《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》ドレスを作る

一晩明けて、普段より遅く起き出した私のからは疲労がすっかり抜けていた。

ゆっくり休ませて下さった事にお禮を言いつつ朝食の時間に筋トレーニングの話を殿下に振ると、殿下は何故か揺してティーカップのお茶をちゃぷちゃぷ言わせる。

「どうかなさいましたか?」

「いや。勘違いをしたのは己なのか、それとも相手なのかを考えていたらこうなった」

「勘違い?」

時計の鐘が鳴った。

一時間に一回鳴る裝飾のしい小さな鐘だ。

時間はちょうど九時。

扉がノックされ、時間通りに衛兵さんに連れられて來たシルヴァを迎えれる。本當に時間通り。

「よく來たな。足の調子はどうだ?」

「來ないと命令を破った事になるんだろ。足はもうかなり落ち著いたよ」

痛みで眠れなかったのか、目の下に隈をこさえた彼はそう言って室を見渡した。

ゆったりとした余裕そうな視線が私を捉えた瞬間、彼の顔がボワッと音を立てたかと錯覚する勢いで赤くなる。

「あ、あああのっ、き、昨日はごごごめんなさい。あの後帰って落ち著いて考えたらあの時のあれ相當あれなあれだなって、しかも謝ってなかったなって気付いて眠れなくなって」

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いまいち要領を得ないシルヴァに殿下は聞き返す。

「ん? なんて?」

「王子サマには関係ない!」

「おう……元気だな。まぁいいや。まずは著替えだな。その格好では王宮では浮く」

「もう何だっていいよ。好きにしてくれ」

また目が合って、プイと顔を逸らされた。

本當にずっとこんな調子でちょっと傷付く。

まぁ、別にいいんだけどね。

という訳で、彼は従者のお仕著せに著替えた。金髪に黒服が異様に映える。

「窮屈だな。これで何すんの?」

「まずはマナーの勉強だな。午後からは騎士達に混ざって剣の訓練。しばらくはそれ以外やらなくていい」

「この格好で剣!? 出來ないだろ」

「最初のは騎士服を借りればいい。でも慣れて來たらその格好のまま戦えるようになってほしいんだ。俺は何人も従者を置くつもりは無いから、君が世話係と護衛を兼ねてくれたら有り難い。それに、」

「……何だよ」

「君には、剣の才能があるんじゃないかと思って」

その言葉は彼にとって嬉しい一言だったようだ。

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満更でもなさそうな顔で「ま、まぁ、機會があればやってみたいと思ってたし? 別に習っても構わないけど?」と嘯く。

殿下はニヤッと笑い、

「みっちり扱かれて來い」

とおっしゃった。その時ふと“あいつをどうやって苛めようか考えてた”と言った言葉が脳裏をよぎる。

……もしや、人任せにしようとしている?

