《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第二十話「老兵の夢 2」
「私にしかできないことって言うからなんだと思えば、が小さいからかーーっ!?」
機材管理室への侵に功したのに、當の私はんでいた。
追い出し部屋で真宵くんに頼まれた時――。
頼まれた瞬間はワクワクしたのに、真宵くんは唐突にゲームの筐の蓋を開けたかと思うと私を中に詰め込みだしたのだ。
もうホント、ビックリした!
私が背が低いことを気にしてるの、知ってるくせに!!
なんでそれを利用するのかな!?
さすがにこんな隙間にるの無理って言ったのに、本當に機械の隙間にれて自分でもビックリだよ!
なんていうか、昔のゲームの筐って、意外と中が空なんだね……。
さすがにいくつかのネジを外してたけど、れるなんて思わなかった。
そして、掃除の終わった筐が運ばれたのが機材管理室だったというわけだ。
蓋の中から私が出てきた時のエンジニアさんたちの顔が忘れられない。
あきれすぎて、怒るのを忘れたようなじだった。
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「おい嬢ちゃん。んだかと思えば地団駄踏むとか、うるせぇな。それぐらいにしときな」
「うぐぅ……。ごめんなさい……」
私としたことが興しすぎちゃった。反省反省っ。
目の前では白髪のおじいちゃんが眉間にしわを寄せてるので、言われた通りに靜かにしていよう。
しばらく様子を見ていると、このおじいちゃんがこの部屋で一番偉い人っぽい。
機材管理室だし、室長さんってところだろうか?
ゲーム筐の脇でを小さくしてると、室長さんは若い人に視線を送る。
「んで、田寄ちゃんのメモには何が書いてあった?」
「えっとですね。……開発用のPCがしいって書いてあります。足がつかないように、処分予定の古い機材がしいって」
「あーもう、めんどくせー頼みをすんなよな。……お前ら気にすんな。仕事に戻れ!」
室長さんは不機嫌さをバラまきながら、田寄さんのメモを丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
うぅ、酷い。
あのメモは田寄さんの願いが詰まってるんだよ?
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それを簡単に捨てるなんて悲しすぎて、私は慌ててゴミ箱から拾い上げた。
メモには田寄さんのきれいな字で想いがつづられている。
『長(ちょう)さん。直接頼みに行けなくてゴメン。
そのうえで、失禮を承知でアタシからのお願いだよ。
本當に心を託(たく)せる後輩たちがゲームを作りたがってる。
追いだし部屋の連中で助けてやりたいんだ。
半年後のプリプロ審査會までにプロトタイプを作りたい。
開発用のPCを送ってくれないだろうか。
足がつかないように、処分予定の古い機材だと嬉しい。
この頼みが迷だと分かっている。
でも、うちの會社を放っておくと大変なことになる。
長さんの大事なものも、酷い使われ方をする。
そうさせないためにも、協力してほしい』
田寄さんのメッセージを読んで、改めて心が熱くなった。
エンジニアの皆さんが迷そうな理由はわかってる。
私たち『追い出し部屋』に関われば大変なことになるからだ。
なんでこんな理不盡な目に遭うのか分からないけど、會社の偉い人の頭がおかしいことには違いない。
だからこそ諦められない!
私は全員の想いを託されてここにいる。
機材をもらえるまで、帰るわけにいかないんだ!
とにかく手あたり次第に頼み込もう!
