《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第十話「タイムリミット 1」
「共闘しながら競爭するアクションゲームにしようと思うんだ」
休み明けの月曜日、真宵くんが言った。
追い出し部屋、私の席にを乗り出して目を輝かせている。
共闘は文字通り、仲間と共に敵と戦うこと。
協力しながら競爭……?
ふと小學生たちが遊んでいたFPSを思い出す。
「田寄さんのおうちで見た、チーム仲間と協力して相手チームと戦うじ?」
「ええっとね……。超強力な敵がいて、それをプレイヤー同士が協力して倒すんだよ。だけどあらゆる行に點數がついてて、一番貢獻したプレイヤーが優勝。そして最強のプレイヤーを目指すんだ。基本的にソロプレイで、戦闘ごとにマッチング」
「ま、真宵くん。ちょっと待って! 専門用語が多すぎて、よくわかんないよぉ~」
「気ままで勝手なプレイングをしてるだけなのに、自然と協力しあえるゲーム験にしたいんだ! これは面白くなるぞぉ~」
ああもう! 私の聲が全然聞こえてないみたい!
迷ってばかりと思えば、こうと決めたら勢いが止まらない。
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ほんと、彼は社した頃から変わってない。小さな男の子みたいに興気味に話す真宵くんを見てると、なんだか微笑ましくなった。
真宵くんの説明によると、ゲームの中心的なアイデアはこんなじらしい。
1:プレイヤーは「ヒーロー」になり、
人々を守って「強大な敵」を倒す3Dアクションゲーム。
2:「ヒーロー」は「敵討伐の各種行」や「人々の救助」によって
貢獻度に応じた得點をもらえる。
攻撃以外にもあらゆる行に得點が與えられる。
3:プレイヤーの目的は「最強のヒーロー」を目指すこと。
最強のヒーローは素晴らしい報酬と名譽を手にできる。
4:戦闘終了時の累計得點が多い順に、いい報酬がある。
得點が低い人にも十分な報酬がある。
5:「ヒーローの強さ」はプレイヤースキルよりも
裝備アイテムに重きを置き、遊びのハードルを下げる。
6:味方の『何らかの行』を利用すると、非常に強い攻撃になる。
これによってプレイヤー同士が連攜できたり、
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ライバルプレイヤーの行を踏み臺にすることができる。
「う~ん。まだイメージがちゃんとできないんだけど、最強を決めるならどうして対戦ゲームにしないの?」
「まあ確かに、対戦ゲームにしちゃうのが分かりやすいよね。でも友達同士で競い合うのはギスギスするし、嫌な気持ちになることもあるでしょ? だから『共通の強い敵に一緒に立ち向かう』っていうじでワンクッションおいてあげるんだ。もし點數で負けても『手伝ってもらえたから倒せた』って思えるからね。だけど確実に順位はつける」
そっか……。
確かに男の子たちはゲームに負けるだけで取っ組み合いのケンカをすることもあるって聞く。
ちゃんと順位がつきつつ爽やかに終わることができれば、それは素敵なのかもしれない。
なんとなく『共闘しながら競爭する』の意図が分かった気がした。
「ところで、この『ヒーロー』と『強大な敵』って、そのままアメコミっぽくすればいいのかな?」
「ああ、いや。ひとまず余計なイメージがつかないように書いてるだけなんだ。実際には魅力的な世界観やモチーフを加えたいんだけど、そここそ彩ちゃんのイメージ力がしいんだ」
「むむぅ。責任重大だねー」
「もちろんアイデア出しは一緒にやろうね! ブレストして沢山キーワードを出して、ピンとくるものを見つけよう」
ブレストとは『ブレインストーミング』の略稱。
みんなでアイデアを出し合って、相互に影響しあうことでより良いアイデアを探す方法のことだ。
世界観やモチーフかぁ……。
やっぱり男の子たちがメインターゲットだから、カッコよく激しく、ダークなじがいいかもしれない。
