《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第二十三話「越権行為(仇敵の転落 2)」

「はぁぁ……。ほんと困ったよ~」

対面するなり、阿木(あきない)さんは大きくため息をついた。

ここは夜のルーデンス・ゲームス本社。その會議室。

擔當プロデューサーの阿木さんと打ち合わせしてることは會社にナイショなので、退勤したフリをして會うしかないのだ。

今回はチームに本格參加した追い出し部屋メンバーの代表として、田寄さんの初顔合わせにやってきたわけだ。

パソコンが手できたのでメールも使えるようになったけど、顔合わせだから直接伺いたいと、田寄さんからの強いお願いだった。

だけど田寄さん、真宵くん、私の三人が會議室にった途端、阿木さんは絶的な表でため息をつき始めた。

「君たちの競爭相手のチームなんだけどね。伊谷見(いやみ)さんっているでしょ~? 彼、プロデューサーとディレクターの領分を誤解してるんだよ。勝手に外部の作家先生なんて呼んじゃってさ……」

どうやら伊谷見さんはプロデューサーへの相談もなしに外部の腳本家や漫畫家をチームに加えてしまったらしい。

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「あのぅ。私は詳しく分からないんですけど、それって問題なんですか?」

「う~ん……。ただ參加するだけなら……まあギリギリ問題ないんだけどね。話を聞けばネームバリューを利用する気マンマンなんだよね……。出版社に確認すればコミカライズの相談があったって言うし……。それってさ、プロデューサーの仕事なんだよね~」

「ははぁ。越権行為って奴だね。調子に乗ったディレクターにありがちさ」

田寄さんが言うには「ディレクターは現場の指揮者ではあるけれど、決して王様ではない」ということだった。

作品の魅力や面白さを作り出すのがディレクター。

予算を調達して利益につなげるのがプロデューサー。

ディレクターとプロデューサーはどっちが偉いとかではなく、役割や責任が違う。

お互いの協力が必須ということだった。

「そりゃぁ一人で両方の役割をこなせるスーパーマンがいるのも事実だけどさー。……伊谷見さんって初ディレクターで舞い上がってるようにしか見えないんだよ~。はぁぁ……。勝手に作家と出版社を巻き込んじゃってさぁ……。今から外すのも失禮になるし、どうするかなぁ……」

「あのっ。もしかすると、伊谷見さんにもちゃんと考えがあるんじゃ……」

「なかったよ~ん」

「ふぇ?」

「聞いてみたんだけど、『有名作家とタッグを組めば売れる』んだって~。もう、淺はかだよね~! ちゃんと売れる道筋を計畫しないと作家さんの名前を穢(けが)しちゃうし……。もうおバカ! おバカなのに無駄に行力があって、手に負えないよ~っ!」

阿木さんの怒濤の愚癡を前に、私たちはあっけに取られてしまった。

話を聞くかぎり、伊谷見さん(あっち)のチームには暗雲が立ち込めてるとしか言いようがない。

なんだか、勝手に沈沒してくれそうな気配があった。

「……ああ、ごめんごめん。いきなりの愚癡で失禮したね。今日は新メンバーの顔合わせだったよね。……っていうか、田寄(たより) 式(しき)さんですよね? 雑誌で見て知ってますよん」

「雑誌!?」

「ふぇっ? 私、ゲーム雑誌のインタビューは必ずチェックしてるのに、田寄さんのこと知らなかった……」

「あはは。普通は知らないから無理ないよ~。雑誌って言ってもCGの技本だもん。『ドラスフ』シリーズの描畫周りでインタビューをけたことがあってね~」

私はショックを隠せなかった。

心からするゲームシリーズだから、ゲーム雑誌では開発者インタビューもくまなくチェックしていた。なのに、田寄さんほどの重要メンバーの記事を見過ごしてたとはっ!

確かにゲーム雑誌で載るのはプロデューサーやディレクター。たまにキャラデザの人ぐらいだけどさっ!

私の作品の底が知れたようで、自分にガッカリだよぉ!

うう~。急に阿木さんがライバルみたいに思えてくる。

私よりも詳しいなんて、この人、ただモノではないね!

私がジト目してるのに相手にしてくれず、阿木さんは田寄さんに向かって満面の笑顔だ。

「伝説の神野ディレクターの頼もしき相棒! ちょっと握手してもらっていいですか~? いやぁ、田寄さんがディレクターなら安泰だよん」

「違う違う。今回はアタシ、プログラマのチーフとアシスタントディレクターだから。ディレクターはこっちの真宵くん」

「えっ僕だったんですかっ?」

急に話を振られた真宵くんは、聲が裏返るほどに驚いている。

「なに言ってるのさ。企畫した張本人が責任取らなくてどうすんの~?」

「でも僕、経験ないですし……」

「あっはっは。だからアタシがサポートするって。……阿木プロデューサー。現場はアタシをはじめとするベテラン勢がフォローするんで、安心しときな!」

そして田寄さんは阿木さんとガッチリ握手をわした。

ううっ。田寄さん、頼りになるぅぅ!