「あのっ。どうにかお願いできないでしょうか?」
「ちょっと今、忙しいんだよ。ただでさえ新しいPCのセットアップで立て込んでるのに、追加のPCだなんて無理だって」
「ちょっと、どいたどいた! 邪魔邪魔」
「MAYAってどれにれとけばいいんですっけー?」
なんか戦場のように忙しそうだ。
もしかしたら最悪のタイミングで來ちゃったのかもしれない。
エンジニアさんたちは本當に忙しそうで、相談する隙が無かった。
「アンタ邪魔だって。ほらそこ、荷置くっすよ」
私がオロオロしてると、急にすぐ脇に大きなダンボールが落とされた。
ビックリして聲の主を見上げると、金髪にピアスでなんか怖いお兄さんだ。
そして箱の中には大量の黃ばんだマウスや古い電話帳の山。『キャリア開発室行き』と書かれた付箋がってあった。
「もしかして、これって……」
「そ。追い出し部屋の次の雑用に使う奴っすね。ホント、よくもまあこんな意味のない仕事を思いつくよな~」
そして、その金髪エンジニアさんはマウスを一つ取り出した。
マウスの裏には見慣れた電球は見當たらなくって、代わりに丸いがっている。
「これ、見たことある?」
「あれ、知ってるマウスと違う。なんかボールがってる?」
「そ。ボール式マウスね。このボールがってるにゴミがたまるんすよ。これを掃除するのが次の仕事らしいっす」
「こっちの電話帳は?」
「ああ。なんか文字をノートに書き寫せって。よくこんな無駄作業を思いつくっすよね」
本當に無駄作業をよく思いつくなぁ。
いったい誰が考えてるのか分からないけど、よっぽど暇なんだろうか。
その時、私の橫にダンボールが積み上げられ、さらに私の頭が押し付けられた。
「ふぇっ!? な、なにを!?」
「いいから黙って。隠れるんす」
何事かと思ってダンボールの脇から顔を出すと、全がまん丸に見える巨大な男の人が付に立っていた。
「おいおいちょっと~~。まだマシンがもらえないのぉぉ? 早くもらえないと、開発が始められないんですけど~」
「ああ、すみません伊谷見(いやみ)さん。どう急いでも明日になりそうでして」
「マシンなんて店で買って箱から出すだけでしょぉ? 君たちって無能? なにに時間を使ってるの?」
「いや、あれだけのスペックを満たすなら、ほぼ自作ですよ」
「噓乙~。ネットなら即日配送できますからぁぁ~。あ~あ。トップが時代についていけないクリエイターだと、部下も無能ばっかりね。お仕事できないから、今日は帰ろ~。お仕事ができないからぁぁ~」
そして大きなの男の人は去っていった。
その後姿を憎々しげに睨(にら)むエンジニアさんたち。
「ホント腹立つな。キッティング分かってねーくせに」
「冗談じゃないよ。急に頼みに來て明日の朝までに二十臺のPCをセットアップしろなんて、うちをナメてんだろうな。ポンと市販品を機に並べるわけじゃねーって」
「働き方改革とか言って最近のクリエイター様はさっさと帰るくせに、こっちの忙しさなんてわかってないよな。……今日は終電になるなぁ」
さっきの嫌味を言ってた人、真宵くんから聞いていた風や名前と一致する。
あの人が伊谷見さんなんだ……。
「……もういなくなったから、顔出していいっすよ」
「あ、ありがとうございます。なんかお優しい……」
「そんなキラキラした目で見られても、要は聞けないっすよ。偉い人に目をつけられたら更生が認められるまで追い出し部屋で監っすからね」
「更生?」
「追い出し部屋も、永遠にあそこに閉じ込められるって訳じゃないんす。偉い人に忠誠を誓って、二度と逆らわないって服従すれば出れるんすよ」
「うわぁ……闇が深い」
「はは……。そんなわけで、オレらも別に追い出し部屋に意地悪したいわけじゃないんす。何臺でもPCを用意したいぐらい。それが本心っす」
そう言って、なんだか軽い口調のお兄さんは笑った。
ピアスに金髪で一見怖いけど、いい人そうだ。
すると、橫から苛立った様子の室長さんが割り込んでくる。
「おい高跳(たかとび)。お嬢ちゃんにベラベラしゃべってんじゃねえ。手をかせ手を。お前は力ぐらいしか能がねえんだからよ」
「ひぃ~。長(ちょう)さんは怖えなぁ。じゃ、オレはこの辺でおさらばっす」
◇ ◇ ◇
その後、私は何もできないまま、終電の時刻になってしまった。
エンジニアさんたちは退勤の打刻をして、機材管理室を退室していく。
金髪エンジニアさんも、室長さんに頭を下げて出ていくところだ。
「終わんなくてスイマセンっす……」
「いいって。あとはどうせアプデだけだ。放置しとけば終わる。俺も見守るだけだから気にすんな」
「じゃあ長さん、お疲れ様っす……」
