《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第二十六話「仮面の職人 3(終)」

「別れ際の言葉。……その真意が聞きたくて、待ってた」

そう言ったのはの姿の創馬さんだった。

會社に向かう路上で、私をまっすぐに見つめている。

創馬さんの言う「言葉」とは、昨日の帰り際のやり取りのことだ。

『クリエイティブの力の証明。それだけじゃ……なくなったのかもなって』

……私がそんな風に曖昧に答えたのは、近くに真宵くんと高跳さんがいたから。

創馬さんは話の続きがしたいのだろう。

「……創馬さんの完璧な裝。そのこだわりの理由は何だろうって考えてみたの」

「だから、それは『かわいいは作れる』っていう証明で……」

「じゃあ、なんで今もの姿なんだろう?」

の顔をのぞき込む。

その可さは相変わらず完璧で、不自然さのかけらもない。

私があんまりにも見つめるからか、創馬さんは目をそらしてしまった。

「ほ、ほら。ここは會社の近くだから、知り合いにバレちゃダメでしょう?」

「変裝するだけなら、帽子とマスクで顔を隠すだけで十分だと思うなぁ」

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図星であろう指摘に、創馬さんが苦笑いするのを見逃さない。

私は通行人に聞かれないようにそっと耳打ちをした。

「創馬さんは気づいちゃったんだよね? ……本當になりたい自分に」

「本當の……自分……」

の子になりたくなっちゃったんだよね? 知り合いにバレると恥ずかしいから、出社できなくなっちゃったんだよね?」

「言葉にされると恥ずかしいよ」

「當たってた?」

「……図星。……なんで気付いたの?」

気付いたきっかけを聞かれても、説明が難しい。

昨日、企畫書の自分の絵を見た時、自分が『男イラストレーター・イロドリ』として活していることを思い出した。

そこから急にひらめいただけなのだ。

心と別が逆転することはあり得るもんな、と。

そう思っただけなのだ。

どう説明しようかと思いあぐねる。

「んーー……。私が同じだから、かなぁ?」

「えっと……? 夜住さんもそれ、裝なの?」

「ふぇっ!? ……違う違う! 私はだけど、中は男の子なの」

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「……え。……えっ??」

創馬さんは戸ってるけど、それも無理はない。

私が『イロドリ』本人だと知ってる人はない。

しかも男のフリじゃなくって、それが素の私だと知ってる人は皆無と言えた。

「なんていうのかなぁ……。これ、見てみて!」

私は自分のスマホを手渡した。

畫面にはSNSアプリのホーム畫面が映っていて、私が『イロドリ』としてつぶやいてるコメントが並んでいる。

「それ、私なのっ」

創馬さんは戸った顔をしながら、私のつぶやきを眺めていく。

「……なんていうか、中高生の男子が好きそうなゲームやマンガ、アニメ、特撮の話ばっかりだね。……あとカップ焼きそばのレビュー日記とか、フィギュアの購報告とか、川で拾った面白い石の自慢とか、新作カップ麺のレビュー日記とか……」

