《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第五話「誰がために企畫はある? 2」
數日後。
會社の休憩室でカップ麺をすすってると、真宵くんがやってきた。
「食べるときも抱き枕を持ってるんだね」
「あ、真宵くん。私に話しかけて大丈夫? 怪しまれない?」
「まあ同期だし、夕飯を一緒に食べるぐらいは不自然じゃないでしょ」
そう言って、真宵くんはコンビニのお弁當をテーブルに広げた。
私はこっそりと彼に耳打ちをする。
「あとで私の席まで來てくれる? 家から畫材一式を持ってきてね、カラーで絵を描いてるんだ」
「アナログで? ……確か、普段はデジタルだよね?」
「下書きはいつも鉛筆だよ。スキャンしてから著彩してるんだー。さすがにアナログでを塗るのは久々だよ~」
「そっか。相変わらず元気だね」
なんか、そっけない返事。
彼の顔もすぐれない様子だった。
「んん? 元気ないね」
「々とゲームのアイデアを考えてるんだけど、面白くないんだよ。……実は自分の席で作業中に部長に見られてヒヤッとしたんだけど、『捨て企畫、順調だな』と言われただけで……」
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「捨て企畫って思われたんだね」
その言葉がに刺さってしまったのか、真宵くんは深く深くため息をつく。
私もアイデアに悩んで悶えることがあるので、その気持ちはよくわかる。
うまくいかないときって、自信もパワーもなくなっちゃうんだよね。
……そういうときこそ、この元気アイテムの出番なのだ!
私は抱き枕を差し出す。
「抱き枕どうぞー」
「いやいや、大丈夫」
「む~。元気になるのに。何かを抱きしめるって、すごーく安心するんだよ!」
でも真宵くんはため息をつくばかりで、相手にしてくれない。
「実は、五億っていう金額にビビってるんだ……。ゲームソフトが一本6000円だとすると、だいたい半分が利益になるから……。五億円を回収するには……ええっと、17萬本ぐらい売らなきゃいけないんだよ!」
「……ええっと。あんまりピンとこないです……」
よくわかんないけど、要するにハードルが高すぎて思考停止してるってことみたいだ。
「あれ、でも累計で何百萬本も売れてるソフトとか、見たことあるよ?」
「それってランキングの上位でしょ? 有名なシリーズばかりだよ。10萬本ラインで完全な新規タイトルって全然見かけないんだ……」
言われて思い起こすと、確かに元々人気な作品の続編しかなかった気がする。
ゲームを買う時にはついつい知ってる作品の中で選びがちだし、初めて見る作品は確かに手をばしにくいかもしれない。
働く人にとっては6000円はそこまで高くないけど、學生……ましてや小學生ならクリスマスや誕生日ぐらいしか買ってもらえないもんね。
見知らぬ作品に手を出す人はなかなかないかもしれない。
「あ、でもそれって宣伝とか営業の人が悩むことであって、真宵くんが考えるべきは『面白い容』だと思うよ?」
「でもさあ……。売れるゲームって、パッと見た時に『面白そう!』って思えるでしょ? そういう『面白そう!』が思いつかないんだよ……」
そして、真宵くんはちらっと一枚の紙を出した。
紙には箇條書きで単語がいっぱい書いてある。
「ヒーロー、忍者、魔法使い、妖怪、蟲、恐竜、巨人、神、鬼、悪魔、モンスター、サムライ……? なんだい、これ?」
「とっかかりがなかったから『メインターゲットは小學生』っていう部分に著目しようとして、好きそうなものを書いてみた」
「その進め方でいいと思うよ?」
「まあ、出せたネタで落ち込んでるんだよね。……全部どっかで使われてるものだし。それに、ゲームって言っても、僕には既存のジャンルをいじるぐらいしか思い浮かばないんだよね……。何を考えても二番煎じ三番煎じになるから、いやんなっちゃった」
そして、頭を抱えてうめき始めてしまった。
「ああーー! ダメだ、何が面白いのか分からない! そもそも僕がダメなんだ。新人だし、実績はないし、才能もないし。ゲームが好きなだけのゲーム人。いや、ゲーム好きなんておこがましいっ! ゲームの何が面白いのかさえ分かってなかった無能ですっ。ものをつくるなんてドダイ無理ッ! 同じものを量産もできないコピー機以下。ただ人まねするしか能のないオウムッ? あああオウムさん、バカにしたわけじゃないんです。僕なんてそんなマネすらできない、ただ食って寢て、真のクリエイター様が作った神のような作品を味わうだけの存在。……んああ、なんでこんな會社にっちゃったんだろ。苦しい、苦しいよ。いっそ人を辭めて草になりたい」
