《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第六話「誰がために企畫はある? 3」
今日は小學生男子の調査ということで、田寄さんのお宅訪問だ。
小學六年生の一人息子とそのクラスの友達が集まってゲームしてるというので、ぜひ取材させてもらおうということになった。
そして玄関にった途端――。
「おまっ、待てよ! 死ぬ死ぬ死ぬ」
「ちょっちょっエイム正確すぎ!」
「げははははは死ね死ねぶっ殺す! おらららら」
「おースゲー。マジ神。神プレイ」
賑やかどころの話ではない。
おサルの群れみたいだよぉ。
一軒家の奧の方からけたたましい聲が響いてくる。
私はなんだか恐ろしくなって、真宵くんの後ろで小さくこまる。
今日は外出ということもあって、さすがに巨大な抱き枕は持ってきてない。
抱きしめてるのは程よい大きさの枕だった。もちろん推しキャラのイラスト付き。
これならリュックに詰めて運べるので、毎日の通勤のおともになっていた。
田寄さんに案されて廊下を進むと、さらに話聲が聞こえてきた。
「おい、大人が來るんだろ? どうする?」
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「オレらのこと聞き出そうってんだろ? 従うわけねーだろ」
「翔太カッケー」
「シャーやりぃ! オレらの勝ちー!!」
ふぇぇ……。あんなこと言ってるし!
ちゃんと答えてくれないどころか、ボコボコにされる気がする。
奧の扉についている小さな窓からのぞき込むと、四人の男の子がゲームで大騒ぎしている。
その中で、奧に座っている癖っの子がリーダー格のようだった。
「あっはは。ごめんね~。息子らに『話を聞きたい人がいる』って言ったら、妙にイキり始めちゃってさ……。あ、奧の癖っが息子の翔太ね」
部屋の中を見ると、大きなモニター2臺とゲーム機も2臺。畫面を分割しながら2チームに分かれているようだ。
畫面に映っているのは、みどろのFPS……一人稱視點のシューティングゲームだった。
「え、あれってCERO Dでは?」
「セロ? なに?」
「彩ちゃん、さすがに仕事なんだから覚えようよ~。レーティング……ゲームの対象年齢の區分のこと。Dの場合は『十七歳以上が対象』なんだよ」
「あ、そうなんだ! 気にせず買ってたよ~。……じゃあ小學生は遊んじゃダメなんじゃ」
「止ではないけど、過激だから推奨されないんだよね」
二人でしゃべってると、田寄さんが笑いだす。
「あはは、アタシが緩いからね~。ほかの子供らは親がゲーム自にうるさいし、だからウチに集まってんだよ。ほらアタシは仕事柄、ゲーム推奨派だし。ゲームハードは全部そろってるし」
そして、豪快に扉を開け放った。
「おーい年たち。インタビュアーの到著だぞー」
田寄さんの一言で一斉に振り返る男の子たち。
彼らの目つきは警戒心であふれているように見えた。
「こんにちは! 々とゲームの話をしに來ました。僕は真宵 學。よろしくね」
「あっそう」
ふぇぇ……怖いぃ。
うまくいくのかなぁ。
でも、いつまでも真宵くんの後ろでおびえてるわけにはいかない。
「こんにちはー。えっとえっと、夜住 彩っていいます。よろしくー」
挨拶すると同時に、私に視線が集まる。
すると、急に彼らはをビクッとさせて背筋をばし始めた。
「あっ……」
「……ちわっす」
「おいおいおい、涼も介も勢いどうした!」
「ども……」
「大地も顔赤くしてんじゃねーよ! お前ら、が來たぐらいでキョドんなよ」
リーダー格らしい癖っの翔太くんは慌てたように左右を見回すけど、他の子たちは全がカチコチに固まったみたいにかない。
そう言えば小學校時代。私のクラスの男の子たちもけっこう純だったなって思い出し、なんだか微笑ましくなった。
◇ ◇ ◇
そうして無事にインタビューが始まったと思いきや、真宵くんには相変わらず辛辣なままで、まともに取り合ってくれなかった。
真宵くんが半泣きになりながら「彩ちゃん、先にお願いしていいかな……」と言うので、こうなったら引きけるしかない!
