《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第二十一話「老兵の夢 3(終)」
「ほう……。このドット絵がそんなじに見えてるんだな」
「ゲームの筐に描いてある絵もいいんですけど、ドットを元に解釈するとこんなじになるかなって」
勝手な解釈で絵にするのは失禮かなって思ったけど、オールドゲームの可能をじてほしくて、思い切って長さんの作品を今風の絵柄で表現してみたのだ。
長さんは不愉快そうなじもなく、興味津々で私の絵を見てくれている。
それにしても、ドット絵のない報からイメージを膨らますのは思った以上に楽しかった。
「ドット絵って解釈のし甲斐があって面白いです! ……ちなみに、今の流行りの化させてみると……こんなじ?」
ちょっと試しに、普段の絵柄で描いてみる。
すると長さんは恥ずかしそうに顔を引っ込めてしまった。
「これは……俺には刺激が強すぎだ。……し、しかし可能はアリだな。下手に保守的になるよりもいいかもしれん」
「原作ファンに怒られないかな?」
「別のファン層の開拓ととっていいだろ。原作ファン向けって言えば、最初の方向がよさそうだな」
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長さんは最初に描いたほうの絵をしげしげと見つめる。
「……ただ原作ファン向けを狙うんなら、頭やシルエットのバランスはもっとドット絵に近づけたほうがいいだろうな。お客さんは大きさやシルエット自もキャラクターと認識してるらしいんだ。オールドゲーム出で今も功してるキャラクターは、そのあたりを維持してる傾向があるな」
「おぉ~、勉強になりますっ!」
確かに有名なゲームキャラをいくつか思い出すと、ドット絵と最新の絵でバランスが近いじがする。
長さんのお話をけて、改めて描きなおしてみた。
「このぐらいの頭だとどうでしょう? 手足の末端大もこのぐらいのバランスがいいかなって」
「そうそう! いっそのことカートゥーンっぽくしてみるの、どうだ?」
「あ、いいですねっ。……こんなじ!」
長さんにアイデアをもらい、さささっと描いてみる。
それを見た長さんは心したように目を丸くした。
「おおー、いいじゃねえか! 元の特徴もありつつ、ポップで明るく仕上がってる。……っていうか尋常じゃなく上手いし、手がはえぇな! 嬢ちゃん、ひょっとして凄くできる人なんじゃねぇか?」
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長さんの私を見る目が明らかに変わってる。
私も期待に応えられて、なんだか嬉しくなってきた。
「えっへへ~。他にドット絵の作品ってありますか? もっと描いてみたいなっ」
「おいおい、終電逃したからって、徹夜でもする気か~?」
長さんはそう言いながらも、なんだか楽しそうだ。
いそいそと本棚からぶ厚い本を取り出す。
それはアルバムらしく、ゲームセンター用の筐の寫真がたくさん並んでいた。
畫面のドット絵もしっかりと撮られている。
寫真のいくつかには長さんも笑顔で寫っていた。
「……もしかして、これ全部作られたんですか!?」
「まあな。ヒットしたものも、ボチボチだったものも々だ。……まあ、そういう話はいいよ。資料としてはこんな寫真でいいか?」
「もちろんですよ~」
アルバムをけ取り、橫目に見ながらイメージを膨らませる。
そしてパパっと五枚ほどイラストを描いてみた。
「こんなじかなっ。どうでしょう!?」
我ながら會心の出來だと思って振り返る。
すると、長さんは目頭を指でつまみながら鼻をすすっていた。
「あれ、泣いて……る?」
「うるせえ。見るんじゃねぇよ」
そう言いながら、長さんはもう一度大きく鼻をすするのだった。
◇ ◇ ◇
「おう。これでも飲みな」
そう言って、長さんは缶コーヒーを持ってきてくれた。
深夜の誰もいない會社の中で、私たちは向かい合って椅子に座る。
一通りの作品を絵に起こしきったので、ちょっと休憩することにしたのだ。
長さんはお茶をすすりながらアルバムを開き始めた。
「……俺は昔、プログラマだったんだ。その頃の開発は規模も小さくて楽しかったよ。グラフィッカーとプログラマがいれば一本作れた。今日みたいなじでな」
その話を聞いて、真宵くんと一緒に企畫書を作ったことを思い出す。
あれは部活みたいに楽しかったし、確かにとっても軽だった。
「今は一つの作品をつくるだけでも、何十人と必要ですもんね……。長さんはもうゲームを作ってないんですか?」
「開発は二十年も前に引退したさ。……時代についていけなくてな、ここで定年までの余生を過ごしてるわけだ。室長って言っても、別にこの部署で一番能力が高いわけでもねえ。ただこの會社に長くいるだけだよ」
そう言って長さんはまた寂しそうな目になる。
そんな目をされると、私もたまらなく寂しくなってくる。
「改めて言いますけど、引退なんて必要ないですよ~。こういう昔のゲームも、今でもすっごく楽しいし、むしろ新鮮だもんっ!」
「おいおい……」
「今の時代でも、こういうタイプのゲームがあってもいいと思うな。原作を復刻しながら、それを元にした新しい企畫を作ってもいいと思う!」
「……かはは。それもいいかもな」
「ねっ! 作品にもモノづくりにも、定年はないと思うのっ」
長さんは笑う。
それを見て、私も嬉しくなった。
だけど、ひとしきり笑った後の長さんはフッと熱が冷めたように遠くを見つめてしまった。
「……一瞬でも夢が見れたよ。俺も、このゲームたちもな。……ありがとう」
「ふぇっ?」
「仮に作品を復活させたとしたら、今のクソな経営層に利用されるのがオチだ。わざわざ奴らを喜ばせたくねぇ」
「クソな……経営層?」
私が問いかけると、長さんはだんだんと怖い顔になっていく。
「……うちの今の経営層は金儲けにとり憑かれてるんだ。もちろん會社だから儲けは大事さ。……だが、奴らはお客さんを自分の財布としか考えてねぇ。儲けるためなら汚い手を平気で使うんだ」
そして長さんは指折り數え始めた。
「……例えばフルプライスで未完品を売ってからのダウン(D) ロード(L) コンテンツ(C)商法に、完全版商法。他にもクソとわかっていながら広告でだますわ、ソシャゲで確率を優良誤認させるわ、ガチャ確率を作するわ。……そういや、ガチャフェスで搾り取った直後に最上位レアリティ実裝とかも記憶に新しいな」
その暴された悪行の數々に、聞いてるだけで頭がクラクラしてきた。
なんか、後半の悪行は本當に真っ黒な闇じゃないかな?
