《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第十六話「栄の第一歩 3(終)」
企畫審査會のり行きを真宵くんから聞いた數日後――。
私と真宵くんは都のとあるビルを訪れていた。
今日は『容調査』の當日。
メインターゲットである小學生高學年の男の子たちを集めてのグループインタビューなのだ。
実施している會社名がバレないように、調査は會社とは無関係のビルの中で行われる。
子供たちが円卓で向かい合って話し合う部屋と、マジックミラーを挾んでもう一つの暗く狹い部屋。
この暗いほうの部屋に開発スタッフが詰め、ゲーム企畫や絵に対する反応をでじながら観察するのだ。
マジックミラーなので、こちら側の部屋を暗くしておけば子供たちからは『ただの鏡』にしか見えないらしい。ただ、聲は屆いてしまうので、音ひとつさせてはいけないと注意された。
開発側は先日の審査會に參加したメンバー全員に加え、古巣のアートリ-ダーである井張さんも追加で參加している。今回の調査は『絵の印象』も調べられるので、擔當デザイナーとして井張さんと私も呼ばれたわけだ。
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すでに調査は開始しており、六名ほどの子供たちに向かって司會役のおじさんが企畫容を説明していた。
真宵くんから聞いた話によると、部長さんは「これで結果が出せなければプランナーとしての筆を折る覚悟だ」と言っていたらしい。
その部長さんは、さっきからずっと青ざめた顔をしている……。
目の前では、部長さんの企畫へのコメントが飛びっているところだった。
「『みんなでワイワイ』って書いてあるけどさ。対戦するとすぐ殺伐とするし、ワイワイどころじゃないんだよな~」
「そもそも絵が子供っぽくてカッコ悪いよね。リアルじゃない。簡単そうなゲームっぽい」
「武が丸っこくてダサいんだと思うよ」
「服もダサい。っていうか、キャラが全的にダサいよな~」
「どっかで見たことあるじで、新鮮味がないですね。たぶん小さいときに見たことがあるんだと思います」
「絵が優しくても出ないっぽいから、子供でもできそうなじがする~」
「こういう子供っぽいものって友達にバカにされるし、やりたくないなー」
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「あ、でもあまりゲームをしたことのない人なら興味を持つかも」
「そうそう。逆に大人のの人とかがやりそうだよね」
「友達が買って、よっぽど評判がよかったら買うかも?」
ううん……。部長さんの企畫、一言でいえば酷評だなぁ。
この酷評合、聞いたことがある。
それは田寄さんの息子さんたちとのインタビューそのままだ。
私たちはあの時小學生の生の聲を聞いていたけど、案の定の結果だった。
ところで部長さんの企畫容。
私は今回初めて全貌を知ったんだけど、普通にまとまってて、ものすごく悪いってほどじゃなかった。
たぶん私自が子供じゃないから「悪くない」ってじるんだろうな。
部長さんの企畫の問題って、ひとえにターゲットのことをちゃんと分かっていなかっただけだと思う。
當の部長さんはというと、もう泣きそうな顔になっている。
井張さんはどこか諦めたような無表で、ぼんやりと空中を眺めていた。
……さて、次は私と真宵くんの企畫。
絵については小學生向けだと過激すぎるかもってプロデューサーさんに指摘されたので、表現をマイルドに調整してある。
そしてその結果。これはもう、控えめに言っても大絶賛だった。
「現代的な魔法使い、超カッケー!」
「すげぇ……カッコイイ! カッコよくない? 背景もリアルでいいし!」
「うん。さっきのより全部がリアルでかっこいい」
「大人向けっぽいじがして、やりたいです」
「でもさ、外國のゲームより絵柄が親しみがあって、とっつきやすそう」
「そうそう。うまく言えないけど、全然クドくないっていうか!」
「俺たちはもうガキじゃないし、こういうのを求めてたんすよ!」
「あの。この作品は覚えておくんで、ゲームで出たら絶対に買います!」
うわわわわ……。なんか圧が凄い!
鏡越しなのに、こっちにグイグイ來るじがして、たまらなく嬉しい。
これは大変だぁ……。顔がニヤケちゃって、誰にも顔を見せられない。
嬉しすぎて、たまらなく抱き枕をぎゅううっと抱きしめた。
――その時、ドンッと激しい音が響き渡った。
絶対に音を立てちゃいけないはずなのに、誰かがなにかを落としたの?
そう思って橫を見ると、部長さんが握りしめたこぶしを機に押し付けていた。
「こんな……こんな追放を評価するのかあぁっ!!」
激しい怒聲に空間が震えたようだった。
マジックミラー越しに子供たちが一斉にこちらを向く。
部長さん、まずいよぉ!