そう訊こうとして、やめた。

重鎮の従者さんにシルヴァを預け、マナー教育に向かう彼を見送った。

それから私達は王妃様のお部屋に伺う道すがら昨日作った畑の様子を見てみる。

すると既にケリー様が居て、畑の前にしゃがみ込み地面を眺めているところで。

背後から聲を掛けると弾かれたように立ち上がってこちらを向いた。

「おはようございます、ケリー様」

「お、おおはようございます!」

どうしたんだろう。明らかに揺している。

「……何かありましたか?」

「はい。実は……」

スッとを橫にずらして畑が見えるようにして下さった。

すると畑には白銀の雙葉が一つ、ぴょこんと顔を覗かせている。

「まあ! これは何の芽ですか?」

「分かりません。初めて見ました。薬草の芽はこのようなでは無いし、それに形も違います。昨日拵えたばかりの畑からもう芽が出ているというのも驚きなのですが、何よりも」

「何よりも……?」

これ以上に驚く事なんてあるんだろうか。

ケリー様は再びしゃがみ込み、顔をそっと芽に近付けた。

「ステラ様もセシル殿下もいいですか? 見ていて下さいね。行きますよ。……“やあ、おはよう。今日も良い天気だね”」

プルプルと芽がいた。

いた!?」

「そうなんです……。人の聲に反応してくんです。もしかしたら植では無いのではないかしらと思って観察していたのですが……」

「……ちょっと見せて」

殿下がケリー様の隣にしゃがみ込み、まじまじと観察したのち「これは木の魔獣のだな」と呟いた。

「木の魔獣ですか!?」

そんなものまであったのね。

知らなかったわ。

……でも、魔獣というじには見えない。むしろ聖獣に近いような……。

殿下の呟きにケリー様は“やはり”といった表で頷く。

「ああ、やっぱり……。ある程度大きくなったものしか見た事が無かったので確信が持てませんでしたが、魔獣のでしたのね。間引きましょう」

「ちょっと待って! 便宜上魔獣って言ったけど、がランラン達と一緒だ。聖域から生えて來た事を考えても、こいつは聖獣と言った方が正しいかもしれない」

「あ、やっぱりそうですよね」

私がそう言うと殿下は「だよな」と頷いた。

その間もはずっと私達の聲に反応してプルプルき続けている。

「でも……聖獣は魔獣を浄化したものですよね。生まれた時から聖獣なんて、そんな事があるのでしょうか」

「どうかな……。ただ、事実として存在する以上、そういう事があると考えるしか」

うーん、と考え込んでいるうちに、一つの手がかりを思い付いた。

「マロンを調べましょう」

「何で?」

「魔獣も聖獣も何かしらのスキルを持っています。なので、もしかしたらマロンが何かしたのかもと思いまして」

「あー。なるほど。そうだな。……でも、どこに居るか分かる?」

「はい。今も畑の中に居ます。出てきて貰いましょう」

私は自分が聖獣化した子達の居場所が分かる。

遠ければざっくりとした方向が、近ければ詳細に。

今はすぐそこに居るのだと分かっている。

「マロン。出ておいで」

聲を掛けると土がモコモコとき、白くて小さい頭がぴょこっと飛び出して來た。

「かわいい……」

ケリー様が呟く。

その聲にも土から生えている白銀の雙葉がプルっといて反応した。

さっきから誰かが喋る度にくのが気になって仕方ない。

きっといからヤンチャで元気なのだなと思う事にして。地面から出て來たマロンを手のひらに乗せる。

「マロン。あなた、畑に何かした?」

話しかけながら土を払い、“連攜”をした。

これでマロンの持つスキルが分かるからね。

頭の中に文字が浮かんで來る。

……ん?

「“冬眠”……」

「冬眠?」

なんと。マロンの持っていたスキルは使い道の謎すぎるスキルだった。

「そりゃ世間で言うところの“役に立たないハズレスキル”だな。と言っても、こういう謎スキルの方が多いんだけどさ。畑に聖獣が生えた件に関係があるのかどうか。……まぁ、々予測を立てたとしても、実際にスキルを使ってみない事には詳しい事は分からないよな。でも冬眠させて良い相手なんて……」

「居ませんね」

「居ないな。……よし、この件は保留にしよう。聖獣なら危なくは無さそうだし、今ここで答えを出さなきゃいけないものでも無いだろう。畑からが生えてきた件は、俺から陛下に伝えておくよ」

「かしこまりました」

ケリー様はお辭儀をした。

顔を上げたケリー様はマロンが気になるようで、私の手元をじっと見ている。

「ケリー様、マロンに畑のお世話のお手伝いをさせましょうか」

「そのような事が出來るのですか!?」

「何をすれば良いのか教えて頂ければ、出來ると思います」

「まぁ……! で、では、害蟲の駆除をお願い出來ますかしら。薬草は葉にら蟲が付きにくい方なので、今の段階なら土の中の蟲さえ何とかなれば當面は大丈夫かと思うのですが」

「かしこまりました」

連攜を通じてマロンに“蟲を駆除して”と伝える。

するとマロンは手からぴょんと飛び降り、あっという間に土の中に潛って行った。

「凄い……。マロンが――というよりステラ様が凄いですわ。セシル殿下と組んだら無敵ですわね。お二人で世界征服出來そうじゃありません?」

「しないよ」

冗談めいたケリー様のお言葉に殿下は即答した。

有無を言わせない、靜かな中にも力のある言葉だった。

なんとなく、あの短い言葉の中に最大限の慎重さが込められていたような気がした。

以前、陛下はおっしゃった。

今でもセシル殿下を王太子に、とむ聲があると。

例え冗談でも口に出來ない事があるのだなと思い、私も発言には気を付けなければとこの時思った。

もうしマロンと遊んで行きますと言うケリー様と別れ、私達は王妃様のところへと向かった。

そろそろ午前のお茶の時間。昨日面會を約束した時間だ。

殿下が王妃様のお部屋の扉を雑にノックして開くと、そこには既にきちっとしたドレスを著込んだ白髪混じりのご婦人が居た。

ご婦人と王妃様は談笑していらっしゃるところで、お二人とも私達に気付くとティーカップを置きスッと立ち上がる。

「おはよう、お二人とも。早速だけど紹介するわね。こちらが昨日話したドール夫人。スキルの持ち主で仕立ての名手よ。とっても仕事が早いの」

「初めまして。ドール夫人。ステラ・マーブルと申します」

もう、家名を名乗る事に躊躇いは無かった。

お辭儀をしながら自己紹介をすると、ドール夫人も同じようにお辭儀をして下さる。

「お會い出來て栄でございます、聖様。わたくし、マリエ・ドールと申します。聖様の事はまだその存在が公では無くとも噂にて存じておりました。聖様の出現とセシル殿下とのご婚約、それと他の貴族の皆様に先んじてわたくしがご紹介頂けた事。三重の喜びをじております」

噂……。

あえて噂を流そうとおっしゃっていた陛下の目論見通り、浄化の件と婚約の件のどちらも王宮周辺では公然の扱いになっている様子。

きっとお父様も耳に挾むくらいはしているはず。

どう出て來るのか全く想像がつかないけれど、フィオナの肖像畫を殿下に送って來ていたくらいなので噂の人が私の事だと知ったら烈火のごとくお怒りになりそうだ。

怒鳴る姿が脳裏にありありと浮かぶ。

でも、もう全然怖くない。

だってあの人が私を忌み嫌っていた理由はただの思い込みで、あの人は私の実のお父様なのだから。

「では早速採寸だけ終わらせちゃいましょうか。デザイン等の相談はその後で」

私の採寸は別室で行われるらしく、王妃様の裝部屋へ行きましょうとのお言葉をける。

「殿下、しお時間を頂きますね」

「うん。俺は本でも読んで待ってるよ。行ってらっしゃい」

私とドール夫人は裳部屋へ行き、その間殿下と王妃様は午前のティータイムをのんびり過ごして頂く事になった。

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