私は枕の中からファイルを取り出す。
「えっ!? その枕、カバンだったの?」
「あ、うん。大事なは大事なの中に保管しなきゃね」
真宵くんがなんだか驚いてるけど、私は張でそれどころじゃない。
……自分の絵を見せるからだ。
さすがに會社で描いた絵は機の洩になるので、これはプライベートの時間で描いた未発表の作品だ。
これなら子供たちに見せても問題ない。
……問題ないのだけど、酷評されたら泣く自信がある。
今回の絵の調査では、絵柄と方向が全く異なるイラストを順番に見せて、それぞれの反応を見るのが目的だ。
全部で六パターン。
張のお披目會が始まる――。
まずは一枚目。
ポップな絵柄で低頭キャラの、ファンタジー風のイラストだ。
たぶん小學生向けと言えばこういう頭だろうという代表的なもの。
元上司の井張さんもこういう絵を描いていたので、まずは反応をうかがってみたかった。
イラストを見せると、途端に男の子たちの視線が集まる。
でも、なんだか冷めた空気が漂ってきた。
「あー。こういうやつね。低學年向きじゃね?」
「チビファンタジーは嫌いなんだよな。子供が好きそう」
「なー。俺たち向けじゃねーよなー」
ちょっと意外な反応。
私はメモしながら、次のイラストを取り出す。
二枚目はもっと可いマスコットキャラ風のイラスト。
これは一枚目の反応をみるに、いまいちな想は火を見るよりも明らかだった。
「これは違う」
「俺らをバカにしてんの? こんなの好きな奴いる?」
「稚園児向けじゃね? うちの妹とか好きそう」
うぅぅ……。違うとわかってても、酷評がにグサグサ刺さってくる。
これでも頑張って描いた作品なんだよね……。
次の一枚を見せるのが怖くなってくる。
三枚目。
これは私の本來の絵柄に一番近いイラストだ。
漫畫的な絵柄で、かっこいい年と可いヒロインの絵。ネットでもすっごく高評価をもらえてた絵柄だ。
ちょっとオタク風味の味付けなので小學生男子的にはちょっと恥ずかしい絵かもしれないけど、調査のためにも反応をうかがってみたい。
……すると、彼らは顔を赤らめながら食いついてきた!
言葉なでコメントがほとんどないけど、明らかに興味を持っている。
だけど興味津々なのは明らかだった。
「おい、いつまでも黙ってんじゃねーよ。想ぐらいちゃんと言え。大人を困らすなんてガキのやることだぞっ」
一喝したのは、意外にも癖っの翔太くんだった。
言ってることが最初と真逆なのでビックリだけど、おかげで場が収まる。
ありがとう翔太くん!
「う……うん。いいと思う」
「ま、まあ……好き、かもな」
「今のとこ、一番いいよ」
他の子は照れながらも想を言ってくれた。
なんというか、潛在的には好きだけど、友達の前では素直に言えないじらしい。
この辺はネットでの反応と違ったので、友達同士で遊ぶゲームの場合は表現をマイルドにしたほうがいいのかもと思った。
四枚目は『重厚なタッチで描いたミリタリー風のイラスト』
これは「かっこいい。けそう。リアル」と評判になった。
ちょうど彼らが遊んでたFPSの印象に近いので、この反応は納得できる。
五枚目は『海外を意識した、かなり厚塗りのファンタジー風イラスト』
これは「なんかクドい。外人っぽい。なんか地味」という意見と、「兄貴がやってる死にゲーっぽい。好き! 超リアルで大人向けってじ」と好反応に別れた。
最後の六枚目……これは『アニメテイストでしぶきたっぷりの年漫畫風イラスト』
どっちかと言うと中高生向けの絵だし、かなりアニメ調に寄せた絵柄だから「オタクっぽい」ってじで酷評になるかと思ってたけど……なんと一番の好評となった!
「かっけー。リアル」
「リアルだよな~!」
「けっこう好きかも」
「いや、かなりいいんじゃね? こういうゲームが出れば買うし」
わわっ。なんか嬉しいっ!
今までの酷評が噓のようにひっくり返り、幸せに包まれていく。
こういう『好き』のオーラに包まれることが嬉しくって、モノづくりしていると言っても過言じゃないと思う。
面と向かって言われると、心がムズくなって仕方なかった。
――その後。
絵を見せたことで場が溫まったのか、真宵くんのインタビューもスムーズに進んだらしい。
私は目の前でイラストを見られるっていう恥プレイで消耗しきったのかボンヤリしちゃってて、気が付けばインタビュー會は終わっていたのだった。
まさかこの後、あんな意外な展開になるとは……。
この時には思いもよらなかった。
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