そう思った瞬間、同席していた局長さんたちが一斉に部長さんにとびかかっていた。
手足や口を押さえられ、完全にきができなくなっている部長さん。
その青ざめた表は、自分がしでかしたことに驚いているようだった。
◇ ◇ ◇
その後、子供たちには丁重に謝罪が行われ、グループインタビューはお開きになった。
部長さんの発した言葉は事を知らない子供たちには意味不明だったらしい。
子供たちに向けての暴言だとバレなかったようなので、局長さんたちやプロデューサーさんたちも冷や汗をかきながらをなでおろしていた。
そして――當の部長さんは局長さんたちに取り囲まれ、床に手をついてうずくまっている。
「碇くんさぁ。自分のやったことを分かっているのか?」
「會社の誇りを穢(けが)す行いをしてしまいました。どうか、どうかお許しください……」
「そのカッとなりやすいところ。これまで見逃してきたが……どうにもならんよ」
「ふぐっ……ふぐうぅぅぅ……」
部長さんの目から涙が零れ落ちる。
私と真宵くん、そして井張さんはあまりの居心地の悪さに、部屋の隅で小さくこまるだけだ。
その時、プロデューサーさんが気まずそうに手を挙げた。
「今日の結果はあとで調査會社からもらえるけど、なんか結果を見るまでもなさそうだね。……あとこれ、WEBアンケートの集計表だけど、見ます?」
そう言って書類の束を差し出す。
「まあ、説明するまでもなく碇部長の完全敗北。お若い二人組の完全勝利なわけだけどね……。実はこの結果、昨日の夜にうち(ルーデンス)に屆いてたんだけど、さすがに碇部長が可哀想だから今まで黙ってたんだぁ~」
部長さんはその言葉を前に、何も答えない。
すると、プロデューサーさんはしゃがみ込み、部長さんの顔をのぞき込むように尋ねた。
「ところで碇部長。さっきの『追放』って……なんです?」
「それは……」
「夜住 彩さんのことでしょう? さすがにそんな暴言、聞き捨てならないなぁ」
部長さんはこぶしを握りしめ、を震えさせる。
そして急に私をにらみ、聲を振り絞るようにんだ。
「そいつは不要な殘業を重ねる不良社員。俺のチームのお荷だから追い出したんだ!」
その眼に威圧され、聲も出ない。
でもプロデューサーさんはいたって平靜な顔つきで首を傾げた。
「え、神絵師を追い出したんですか?」
「神絵師? そんなのはどうでもいい! 會社員としての素行不良を見逃してはおけん。上長への報告相談を怠るようなアホは會社員として失格だ。だから追放したんだ!」
部長さんがプロデューサーさんにまくしたててると、局長さんの目がったように見えた。
「ほう。就業規則を破ったと?」
「そうですよ、鬼頭局長。……事あるごとに會社に無斷で泊まるなど、業務の健全化を進める局長への反逆っ! しかも追放した腹いせに場を混させやがって……。さぞや開発に戻りたいんだろうが、もう遅いんだよ!」
あまりの一方的な言われように泣きそうになってくる。
私は説明したくて「あの!」っとんで手を挙げた。
だけど、同時に聲を発した人がもう一人。
……それは井張さんだった。
「夜住さんは報告を怠っていません。……すべて、俺がないがしろにしていたせいです。申し訳ございません!」
「井張……。お前は何を言ってるんだ? お前がこのをさんざん無能扱いしてただろ!」
「申し訳ありません。彼から相談をけていたのに、自分の忙しさにかまけて無視し続けてきました! 夜住さんはとんでもなく優秀で、たった一人でチームを支えてきたんだ。それを俺は……全部全部無視してきた。仕事を押し付けて、殘業ばかりさせて……。罰するなら俺を罰してください!」
そして井張さんは床に頭を押し付け、私に、そして他の全員に謝り続けた。
大変な怒り顔になったのは鬼頭局長さんだ。
部長さんの企畫書を床にぶちまけ、言葉にならない罵聲をぶ。
「碇ーーっ! 部下の不始末はお前の責任だぁぁーーっ!」
「ひいぃぃぃ……っ! 申し訳ございません。どうか、どうかお許しを」
「もう遅いっ! 口から出た言葉は戻らぬわっ。我が社の名に泥を塗るとは、お前は神野以上のバカ者だ。お前はいらんわ! ダメならプランナーの筆を折ると言ったな! さあ折れっ! 折れっ! 折れーーっ!!」
まさに怒れるは鬼のごとし。
鬼頭局長さんは烈火のごとく怒りちらし、狹い控室の空気はビリビリと震えていた。
「あ……あのぅ。でも私、部長さんの企畫はそんなに悪くなかったと思うんです……」
私はいてもたってもいられなくなり、床に散らばった部長さんの企畫書を拾い集める。
「あの、その。……どっちかって言うと、好きなほうかなって。今回のメインターゲットには好まれなかっただけで、私みたいに気にる人もいると思うんです。だから、筆を折るなんてもったいないですよ」
「君は……夜住くんだったな。君はこの愚かな男が憎くないのか?」
局長さんが不思議そうに見降ろしてくる。
憎くないかどうか……。
その問いに、私は唸りながら考えてみた。
「部長さんはとっても怖いですし、私たちの大切な企畫書をシュレッダーにかけた時には『許せない』って思いました」
「そうだろう、そうだろう」
「……でも、部長さんが作ったこの企畫書は悪くないんです。そして、この企畫書を作れる部長さんも。小さなお子さんの長を大切に思って、誰にでも好かれる優しい世界を作ろうとしてる。そんな溫かさをじました」
部長さんは目の前でを小さくし、震えている。
彼が自分の企畫を酷評されていた時の、その青ざめた顔が思い出される。
とても怖くて理不盡な人だし、自分のことばっかり考える人だけど、自分の作品を作って発表できるという一點については共することができた。
私は拾い集めた企畫書を部長さんの手元に置く。
「あの、モノづくりをやめないでください。局長さんも、筆を折れなんて、そのぐらいに……。私は、あの、言える立場でもないんですけど、応援しています」
「ふぐっ……。ぐ、ううぅぅぅぅぅ……。申し訳……ありませんでした……」
部長さんの謝罪の言葉が部屋に満ちる。
そして、私たちの企畫『デスパレート ウィザーズ』は正式に承認されるのだった。
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