そして金髪エンジニアさんは出ていき、部屋の中には室長さんと私の二人きりになった。
室長さんはほかの人たちに帰らせ、後は自分一人で殘りのセットアップをこなすつもりらしい。
「おい終電だ。嬢ちゃんも早く帰んな」
「何も出來てないのに帰れないですよぉ」
「……ったく。退勤時間でさっさと打刻したかと思えば居座るし。さてはサービス殘業の常習だな?」
「さすがに最近はサービスしてないですよぉ。……田寄さんからもサービスダメって言われてるし」
「最近(・・)は? 今まさにやってるじゃねーか」
「だって……。……あ、ゲームするんですか?」
歩く室長さんを目で追ってると、彼は古いゲーム筐の前でしゃがみ込んだ。
メンテナンス用の蓋を開け、中をのぞき込んでいる。
「あ~あ。中のネジ、勝手に外しやがって……」
「うぅ。長さん、ごめんなさい」
「気安く長さんって呼ぶんじゃねぇ」
「でもみんな室長さんだから『長さん』って」
「ふん。確かに室長だが、呼び名の由來は俺が長屋(ながや)って名前なだけだ。……機械は……まぁ問題なさそうだな。さて」
室長さんがカチカチと何かをかしていると、ゲームの筐が起した。
そしてピコピコと軽快でポップな曲が流れ、室長さんはおもむろに遊び始める。
これが気にならないはずもなく、私も吸い寄せられるように橫からのぞき込んだ。
「ただの作チェックだよ。……なんだ、気になんのか?」
「うん。ドット絵って言うんですよね? 見たことはあるけど、実際に遊んだことは……」
「……。ちょっとやってみるか?」
「うんっ!」
室長さんは不想ながら、場所を空けてくれる。
私は満面の笑顔で返事した。
◇ ◇ ◇
「えぇ~、今ので死んじゃうのぉ?」
「やめるか?」
「もう一回だけ!」
「そう言ってずっと続けてるじゃねぇか……」
このゲーム、シンプルだけど奧が深い!
これはいわゆる橫スクロールシューティングという奴らしい。
自分がるのは戦闘機じゃなくって、ちょっと可いキャラクターになっている。
すぐにキャラが死んじゃうけど、敵のきを覚えていくことでちょっとずつ上手くなってる実があり、面白い。
私がゲームオーバーになって一息ついた時、室長さんは慨深げに筐をでた。
「……こいつも、どっかの倉庫に埋もれて終わる人生かと思いきや、社長の気まぐれで引っ張り出されるとはご苦労なもんだぜ。社長室に飾られるだけマシなのかもな」
「え、自由に遊べないんですか?」
「無理なんじゃねぇか?」
「じゃあ、今のうちにいっぱい遊ぼう! やりごたえがあって面白いです!」
「そ……そうか?」
「うぅ~2面がクリアできない。悔しーっ!」
2面の最後のボスの弾が多すぎて、全然避けられずに死んじゃうのだ。
それは悔しいったらなかった。
「……ボスの目の前が安全地帯だぜ。きもパターンがあるから難しくない」
「うわあぁぁ~~そうだったのか! 長さん詳しいですねっ!」
「別にこのぐらいの攻略は誰でも知ってたよ。……それに、これは俺と今の社長が作ったゲームなんだ」
「ふぇ? 長さんって開発をされてたんですか?」
「また長さんって言ったな?」
「ふぇぇごめんなさい。呼びやすくって……」
「……まあ、いいや。……俺はこういうオールドゲームの時代から頑張ってたんだが、今じゃ技についていけねぇ老いぼれさ。俺もこいつも、とっくに現役を引退してるんだ。だから、遊んでもらえてうれしいよ」
――とっくに引退。
室長さんのその言葉が気になった。
今日來ていた伊谷見さんも『トップが時代についていけないクリエイター』と言っていたことを思い出す。
それはきっと、室長さんのことなのだ。
「引退なんて、とんでもないですよ! こんなに面白いのに、倉庫に埋もれさせちゃうのってもったいないし、オールドゲームだって需要ありますよ!」
「んなこといっても、こんなゲームが好きなのは俺らみたいな懐古ジジイばっかだろ」
「だって私が遊びたいもん! ドット絵も好きですし、むしろ新しいじがするので!」
「お嬢ちゃんも好きだな。さては中は俺と同年代か?」
「むむぅ」
別に自分の中が何歳でも、それはどうでもいいんだけど……。
でも、確かにいろんな年代にアピールできてもいいかもしれない。
「……じゃあ、今風にして若い世代にアピールするってどうですか?」
世の中にも、そうやって今の時代を取り込んで続いてるゲームはいっぱいある。
試しに目の前のゲーム畫面を見ながら、紙に絵を描き始めた。
「……む。それは……」
橫からのぞき込んでくる室長さん。
心なしか、食いついてくれてる気がした。
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