「あああ……口に出して言わないでぇぇ……」

「あのさ、カップ麺ばっかり食べすぎ。もっと果や野菜を食べようよ」

「ふぇぇ、怒られたぁぁ……」

「怒ってない。心配しただけ。……ただ、一人稱が『ボク』ってだけじゃなくって、書いてあるじも本當に男の子っぽいね。……まあ男っていうか小學生の男の子っぽいけどさ」

「むぅぅ。子供じゃないもん!」

私が稚って言いたいんだろうか? 心外だなぁ~。

創馬さんは納得してくれたのか、うなずきながらスマホを返してくれた。

私は改めて彼に向き直る。

「……そんなわけで、創馬さんの気持ちは分かる気がするんだ。そんな人に『頑張って出社しよう』なんて言えないよ」

「普通に男の格好すれば……とか、言わないの?」

「言いたくない。そんな簡単な話じゃないって思うもん。だって私も――」

言いかけて、さすがに歩道の真ん中で立ち話が長いことに気が付いた。

誰かに聞かれてるわけじゃないけど、ちょっと場所を移したほうがよさそうだ。

「ちょっと移していいかな? 近くに公園があるから、そこで……」

◇ ◇ ◇

私、夜住 彩は男の子だった。

……なくとも小學生の頃は、そう思ってた。

當時は髪も短かったし、いつもクラスの男子と一緒に遊ぶ活発な子だった。

だけど中學生になって周りが思春期を迎えた頃から、周りとのズレに気が付き始めた。

男子は私を子扱いするし、子は男子とばかりいる私を「男にびてる」、「アピールしてる」とか言って、意地悪するようになったのだ。

私はただ普通にしてただけなんだけど、私の普通は普通じゃなかったらしい。

――そして、家に引きこもるようになった。

「……そうだったんだ。でも、今は會社に行ってるんだよね? 家から出れるようになったきっかけは何だったの?」

ブランコに座りながら創馬さんは訪ねてくる。

私はお気にりのストラップフィギュアを握りしめながら、苦しかった當時を思い出す。

「髪をね、ばしたんだ……」

元々は男の子のような短髪だったけど、時間をかけて肩まで髪をばしてみた。

一人稱を「ボク」じゃなく「私」に変えた。

スカートはいまだに抵抗があるけれど、服も多の子らしさを意識してみた。

そうやって自分なりに『普通』の仮面を作ってみたのだ。

「……今ぐらいの長さになるまでに二年ぐらいかかっちゃった。『髪がびるまで待つのはおかしい』って親には言われたけど、私にとっては心の準備期間だったんだよね」

「……大変だったんだね」

「えへへ。まあさすがに二年も引きこもってると暇だったから、その頃から『男イラストレーター・イロドリ』として活し始めたんだ。ネットはいいよ~。顔を見せなくていいもん」

創馬さんは神妙な顔をして私を見る。

ああ、いけない。別に同いたいわけじゃないんだよ。

ただ、「気持ちは分かるよ」って言いたいだけ。

私は創馬さんに笑顔を向ける。

「だからね、『普通に男の格好して出社すれば?』なんて言えないよ。特に創馬さんは自分で自分に驚いてるところだろうしねっ」

「……ありがとう。気遣ってくれて……」

晴れないままの彼の顔を見つめて、世の中の難しさを思い出してしまう。

『らしさ』なんてもので自分を縛る必要なんてないのに、私自も他人が定義する『らしさ』に縛られてて嫌になってくる。

私はたまらなくなり、思いっきりブランコをこぎ始めた。

「なんか私ね、思うんだ~。みんな『男らしさ』とか『らしさ』にこだわり過ぎてるんだよ。それよりも、それぞれの自分らしさの方が大事だと思うの。こうあるべきって型にはまる必要なんてない。自分自がいたい姿でいいと思う!」

ぶと同時にブランコから飛び降りる。

そして創馬さんを振り返った。

「そんなわけだから! 私は応援してる。創馬さん、元気でねっ!」

の門出を邪魔したくない。

ゲームの企畫は私が言い出したんだから、自分で責任もって作り上げよう!