イメージを膨らませながら、私の視線は資料の『6番』の項目に留まる。
「ところで『6番』の『何らかの行』ってどういうイメージなの?」
「あぁ……。うん、実はノーアイデアなんだよ……」
「ノーアイデア!?」
「そういうことができるとイイな……って思っただけで」
そして真宵くんはため息をつく。
「これこそプランナーとしての頑張りどころなんだけど……。正直なところ、ここまでまとめただけでも僕にとって奇跡みたいなもんなんだよ……。もう、全然なにも浮かばない! 彩ちゃんどうしよう……」
「ふぇぇ……。でも私もゲームのシステムとかに詳しいわけじゃないし、何も浮かばないよぉ」
その時、田寄さんがガラガラとカートを押してやってきた。
カートの上には大きなダンボールがうずたかく積みあがっている。
「彩ちゃん。今日の単純労働のノルマが來ちゃったよ~。取引先に配る品の梱包だって~」
ダンボールの中にはうちの會社のロゴとマスコットキャラがプリントされたタオルが無數にっていた。
「ふぇっ! 何千枚あるんですか~!?」
「今週中はず~っとこの梱包作業みたいよ。彩ちゃん、作業時間がヤバいんじゃな~い?」
「そっか……。どうしよう」
「ノープランだったわけね」
これはマズい。マズすぎる……。
あと一週間しかない上に、本格的な企畫作りはようやくこれから始められるのだ。
いくら見張りの目がないって言っても、これでは仕事のしようがない。
隣の真宵くんを見ると、彼も顔を青くしていた。
すると田寄さんが私の背中をバンと叩いた。
「よっしゃ、任せな! 彩ちゃんの分は追い出し部屋のみんなで分擔するからさ。しかも今週分は全部! だから頑張りなさいな」
「わ、悪いですよ」
「ふぅむ。……じゃあさ、ひと段落してからでいいから、みんながリクエストする絵をそれぞれに描いてあげてよ。彩ちゃんの絵がもらえるんなら、みんな喜んで手伝うと思うけどな」
すると周り中から一斉に「おおおーーっ!」と歓聲が上がる。
みなさん、私が単純作業の合間に絵を描いてた時に興味津々で見ててくれたのだ。
真宵くんも「さすがは神絵師……。あっという間にファンが増えてるなぁ」としみじみ言う。
ああ……もう……。
嬉しいやら恥ずかしいやら……。大変だよぉ。
「じゃあ……お言葉に甘えていいですか?」
私が応えると、再び歓聲が上がるのだった。
◇ ◇ ◇
――それから丸二日をかけて、ついに世界観やモチーフの方向が定まった。
モチーフは『現代の魔法使い』
現代社會に蘇った『兇悪な悪魔』に立ち向かうべく、自らも『悪魔と契約』して魔法をに著けた『魔法使い』の戦いの語。
空を自在に飛び回り、強力で派手な魔法や近接攻撃で戦闘を彩る。
忌まわしい力に振り回されながらも、人々を守るヒーローとなって戦うのだ。
ランキングのための得點は『人々の謝の想い』や『悪魔から削り取った力』を數値化して手する。
要救助者や敵の數が限られているので、ある意味でプレイヤー同士の爭奪戦にもなる。
そして最も優れた働きをした魔法使いには、屈服させた悪魔との契約権が與えられる。
またプレイヤー全のモチベーションの維持のためにも、順位の低い人たちも低確率だけど強力な魔法が手するチャンスを與えられる……。
これが、世界観で彩った、私たちのゲーム企畫の骨子である。
「うん。僕はいいと思う。……さんざんアイデア出しをしたもんね」
「そうだね~。翔太くんたちも大人っぽくてリアルっぽいが好きだし、興味を持ってくれると思う!」
真宵くんも晴れ晴れとした顔つきで、見ているだけでうれしくなる。
「あとは企畫書にまとめるだけだね!」
「……あ。……うん、そうだね」
真宵くんの顔が青ざめている。
さっきまで楽しそうだったのに、コロコロと変わって忙しそうだ。
「真宵くん? ……急にどうしたの、お腹を押さえて。おトイレ?」
「……冷靜に考えるとさ。あと三日しかないんだよね」
「三日。……ふぇ、三日!? そ、そっか! どどどうしよう」
企畫書用の絵素材をこれから準備するんだけど……。
表紙用のメインビジュアルの他に、主人公、敵、舞臺のイメージボードをそれぞれ複數。
