《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-47:神話の行く末
ユミール達がルゥを連れ去った場所は、王都の遙か北――未踏のツンドラ地帯。
以前、フレイがの夕焼けの構で明かしていた『北にある拠點』とは、このことなのだと思う。
ルゥを攫ったユミール達は、僕がその場所に『氷炎の心臓』を持っていくのを待っている。
僕らは虹の橋(ビフレスト)を通じて、一度、オーディス神殿に戻った。
地上の様子を見て、可能であれば、ユミール達を攻める増援がしい。
天界から見た時、神殿はユミールに押されて今にも陥落しそうだった。けど、ミアさん達に言わせると、後になって戦況が楽になったようだ。ユミール達が消えて、魔の勢いが落ちたせいかもしれない。
実際、僕らが虹の中から抜け出ると、もう神殿に魔の姿はなかった。天界で爭っていた1時間ほどの間に、形勢が変わったのだと思う。
地面には、雪が降ったように大量の白い灰があった。
これ……魔達の灰だろう。
原初の巨人に命じられて、一気に神殿まで攻め上った魔達。傷をものともしない勢いだったけど、それは彼らの全力を無理に絞らせることで。
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ユミールが天界へ移するか、あるいはもっと早いタイミングで、魔達は命を使い果たし灰になってしまったんだ。
「リオンさん!」
神殿の中庭に出た瞬間、僕はそう呼び止められた。
大塔のり口で、法を著たパウリーネさんが目を丸くしている。ロッドやには、氷がいくつもついていた。きっと地下で封印を維持していたのだろう。
パウリーネさんは、中庭から上空に向かってそびえる虹を見上げる。そして、虹から出てきた僕、ミアさん、フェリクスさんを見比べた。
「……想像もできないことばかり起きていますが。まずは、無事を喜びましょう」
王様は歩み寄って、ふと眉をひそめた。
「ルイシアさんは? 一緒では?」
「ユミールに攫われました」
パウリーネさんは顔を強張らせる。
すがるように一歩前に出てきた。
「……ユミールが、『創造の力』を取り戻したと? それでは、もはや、魔達を止めるは……」
「いいえ。ルゥが、最後の最後に『創造の力』を封じ込めたアイテムを、創ってくれたんです」
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言葉にするたびに、僕はが痛くなった。
早く助けたいけど……今は焦っちゃいけない。
神殿の周りは騒がしい。
城壁の向こう側からはまだ魔の聲がしていた。絶的な戦況ではなくなっただけで、神殿が魔に囲まれていることに変わりはないのだろう。
増援もしいけど、オーディス神殿の戦況しだいだ。
「これを見てください」
僕はポーチから、拳2つ分くらいの氷塊を取り出す。布を取ると、氷の中で心臓がいた。
パウリーネさんがぎょっとする。
「……なんですか、これは」
「ユミールの心臓です。うまく言えないのですけど――『創造の力』の、もともとの形なのだと思います」
応えるように、どくん、と心臓が拍する。
パウリーネさんは深く息をついた。緑の瞳で僕を見據える。
「申し訳ありませんが、話が飛び過ぎです。詳しく話をしていただけますか?」
僕は、天界で起きたことをパウリーネさんに伝えた。
神様が戦えないほど傷ついてしまったと知ると、王様は息をのむ。
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「……では、神々の助力なしで、ルイシアさんを助けに?」
「戦うのは冒険者だけです」
僕はに手を當てた。
「ただ、ユミール達は天界で大きく傷をけているようです。時間が経てば、傷が癒えて、もっと不利になります」
それに、と言い添える。
に、天界で冒険者みんなと決意を固めた時のことが過ぎった。冒険者一人一人のに、赤や紫といった、神様の魔力に応じたが宿っている。
意味は、あの後すぐに明らかになった。
「神様は、もう直接は戦えません。でも、戦う冒険者一人一人に、しずつ力を授けてくれるそうです」
僕とソラーナが最初にわした『誓い』に似ているかもしれない。
神様と絆を深めて、力を貸してもらう。地上と天界で起きた戦いが、冒険者と神様の絆をずっと深めていた。
パウリーネさんが驚いたように問う。
「リオンさんのように、複數の加護が?」
赤髪を揺らして、ミアさんが首を振った。鎖斧を取り出すと、表面に青白い雷が走る。
「いや、『ステータス』に加護が現れたわけじゃなかったよ。さすがに、スキルがいくつもあるのはリオンだけだな」
「おそらく、『黃金の炎』のような一時的な強化に近いでしょう」
フェリクスさんが引き取る。杖をついて、額の小冠(コロネット)を押さえていた。
「神々が、殘る魔力を敵拠點へ突する冒険者に分けてくれたというわけです」
パウリーネさんは、しばらく言葉を失っていた。
いきなりこんな話を聞かされたら、僕だって同じ気持ちになると思う。