私は一歩を踏み出す――。

「ちょっ! 待って待って。引き止めてよ!」

走ろうとした瞬間、創馬さんが私の手を握りしめた。

「ふぇ? だって、辭めるって」

「辭めるだけなら、わざわざ會いに來ないって! 引き止めてしいからに、決まってるでしょ!?」

なんという予想外の展開だろう。

私はすっかり諦めてたのに、當の本人がよくわからないことを言ってくる。

「えぇ~……。だって、そういう話の流れじゃなかったよぉ?」

心を分かってない!」

「むぅぅ……。難しい……」

ホントに心はよくわかんない。

創馬さんはなぜかプンプンと怒りながら、自分のショルダーバッグに手をれる。

すると數枚の紙が出てきた。

「せっかく徹夜して作ったんだから、コレ見て!」

そして見せられた紙には、驚きの絵が印刷されていた。

それは私が企畫書に描いたキャラを立化したもの。

企畫書は昨日はじめて見せたはずなので、一晩で作り上げたということになる。

細かい裝飾は手が付けられていないものの、すでに特徴的な部分は出來上がっていた。

「ふぇっ!? これ、私のキャラ……立になってる!! 一晩でここまで!?」

「テクスチャは未完だし、かなりいけど」

「そんなことないよぉ。流石はプロ……。すごすぎる。でも、なんでわざわざ?」

「昨日お話をして、夜住さんのことが知りたくなったから。……わたしはね、デザイナーさんを理解したいときは実際に自分で作ってみるんだ。筆跡や造形を追いかけることで、何を良いと思ってるのか、何を考えてるのかをじられるんだよ」

「……それで、私のこと、知られちゃったのかな?」

ごくりと唾を飲み込み、次の言葉を待つ。

創馬さんはに手を當て、とても優しく微笑んでくれた。

「すごくお客さんへの想いを詰め込んでる人なんだなって思った。ターゲットのお客さんのことを考えてて、造形の一つ一つ、郭のバランスにまで気を使ってる。……この人はとても優しくて誠実だなって」

「どこにいますか、そんな聖人みたいな人!?」

「わたしの目の前にいるんだけど」

「お、お、お世辭はいらないよぉ……」

々と考えてデザインを作ってるのはホントだけど、そんなことを言われるとムズくなってくる……。

私は照れてるのに、創馬さんは強引に私の手を握った。

「君に興味がでた。もっと知りたい。もっと話したい。……だから、ここに來ることを決めたんだ!」

「あの、あの、創馬さん……」

「わたしは君と一緒に仕事がしたい!」

なんという青天の霹靂(へきれき)!

諦めるつもり満々だったのに、創馬さんはすでに気持ちを決めていたらしい。

いや、最後のひと押しが今日のお話だったんだろうか。

とにかく私は嬉しくなる。

「私こそ、よろしくお願いしますっ!」

改めて手を握り合ったその時、視界の橫に誰かが立っていることに気が付いた。

見ると、そこには金髪ピアスのお兄さんが驚いた表で立っている。

それはアニメーターの高跳(たかとび)羽流(はねる)さんだった。

「……創馬。出社してくれる気になったのか!?」

「羽流……どこから聞いてた?」

「え、なんでそんな怖い顔してんの……?」

「どこから?」

「……さっき創馬が夜住さんの手を握ったところ……」

「マジ? それ以前は聞いてない?」

「マジマジ! ……っていうか創馬、ここまで來たんなら、一緒に出社しようぜ!」

「いや、でも。裝したままだし……。一度帰って出直すよ」

「ああ、そっか。ごめんごめん。オレはもう慣れちゃったからさ~。新生創馬ってじだな!」

「なにそれ、意味わかんないし~」

二人の騒がしいやりとりを、私は橫から眺める。

創馬さんは清々しく笑っていた。

高跳さんもさすがに昨日は驚いていたけど、今日はすんなりれてるみたいだ。

友達っていいなと思った。

それに、もしかしたらモノづくりの人特有のおおらかさかもしれない。

創馬さんは出社したら、初めは普通の男の人っぽい格好をするんだと思う。

だけどきっと、そんなに時間をおかずに自分らしさを発揮する。

目の前の二人を見てると、そんな予があった。

――こうして追い出し部屋に素敵な、そして最強のキャラクターモデラーが帰ってきた。

私たちの開発は、一気に進み始める。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!

次回以降からは敵サイドを含め、新展開が始まります。

もし「楽しかった!」「続きが気になる」としでも思ってくださった方は、ブックマークや広告の下の評価ボタン(★★★★★)で応援いただけると嬉しいです。

続きを書くモチベーションになります!!

よろしくお願いいたします!

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