《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》最終話「輝かしい未來へ――」
あの波のプリプロダクション審査會から數か月後。
舊ユニゾンソフトは優秀優良な開発者がルーデンスに移籍し、不採算部門や元経営層は消滅予定の會社に別れ、粛々と廃業への手続きを進めているところだ。
追い出し部屋出の仲間たちは軒並み優秀さを認められ、ルーデンスの社員になって破格の待遇で活躍している。
私もルーデンス・ゲームスの社員になって、それはもう晴れやかな気持ちで働いていた。
今日も元気に出勤すると、エレベータで顔見知りに遭遇する。
「あ、長さん! お疲れ様です~~」
「おう嬢ちゃん。今日も変わらず元気だな!」
「長さんこそ元気モリモリじゃないですか~。何歳までも現役でいけますよ!」
なんと長さん、ルーデンスの取締役になったので定年退職が取り消しになったのだ。
社長の江柿(えかき)さんとは仲のいい友達で、元気に會社を盛り上げていくらしい。
會社の中にはユニゾンの開発者さんもたくさん移籍しているので、なじみの會社って言うじがする。
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しかしお仕事を邪魔するような悪い人には出くわしたことがなくて、そこだけちょっと不思議なのだ。
「そういえば元部長さんや井張さんの姿、見かけないんですよね……」
「ああ。あいつらなら、鬼頭のとこだぜ。それだけじゃねえ。悪い奴らは全員、消滅會社行きだ。廃業のために粛々と仕事してるとこさ」
「ふぇぇ~」
知らなかった。そんなことになってたのか~!
聞けば、長さんはユニゾンの中で不良社員を見つける凄腕の探偵さんだったらしい。
與脇社長さんは鬼頭さんに脅される中で、やはり社員の不遇や不良社員の橫暴に心を痛めていたらしく、長さんに々と調べてもらっていたようだ。
長さんが社の報に詳しかったのは、そういう偵活が関係していたらしい。
「でも鬼頭さんたち、會社が廃業になった後はどうするんでしょう?」
「そらまぁ、無職だろうなぁ。普通に考えれば転職活だろうが、鬼頭と與脇(よわき)は飾の問題が全國ニュースになったし、もう歳だし、転職は難しいんじゃねぇかな。鬼頭なんざ、あっちこちから被害屆が出てるし、そのうち逮捕だな。わはは」
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長さんはケラケラと笑う。
「ま、あんなクズを気にするなんて人生のムダだ。前向いて歩こうぜ!」
そしてエレベータが目的のフロアについた時、何かを思い出したのか長さんに呼び止められた。
「あ、そうだ! 今レトロゲーのリメイク企畫を進めてんだ。今度仕事の相談に行っていいかい?」
「もちろんですよ! 長さんのゲーム、復活するんですねっ!」
長さんはグッと親指を立てた。
すっごく楽しそうで、私も嬉しくなる。
舊ユニゾンソフトが保有していたタイトルはすべて、ルーデンス・ゲームスが買い取ることになった。
つまり、私たち開発者は今まで通りに自分のタイトルに関われるというわけだ。
しかもお客さんから搾り取るような悪いシステムや運営はまったく行われず、とても気持ちよく開発ができている。
新生ルーデンスは凄くいい會社になる。そんな確信が持てた。
◇ ◇ ◇
「おっ、彩ちゃん! ちょうどいいところに來たね。スフィアエンジンの使い勝手で相談に乗ってもらっていいかい?」
「もちろんですっ。田寄さんの頼みなら、なんでも聞いちゃいますよぉ~」
自分の執務室に向かう途中、エンジン開発室の前で田寄さんとバッタリ會った。
田寄さんはプリプロの審査會後、エンジン開発室の室長を兼任することになり、ユニゾンエンジン改め『スフィアエンジン』の大改良をし遂げていた。
追い出し部屋で完させたスフィアエンジンの上に様々な機能を載せなおし、真の萬能で高速なゲームエンジンが誕したというわけだ。
最近ではグラフィックの機能拡張で相談に乗ることも多く、私もちょくちょくエンジン開発室に顔を出している。