うわわ。これは重傷だぁ……。
ぐちゃぐちゃとつぶやき続ける真宵くん。
ちょっと落ち著いてほしい。
だから「えいっ」と抱き枕を押し付ける。
無理やりなので枕に顔が埋もれてしまった。
「もが……」
「どう?」
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……いい匂い。……って、ダメダメダメ! 彩ちゃん何すんの?」
「落ち著いた?」
「落ち著くわけないし!」
「むむ。顔が赤くなってる」
「そんなにクッキリ変わるわけないし!」
「なんだよー。デザイナーの目をなめるなよ~」
冗談めかしてふざけると、真宵くんの表がようやく緩んできた。
とりあえず空気は変わったみたいで、よかったよかった。
そして、改めて真宵くんに向き合う。
「ターゲットのことを考えるのは正解だと思うんだよ。でもいきなりモチーフを考えるより、まずはニーズを知らなきゃ!」
「ニーズ?」
「そう。ターゲットの人たちが何を考えて、何に悩んでて、どんな求を持ってるのか。……それを知らないと、モチーフも何も決められないよ~」
真宵くんはハッとした表になり、腕組みをしてウンウンとうなづく。
「……そっか。そうだよね。僕は小學生のこと、何も知らなかった」
「そうだよ小學生! 調べなきゃ~」
かくいう私も、実はここ數日で悩んでいたことを思い出す。
生の小學生に最近れたことがないので、何を考えてるのかてんでわからなかったのだ。
「小學生の男の子か……。親戚にいないな」
「私もいな~い」
「學校帰りに突撃インタビューするか?」
「小學校に潛しよっか? わ……私、背がひ、ひ、ひ、低いし!! ランドセル背負えばギリギリ!」
「犯罪的だよ! だいたい彩ちゃんは抱き枕と一緒に行く気? とんだ変態だよ!」
「通報まったなしだねっ!」
その時、休憩室のり口あたりで咳払いが聞こえた。
振り返ると、そこには腕組みした田寄さんが立っている。
「なに、小學生コスプレして潛する計畫? 君たち、変質者?」
うわぁ、すっごく不審に思う目つき。
背の高い田寄さんが腕組みしてると、威圧が半端なかった。
「たっ田寄さん! ちち違います。僕らは変質者じゃないです」
「えへへ……。メインターゲットのニーズが知りたくって、どうやったら會えるかなって」
懸命に弁解する。
すると、田寄さんは何かを思いついたように手を小さく上げた。
「へぇ。じゃあちょっくら會ってみる?」
「會う? 田寄さんって學校の関係者なんですか?」
「いやいや彩ちゃん、そんなわけないよ。僕ら全員、會社員でしょ?」
「ターゲットの生の聲を聞くって言うのはいいと思うよ~。でもさ。學校に行っても、先生の前で子供がゲームの本音を言ってくれるわけないじゃ~ん? うちは息子たちのたまり場になってるからさ、來るといいよ。ちょうど小學六年だし」
息子たち?
小學六年?
思いもよらない単語が飛び出して、私は変な聲を上げてしまった。
「ふぇぇ! 田寄さんってお母さんだったの!?」
「あ。そこ、驚くとこなんだ~」
「あわわ……ごめんなさい。ちょっと年上のお姉さんだとばかり思ってて……」
「なんだよ、お世辭~? とりあえず今夜息子に話しておくからさ、次の土曜にでも來なよ。明後日だったら、スケジュール的にもなんとかなるんじゃない?」
今日は木曜日だ。
明日すぐと言われるよりも、インタビューの準備ができるのでタイミング的にもちょうどよかった。
私たちは田寄さんの提案を快諾する。
「あ……ありがとうございます!」
「あはは。君ら、ほっとくと犯罪者になりそうだったからね~」
田寄さんは飲みを買うと、笑いながら去っていった。
なんだか希が見えてきた!
それにしても、田寄さんは頑張ることに否定的だったのに、協力してくれるなんて意外だった。なんの心境の変化だろう。
でも、すごく嬉しい。
私たちはさっそく、小學生に會うための準備を始めるのだった。
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