初顔合わせの場は空気も弾んで、とってもいいじ。

そしてプリプロダクションの今後の方針について、話し合いが続いていくのだった――。

◇ ◇ ◇

阿木さんからは、販売後にもサービスを運営できる仕組みを計畫することと、ゲームを遊ぶ中での課金サイクルへの要があった。

詳しい話は私だとよくわかんなかったけど、「ユーザーの不利益が決してないように注意しようね」という一言で安心できた。

とにかく最近のゲームは開発費がとっても高くて、ゲームを単で売るだけだと利益が出にくくなってるらしい。

ゲーム自のお値段は昔からさほど変わってないけど、開発費が何倍、何十倍にも膨れ上がってるらしいので、それは想像に難くなかった。

だから「ゲームを売って終わり」じゃなくて、「さらにサービスを継続することで長期的に利益を出す仕組み」が大事になってるらしい。

「まあ、ユーザーがちゃんと納得してくれて、きちんと価値あるサービスを継続するのが大事ってことだよん。……一時的な儲けに走ってユーザーをだますなんてことだけは、絶対にダメだからね~」

阿木さんの話を聞いてて、心がチクチク痛んでくる。

機材管理室の長さんの話では、私の會社はお客さんをだましてばっかりの悪の會社らしいのだ……。

「あのぅ阿木さん……」

「おや夜住さん、どうしたの~?」

「阿木さんはうちの會社の悪事って、ご存じですか……? 最近だとガチャの確率とかのお話ですけど……」

その瞬間、空気が冷えた気がした。

阿木さんの眼差しが冷たくる。

「……レアリティ追加の件は炎上してたけど、確率詐欺の件はまだユーザーにバレてないみたいだね~。ルーデンス(うち)がユニゾン(そっち)を買収する前からの話だから最初は寢耳に水だったけど、うちの會社もバカじゃないからね。報収集してるとこだよ~」

「そう……ですか」

「夜住さん、もしかしてルーデンス(うち)も疑ってたのかな?」

「い、いえ! そんな疑うだなんて……。私はお金儲けには疎くってわからないけど、阿木さんのお話はお客さんに誠実だと思ったので、安心してます!」

「そっか。それはよかったよ~。……まあユニゾンさんの事はボクらも放っておくつもりはないから、安心してね。子供のやったことは親が責任を持たなきゃだからね~~」

そして、阿木さんは一段と聲を潛めてつぶやいた。

「もし部告発したくなっても、今はちょっと我慢してくれると嬉しいな。ボクらを信じて、待っててしい」

◇ ◇ ◇

ルーデンス・ゲームスの本社ビルを出ると、夜の冷たい空気がを包み込んだ。

私は阿木さんからの言葉に、改めてを引き締める。

に調査してるって話もそうだけど、さらに阿木さんは言っていた。

『伊谷見さんへの愚癡を聞いて、もしかしたら安心したかもしれないね。……でもね。ディレクターは無能だけど、どうも彼の強気な態度には裏がある気がするんだ。……何をしてくるか分からないから、気を付けなよ~』

敵は伊谷見さんだけじゃない。

そう言っているのだと分かった。

「彩ちゃん、大丈夫?」

「……う、うん」

真宵くんの聲で我に返り、目の前の二人を見る。

彼はもう大丈夫だ。田寄さんという最強のパートナーと一緒に、最近はバリバリとゲームの容を決めていっている。

プログラマチームの結束も十分で、ゲームを作ることになんの不安もなかった。

……でも。

「おや、彩ちゃん。不安そうな顔してんね~」

「さすがは田寄さん。……わかっちゃいますかぁ」

「グラフィックチームのことだろ? まだ十分に機能してない。そもそも追い出し部屋にグラフィッカーがないからね。ちょっと作戦を考えないと、だね」

そうなのだ。

今の追い出し部屋は田寄さんを慕って殘っていたプログラマさんが過半數。

遊びの幹をつくることはできるけど、肝心の見た目(グラフィック)をカバーしきれない。

これから作るゲームは3Dアクションゲーム。

だけど、私は3Dモデルが作れない。

そして、ゲームのグラフィックを作り出す経験は皆無に等しかった。

私、どうなっちゃうんだろう――。

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