてきた。

このミハイルの問いかけに、しばし考え込んだ。

ARKのテロ資金がどこから出ているのか未だに不明だ。

だが、ネット上で資金を提供しているのはトゥルーマン教団ではないかという疑が囁かれているのは知っている。

宗教法人は稅金を納める必要はなく、資産の使用用途を政府に報告する義務はない。

ゆえにARKに資金を自由に提供できる宗教法人がテロの黒幕のはずである。

そして、それ程の資産を持つ宗教法人は世界でトゥルーマン教団しかいないはずだ。

この手の掲示板書き込みには否定的意見もあるが、なからず支持は集めている。

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所謂ネット上の噂でしかないが、この見解には概ね賛だ。

私にしても、ARKに資金を提供しているのはトゥルーマン教団であろうと思ってはいる。

だが、と首を橫に振った。

「まず証拠がない」手を前に組みながら、言う。「それに、君も知っての通り、他政黨に限らず我が黨の議員もなからず彼らから獻金をけ取っているようでね。隠れトゥルーマン教団の構員も中にはいるから、調査をしようとすると何かにつけて邪魔がる。自由にけんのだよ、ミハイル」

「大統領。お言葉ですがそれは存じ上げております。しかし、それだけでは0點です」

ミハイルがきっぱりと言う。

「50點とかではなく0點?」

あまりにも不遜な言いに驚き、思わず確認してしまった。

「ええ、0です。紛れもなく」

「……まあいい。で、それだけではないとはどういうことだ?」

気を取り直して、尋ねた。

この馬鹿の言い草にいちいち腹を立てていては、が持たない。

「はい、大統領。単刀直申し上げます。実は、ラインハルト社からも資金が提供されているのです」

「は……?」

あまりにも突拍子のないミハイルの言葉に、語気が上ずってしまった。

と、同時に目眩いを覚える。

「ラインハルト社からNPO法人に大量の資金を寄付しているのですが……」ミハイルは私の心労を無視するかのように言う。「そのNPO法人は、トゥルーマン教団と関係しているのです。いえ、関係というより教団の傘下団という方が正解ですね。そのNPO法人からトゥルーマン教団へラインハルト社の資金が流されています。そして、トゥルーマン教団はその資金の一部をARKに提供しています」

「な……」

再び言葉を失った。

そんなわけが、そんな筈があるわけがない。

頭の中ですぐに否定する。

ミハイルの話を要約すると、トゥルーマン教団をパイプにして、ラインハルト社とARKが提攜していることになる。

そんなことをして、ラインハルト社にいったいどのような利益があるというのだろうか。

この私の疑問に答えるかのように、ミハイルは言う。

「株の空売りですよ、大統領」

「空売り? 空売りについてはわかってはいるが……ARKのテロに合わせて鑑みると、スカイブリッジを運営する舊航空會社系鉄道會社の株があがった時點で、証券會社から株を借りけ、然るべきタイミングで株を売卻するということかね?」

「はい、お察しの通りです。借りけ後、ラインハルト社の裏でいているトゥルーマン教団により命令をけたARKが、ある程度の期間をおいて列車を破。株の値下がりを強制的に引き起こすのです」

「それで株の値下がりが最大化したところを見計らって、株を売卻……ふむ、確かにそうすれば、必ず過去に売卻した金額との差額で利益が出る」し唸りながら、ミハイルの言葉に補足をれた。「航空會社、現在の鉄道會社が倒産しない程度の被害にコントロールできるのであれば考えられるな」

「いいえ、大統領。もう統廃合により淘汰されつくした舊航空會社のこれ以上の倒産は考えられません。必ず株は元通りになります。このサイクルを繰り返すことによって、ラインハルト社は莫大な利益を上げてきた。無論、株の貸借料というのはかかりますが、そんなものは考慮にれなくて良いくらい小額です」

このミハイルの推理、確かに理論的にはありえる話だ。

そう考えた私は、

「証拠はあるのかね?」

と、尋ねた。

「もちろん、ありません」

短くミハイルが否定する。

これを聞いた私は、図らずも椅子から転げ落ちそうになった。

証拠もないのにつらつらと今まで話をしてきたのか。あまりにも腹立たしい。

自分でもわかるほど、こめかみからピキっという音が聞こえてくる。

このままでは強制ストレスによる脳卒中で、いつかこいつに殺されてしまうことになるだろう。

「大統領。彼らのこの行為を示す証拠を探すことはほぼ不可能です」私の心に構わず、ミハイルは続ける。「ご存じの通り、國際完全自由貿易協定により政府は株の空売りを行った會社、個人を特定または公表する権限はありません。さらに言うと、そのデータを保持する機関はラインハルト社の傘下にあります」

この彼の臺詞に、私のはごくりと鳴った。

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