阿木さんもうちの會社(ユニゾンソフト)は無能って言ってたけど、想像以上に闇が深くて怖くなった。
「あのぅ。……うちの偉い人って、悪人なんですか?」
「そりゃあもう、悪も悪。極悪よ」
「嫌だなぁ……。それを知ってて、なんで會社にいるんです? ……殘ろうとしてる私が言うのも変ですけども」
「おかしくなったのがここ數年ってこともあるんだろうが、きっと俺も諦めきれないんだろうな。……俺は腐ってもエンジニアだ。まともな開発者がしでも殘ってる限り、支えたいんだ」
そして長さんは私を見據える。
「クソみたいな奴に頼まれた機材でも、屆ける先にお嬢ちゃんみたいな奴がいるかもしれねぇ。……そう思うと手は抜けねぇだろ? だから、俺はここを離れねぇのよ」
……うわわ。
なんか、心がブルブルって震えた気がした。
長さんの心意気がかっこよくて、同時にうれしい。
そういえばこの機材管理室のエンジニアさんたちも、不満を口にしながらも終電まで頑張ってくれていた。
託された想いを前にして、が引き締まらないわけがない。
「私はお客さんをだますようなゲームは絶対に作らないっ! むしろ悪い人をやっつける。會社に逆らってでもっ。現に、今も絶賛逆らい中だから!」
「おいおい、若もんは怖い知らずだな……」
「ううん。私だけじゃないよっ。追い出し部屋の全員が同じ気持ちなんだから!」
心が今にも走り出しそうで、たまらず立ち上がって拳をふるいあげる。
「私たちは戦うのっ!」
……私がんだ瞬間だった。
長さんが「ぐうぅぅぅ……っ」と唸り聲を上げ始めた。
ビックリして視線を送ると、背中を震わせて泣いている……。
そして、充した目で私に視線を送ってきた。
「ばっか野郎。好きなだけ持っていけ!」
「ふぇ!?」
「機材だよ、開発機材! ガサれで見つかるとヤベーだろうから、隠しやすいノートパソコンにしておくぜ。……特に今は時期がいい。家庭用(コンシューマ)の開発局の奴らが大量に新品を発注するもんだから、古い機材が余ってんだよ。古くてもパワーあるヤツを見繕ってやる! 俺に夢を見させてくれた禮だっ!」
長さんは興しながら機材の棚に手をばし始める。
私はいきなりの提案についていけなくなってしまった。
「えっ? えっ? いやあの。私はそれが目當てで絵を描いたわけじゃなくて……」
「うるせぇな。気が変わんねぇうちに頷(うなず)いとけ! どうせ古いマシンなんざ、いずれ倉庫に埋もれるか廃棄するだけだ。ここにあるだけでも人數分はどうにかなるぜ。……本當は最新の速マシンにリボンをつけて渡したいぐらいだが、新規購は金の流れから足がつくからな。これで勘弁してくれ! ……そんなマシンでも、田寄ちゃんならなんとかしてくれるはずだ」
長さんはまくし立てるようにしゃべりながら、次々とノートパソコンを取り出してくる。
しかも、今夜中にセットアップをしてくれるそうだ。
「機材を橫流ししたことは年に一度の機材調査でバレるだろうが、次の調査は半年以上先のことだ。お嬢ちゃんたちのプリプロ審査までは使えるだろ。……その時點で追い出し部屋の待遇が変われば奇跡だし、念のため調査前に返卻しておくってのもいい」
「えっと、えっと。……どういうこと?」
「なにも心配すんなってことだ!」
長さんはグッと親指を立てる。
その頼もしい一言が、何よりも嬉しかった。
――あくる朝。
追い出し部屋には巨大なダンボール箱が屆けられた。
られた付箋には『雑用のための備品』とだけ書かれている。
しかし、出社した真宵と田寄が開くと、箱の中には大量のノートパソコンがっていた。そして安らかに眠る彩も。
彩は抱き枕を抱きしめながら、とても嬉しそうな顔で眠っていた。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
次回以降からは敵チームにもれていくこととなります。
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よろしくお願いいたします!
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