「それにしても、追い出し組出は相変わらず元気だね~。彩ちゃんはもちろんのこと、高跳くんも創馬ちゃんも生き生きしてるよ」
新機能の使い勝手をチェックしていると、田寄さんはしみじみという。
高跳さんは骨折も無事完治して、スーパーアニメーターとして元気に活躍している。
対戦格闘の新企畫が立ち上がっているらしいけど、今は私たちの企畫に注力したいと斷っているらしい。それでもラブコールが激しくて嬉しい悩みだとか。
「高跳くんは相変わらず半で仕事してるけど、最近は専用のモーションキャプチャースタジオをもらえたって喜んでたな」
「へぇぇ~。高跳さんって自分でめちゃくちゃけるから、その方がスムーズなんでしょうね!」
「あと、創馬ちゃんの躍進が凄いね! このあいだ、造形プロダクションのボスになったんだって!」
「知ってます知ってます~。イロドリ名義のキャラフィギュアのシリーズを作りたいって聞いて、打ち合わせしたばかりなんですよ」
創馬さんは社で造形専門の開発室を立ち上げて、そこの室長になっている。
あらゆるモデラーの力を創馬さんレベルまで押し上げ、各所で活躍させているとか。
もちろん私たちの企畫のメインモデラーなので、今でも一緒に楽しく仕事してる。
そしてなんと創馬さん。ルーデンスに移ったことを契機に、常にの姿でいるようになったのだ。
「創馬さん自がますます人になってて、素敵でした~」
「うん、創馬ちゃんって社にファンクラブができてるんでしょ? ……っていうかさ、彩ちゃん自のファンクラブが最大手……」
「うわわ。それは恥ずかしいから言わないでくださいよぉ~。イロドリってカミングアウトした後から『やっぱりそうだったんですね』って人が続出してて。なんか、思ってた以上に注目されてたみたいなんですよぉ」
ファンクラブなんて公認してないのに、恥ずかしいって言った隙からポコポコ増えて、今では放置する以外になかった。
「まぁ、最近の活躍で彩ちゃん自の絵が有名になってるもんね~」
「おやおや~。イロドリせんせじゃないですか~」
田寄さんと話してると、背後から話しかけられた。
振り返ると阿木さんが笑っている。
「阿木さん! その名前は社ではですよぉ」
「ごめんごめん。もう有名なんだけどね~」
そして、彼の橫にいる。
その姿に、私は嬉しすぎて震えてしまった。
「……神野さん。おかえりなさいっ!」
「うん。ヤスミン、ただいま!」
神野さんがついに復帰した。
しかも、長い個人事務所生活の中で作られたという十本以上の新規企畫やシリーズ企畫を抱えて。
今日、社に神野さんの企畫専門の開発室『スフィアプロダクション』の準備が整い、神野さんの初出社となったのだ。
阿木さんは私たちの企畫と兼任する形で、そのプロダクションの擔當プロデューサーに就任したということだ。
「ひとまずドラゴンズスフィアの新作を立ち上げなきゃね! ヤスミンも暇を見つけたら聲かけるから、暇を作っててね!」
「はい、必ず! というか、今すぐにでもオッケーですよっ。また一緒にお仕事できるなんて、うれしいです!!」
あまりに嬉しすぎて、自分がまるでしっぽを振る子犬のようだ。
すると、阿木さんがニヤリと笑って視線を向けてきた。
「おやおや、夜住さん。そんなに安請け合いしちゃって、真宵くんに怒られないのかな~?」
「えへへ。どんどん絵を描いてると、発注の方が追い付かなくって。真宵くん曰(いわ)く『彩ちゃんはみんなの彩ちゃんだから、好きなように仕事をけちゃってね』って言われてるんです」
プリプロの時もそうだったけど、私の仕事があまりに早すぎるのか、一つのプロジェクトだけだと暇になる事が多かった。
今では頼もしいグラフィックチームやデザインチームとも行を共にしてるし、真宵くんが完璧にマネージメントしてくれるので、會社に泊まり込みなんてブラックな狀況に陥ることなくびびとお仕事できてるわけだ。
「へぇ。好きなように、ねぇ。それはいいこと聞いちゃったな~」
「あ、アキナイくん。悪だくみしてる顔!」
「いやいや、あくまでも夜住さんのプロデュースを考えてるだけですって~」
神野さんと阿木さんは笑いあう。
今日のやることが終わったら、さっそく神野さんのところに遊びに行こう!