さらにゲーム容の説明用のカットを含めると、必要な絵素材は十枚とか二十枚とかになりそうな気がする。
あと三日で全部を終わらせるなんて、絶的だった。
私は頭の中で、作業時間を必死に見積もってみる。
……せめて、あとまる一週間はしい。
例えば殘り三日をそれぞれ15時間勤務すれば、一週間の作業時間ぐらいになるかもしれない。
「……真宵くん。私、これから三日間、泊まり込みで作業するよ!」
「そうか……。じゃあ僕も……」
真宵くんが言おうとした時だった。
「絶対にダメだよ!」
厳しい口調の大聲が響いてきた。
聲の元をたどると、部屋の奧で怖い顔をしてる田寄さんが立っている。
「真宵くんが殘業するぶんには、法律の範囲なら許可してもらえる。……だけど彩ちゃんはすでに會社に目をつけられてんだ。そのことを自覚するんだよ」
「田寄さん……。でも」
「本來與えられてない仕事のせいで殘業したら、どうなると思う? 當然、君たちが相手しようとしてる部長さんにもバレることになる。そうなれば、きっとこの部屋にも監視がついて、何もできなくなると思うよ」
「そうか……。どうしよう、彩ちゃんにそんなリスクを背負わせられない……」
真宵くんも目を伏せる。
ここまで頑張ってきたのに、もう時間切れなんて……。
諦める?
せっかくここまでたどり著いたのに?
まだあと三日も殘ってるのに?
そのとき脳裏に浮かんだのは男の子のゲームに熱中する姿。
そして、私にサインをねだる翔太くんのいい笑顔だった。
彼らの笑顔が見たい!
そのためにここまで頑張ってきたんだ。
企畫審査會っていう本番を迎える前に、あきらめてなるものか!
「……審査會に企畫書を出した時點で、どうせバレちゃうんです。だったら審査に勝って、自分の居場所を自分で作ります! 私はゲームを作りたいから!」
「だ……だから殘業はダメだって」
そんな田寄さんの言葉を真宵くんが振り切る。
「だったら殘業した痕跡を殘さなければいい。サービス殘業しよう! このキャリア開発室に泊まり込んで、合宿をするんだよ!」
「バカ言ってんじゃないよ! うちの會社がブラックな質から抜け出ようと必死にもがいてるときに、何言ってんのさ!?」
「その影響で追放された田寄さんがそれをいいますか!?」
「……サービス殘業は絶対にダメだ! 働いて報酬を得ることはなにより尊いんだよ。無報酬で働くなんて論外だし、従業員のを想うからこそルールが決められてるんだ」
でも、真宵くんは首を縦に振らない。
私も引き下がるつもりはない。
ルールに背いても、私はやりたいことをやるんだ!
だって作りたいんだもんっ!
「嫌です。僕は彩ちゃんと一緒にゲームをつくるって決めたんだ。今が最大の、そして最後のチャンスかもしれないんです!」
「私も合宿したい! 會社で泊まり込むのは慣れてるし、守衛さんの見回り時間も知ってるから、バレずにやり過ごせます!」
◇ ◇ ◇
――私たちと田寄さんのにらみ合いはいつまでも続いた。
やがて終業のチャイムが鳴った時、田寄さんは「はぁぁ……」と深くため息をつく。
「深夜の作業の時には、扉からがれないように隙間をふさいでおくんだよ」
「田寄さん……!」
「トイレはすぐ脇にあるからいいとして、給湯室と休憩室は途中でカードキーの扉を通るとバレるから、使えない。ポットぐらいは用意しておくんだよ。……駄菓子とカップ麺は自由に食べちゃって。ないけど、アタシからの殘業代だから」
田寄さんは呆れつつも、「しょうがないな」とつぶやく。
それは見逃してくれるということだった。
「ありがとうございます!」
「勘違いしないように。アタシらができるのは、君らの暴走に目をつむるだけだ。二度とやるんじゃないよ。……あと、絶対に七時間は寢ること! 彩ちゃん、徹夜はおの大敵なんだからね!」
「はい!」
二人そろって聲を上げる。
あと三日。
――絶対に企畫書を完させてみせる。
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