《お月様はいつも雨降り》第五十三

<登場人

靜寂秋津 (しじまあきつ)

就活中の大學生、謎の企業からの姿をした人型端末『シャン』を贈られる。

シャン

『月影乙第七発展汎用型』の人型端末

小泉 廉 (こいずみれん)

アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している

大椛マサハル (おおなぎまさはる)

アキツの小學校の同級生 カエデと活を共にする

上野カエデ (うえのかえで)

アキツの小學校の同級生 シャンと同型の男タイプの『月影人形』と共に行している

播磨ヒロト (はりまひろと)

アキツの小學校の同級生

鳥羽口ツカサ (とばぐちつかさ)

ヒロトの妹

佐橋ユキオ (さはしゆきお)

アキツの小學校の同級生

大熊サユミ (おおくまさゆみ)

アキツの小學校の同級生 『ラグ』というシャンと同型の『月影人形』と共に行している

名栗ワカナ (なぐりわかな)

アキツの小學校の同級生

湯岐ジュン (ゆじまたじゅん)

アキツの小學校の同級生 『リグ』というシャンと同型の『月影人形』と共に行している

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諏訪山マモル (すわやままもる)

アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している

森脇イツキ (もりわきいつき)

ベンチャー企業『クトネシリカコーポレーション』の代表取締役

アキツの小學校の同級生

モリワキルナ

イツキの雙子の姉でアキツの小學校の同級生

この空間の広がりはどこまで続いているのだろう。れた雲が幾重にも重なる狀態が薄暗い世界の中で渦をつくる。

數えきれないほどの校舎を壊したあの大きな人形の首が靜かに回転しながら不規則に浮遊を続ける。

それを追い人の形をしたモノがまるで渡り鳥のように群れをつくり渦の上を橫切っていく。

渦の中心には人の目が大きく見開かれ、瞳孔が忙しなく収を繰り返す。

すすり泣きやささやき聲がこだまする中、空間に突然浮き出た口の歯ぎしりがあの金屬音を奏でる。

人が人として形を形できない世界

存在しているだけで不快で退廃的な世界

時のはざま?

それとも僕らが行きつく先の未來?

突然できた大きな川の水が僕たちの魂ごと、さらに上下の定まらない地點へ押し流していく。

……?)

漆黒の空間に抗うような淡い

その弱々しくとも自分のすべての覚を包み込む優しい

(なんて細い三日月なんだろう……)

雲のに繊月(せんげつ)と呼ばれる絹糸のような細さの月が僕の頭上に浮かんでいた。

手をばせば屆きそうに見えても、永遠にたどり著くことができない場所

(ルナ……?)

ルナ、あれはルナなんだ。

僕を迎えに來てくれた、ずっと僕が來るのを待ってくれていた。

「ボウ、お前は今どこにいる?」

ヒロトの聲は僕が深い森の中にいることに気付かせてくれた。

ちがう、森じゃない。

樹木の一本一本がかないの人形だった。大小、數多のきを止めた人形たちが眼のような葉を茂らせ、蔦と化した両の足を隣の幹となったに絡ませていた。

それが數えきれない數だけある。樹海でできた地平線が灣曲し、空高くまで続いている。

僕は大きなの底にいるようにじた。

シャンは僕が正気を取り戻した様子に安堵していた。

「上様の意識が違う方向に魅かれていたのじゃ、わたしとまた繋ぐことができて安心したわ」

「悪趣味なところね、ルナはいったいどこにいるのよ」

カエデにそう言われたセバスチャンはオロオロしながら木と木の間を何度も往復している。

「分からなくなりました、ここまでは何とか繋がってきたのですが……おや?」

セバスチャンは何かに気付いたように薄暗い空を見上げた。

「お月様は見ている」

人形の市松やラグも同じように空を見上げている。

でも、僕もそうだけどサユミ、カエデ、ヒロトには何も見えていない。

近くの木になっていた赤い実が小さい音をたてて割れると、明な粘を長く引きながら人形が現れゆっくりと地面に落ちた。

何かの合図があったかのように実の割れる音がそこかしこから上がった。

「人形が生まれている……壊さなくてはを通って、また大勢の人が死ぬ」

サユミやカエデは陸に釣り上げられた魚のように跳ねている人形の破壊をそれぞれの月影人形たちに命じた。

普通であればすぐに命令に従い、破壊を始める月影人形たちだが、今は何かに躊躇しているように見えた。

「ご命令に反するようですが、お月様はそれを私たちにんでおりません、お月様が私たちにんでいるのはこれです」

市松は小さな拳銃で自らの頭を撃ち抜いた。市松はきを止め、青と茶を頭部から流した。

ヒロトもその事態に戸っていた。

「やれ!イツキは俺たちに……」

ヒロトがその言葉を言い終える前に、ツカサはヒロトごと自分のの中から破裂させた。ヒロトが立っていた周囲にだまりができ、上半の無くなったヒロトの足だけが転がっているのが見えた。

「ヒロト!」

悲鳴が上がった。

セバスチャンとラグは、それぞれの主人であるカエデとサユミに近付くと二人の首を音もなく切り落とした。そして、返りを浴び、真っ赤に染まった自らの首も同じタイミングで切り落した。

「どうして!」

ついさっきまで、一緒にいこうと言っていた仲間たちがほんのしの時間で誰もいなくなった。

僕は自分もシャンに殺されるのではないかとシャンの顔を見た。

シャンは僕の方を振り向いて見ていたが、表が崩れてしまいそうな泣き顔だった。

「上様を殺すと思うのか?」

シャンに聞かれ、僕は何か答えようとしたが、のどの奧に何かが詰まっているようで聲を出すことはできなかった。

「ここの空間に集まっている意識の集合にとってわしたちはウィルスなのじゃ……今も、わしに上様のを保つ意識を破壊しろと意思が強く要求してくる」

シャンが僕に向かってゆらゆらとした足取りで迫ってきた。

「!」

「いつまで寢てるのよ」

カエデの顔が寢ている僕の目の前にある。

「カエデ?生きてるの?」

「はぁ?」

「よかったぁ!僕は、僕は!」

「何、言っているのよ!もう、みんな行くのを待っているのよ」

夢だ……僕は夢を見ていたんだ。僕はこらえきれなくなって涙を流した。

「お前はいつも寢坊ばかりだ、ワカナやマモルなんかとっくに先に行ってしまったぞ」

レンがあきれた顔で僕を見て笑っている。ユキオとサユミ、ジュンも一緒になって笑いをこらえている。

小學生の時のマサハルもいた。

「ボウ、イツキが早く來いって呼んでいるぞ、俺も行かなくちゃならなくなった」

「ルナは?」

「ルナは無理だったよ、失敗したってな、でもやれることはやった、そのことでイツキはボウを責めてはいない」

「失敗?何を……」

僕の頭の中が混してきた。

「あれが見えるか?あそこに立っているのはただの木じゃない」

「木じゃなかったら何なんだよ!」

僕は無意識のうちに大きな聲でんでいた。

「時間から消えていくそれぞれの意識のじゃ」

僕の前にいたマサハルの姿が消え、僕とあまり変わらない長のシャンが立っていた。

の足元には首のないカエデとジュンのかなくなったが黒く変しただまりの中で並ぶように転がっている。

「上様……もう終わりなのじゃ」

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