私はウキウキしながら自分の執務室へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「彩ちゃんおはよう~」
「おはよう真宵くん!」
「キャラクターと世界観のデザイン資料をまとめておきたいんだけど、あとでデータの置き場所を教えてくれるかい?」
「あ。もう、まとめてあるよ!」
私は真宵くんのパソコン畫面を指さし、サーバ上のデータ置き場を教える。
「早っ! さすがだなぁ。さっそく江豪先生と仙才先生に送っておくよ」
「シナリオも順調。コミカライズ企畫もスタート。あ~、はやく漫畫が読みた~い!」
私たちのゲーム企畫『デスパレート ウィザーズ』はもうしで本制作(プロダクション)段階の最初の関門『α(アルファ)の審査』に差し掛かる。
でも、進捗は真宵くんのコントロールのおかげで完璧。
プリプロのようなピンチもなく、何もかもが順風満帆だった。
なにもかも、企畫の開発室一つを任されるようになった真宵くんの実力のおかげだ。
彼は新室長として、そして頼もしいディレクターとして、私たちチームを引っ張って行ってくれる。
腳本家の江豪先生と真宵くんのタッグもスムーズで、シナリオは時間を忘れて熱中するほどに面白い。さすがは人気アニメを何作も擔當されているベテランの風格だった。
そして漫畫家の仙才先生は仕事を漫畫一本に絞ったということだけど、大変に熱烈なイロドリファン的なアピールで、私たちのゲームのコミカライズをやってくれることになった。
とにかく熱意にあふれていて、刺激をもらえることが多くて嬉しかった。
そして、肝心な私の近況――。
私、夜住 彩はイロドリだとカミングアウトしたわけだけど、それがきっかけでものすごく沢山の出會いやお仕事に巡り合うことになった。
そもそも、ルーデンスの江柿社長さんが私の大ファンだと分かり、ビックリするほどの好待遇をもらえたのだ。
ちなみに江柿社長、やっぱり私の絵を見ただけでイロドリ本人だと見抜いていたらしい。実は今も現役でイラストを描いてるってことで、意気投合したものだ。
ユニゾン時代は副業止を守ってイロドリとしての活は自粛してたけど、社長さんの特別なはからいで個人の活も自由を認められた。
とにかく私の仕事が早い、ということも認められる要因だったようだ。
そんなこんなで次々と仕事してるうちに、年収の桁が勝手に二個ぐらい増えちゃったのは、ひとまず誰にもにしておこう。
――このあと、私たちが作った『デスパレート ウィザーズ』は小學生を中心として中高生の話題を席巻し、國だけで200萬本を売り上げる大ヒットとなった。
予想外だったのは海外のヒットで、全世界で合計400萬本を超え、一気にルーデンス・ゲームスの看板タイトルとなったのだった。
とにかく充実。
とにかく楽しい。
ゲームの開発を通して沢山のクリエイターと巡り合い、私たちはどこまでも登っていくのだった――。
『え、神絵師を追い出すんですか?』 完
これにて本作『え、神絵師を追い出すんですか?』は完結となります。
お読みいただき、誠にありがとうございました!
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