地上で決戦があったかと思えば、オーディンがルゥを攫って、戦いの場が天界に移った。さらにその後は、今度はユミールがルゥを攫う。
僕は、途方もない気持ちになってしまった。
西の空を見る。王都の方角だ。
あの街で一生を終えてもおかしくなかったのに、鉱山街とか、湖の街とか、天界とか、さらに最果てのツンドラ――一生分の移をここ數か月でやった気がする。
パウリーネさんが肩をすくめて、苦笑した。
「……神々の力を授かった戦士たち、というわけですか。まるっきり神話ですね」
確かに、実際に神様がいるわけだから――これは本當に神話の1ページだ。
だとしたら、この後、僕らはどこに移していくのだろう。北のツンドラが神話の終わりであれば、いいのだけど……。
「パウリーネさん」
僕は頭を振って気を取り直した。王様にお願いする。
「地上も厳しい狀況だと思います。ただ、天界からユミール達を追いかける増援が必要です」
「わかりました。神殿の戦士団からも捻出してみますが……どれくらいの人數を?」
「50人ほど」
僕は言った。
數がはっきりしているのには、理由がある。
「神様の魔力が限られているんです。それで、その人數に魔力を授けるのが限界のようなんです」
「わかりました」
パウリーネさんが頷いた。
「至急、戦士団や腕利き冒険者を揃えて、中庭の虹の橋(ビフレスト)へ向かわせます――決戦ですね。今度は、攻める側の」
僕はミアさん、フェリクスさんと目線をわし合う。これで、ユミール達のところへ戦いに行く準備が整った。
天界の冒険者にも連絡をとって、虹の橋(ビフレスト)を通じて武を換したり、負傷者を聖堂で治療したりした。
サフィや小人達の力も借りて、傷ついた裝備に魔法文字(ルーン)を刻み直す。サフィはルゥやソラーナのことを聞くと大粒の涙を流しながら、『まっかせて!』と小さな鎚を全力で振るってくれた。
僕らは増援の合流を待って、虹の橋(ビフレスト)へ向かう。
目指すのはユミール達が待つ、北の大地だ。
◆
リオン達がユミール達との戦いに旅立った後、天界には神々だけが殘された。
噓のように穏やかな風が、殘された神々をなでる。
巨のトールもヘイムダルも、黒いローブのロキも、狩裝束のウルも、青鎧のシグリスも、そして白いワンピースのソラーナも、顔を伏せたまま瓦礫や木々にを預けていた。
オーディンの巨城も崩れ、しかった水鏡も瓦礫に半ば埋まっている。
破壊され、神々も死に絶えたかに見える景。だが、最初にロキが目を開けた。
「行ったね、彼ら」
風が渡って、ロキの黒髪をなびかせる。
「ふふ。これで、できることは全部だ。魔力の風からも守ったし、殘った力は彼らに全て與えた。これで神々は、本當の役立たずになってしまったねぇ」
笑うロキに、ヘイムダルも肩を揺らした。
「確かにそうだな。後は、リオン達に託すしかない」
ヘイムダルは青空を見上げる。傷だらけのだったが、顔つきは安らかだ。
「……ユミールと戦うと言った時の、リオン達の顔を見ただろう。ユミールがいなくなって、全部終わったら、人間に神々は不要かもしれないな」
ヘイムダルは目を細めて笑う。
他の神々も否定しなかった。
神と人間の関係が変わってきた――それは、ずっと神々がじてきたことである。
神が上。人間がその下。
神話時代から暗黙でその序列があったはずなのに、今や世界の運命を決めるのは、年に率いられた人間の頑張りである。
神話時代から人間を導き、悪く言えば支配してきた神々は、今は見ていることしかできない。
狩神ウルが口を開いた。
「オーディンはどう考えているんだろう?」
ロキが応じた。
「計畫よりも、人間を認めているのは確かだろうね」
主神は姿を消している。
取り止めになった創世についてまだ何らかの考えを持っている可能はあったが、ロキはオーディンの変化をじていた。
「僕らの魔力で人間を強化できたのがいい証拠だ。オーディンが人間に配ったスキルには、他の神の干渉を避ける効果もある。彼が人間が勝つ可能を認めたからこそ、僕らは冒険者を強化できた」
もっとも、とロキはを鳴らす。
「まだ油斷はできない。特にユミールに勝てないと意味がない」
神々は順々に頷いていく。
瓦礫に半分ほどが埋まった水鏡。神々の求めに応じ、水面に地上の様子が映し出された。
リオン達が虹の橋(ビフレスト)を降りて、雪原に踏み出す。空はまだ薄暗く、月が大地を銀に染めている。
年を先頭に、100名弱の冒険者達は遠くに見える神殿へと向かっていった。
雷神トールが太い腕を組む。
「だが、俺達はもう信じるしかない。決著も世界も、人間のものだ」
トールは時々、真をついたことを言う。
戦いが終わった後、おそらく、神々と人間の関係はさらに変わる。変わらざるをえない。
「あいつらは、強え」
強い神と、強くなった人間。
ロキは雷神に同意する。
神がいつまでも人間と関わることは、どちらにとっても良いことにならないかもしれない。
「……わたしは」
ただ一人、ソラーナは水鏡を見ずに、じっと自分の膝を見ていた。薄いが引き結ばれている。
「……それでも、わたしは悔しいよ。わたしは常にリオンと共にある。そう誓った」
「ふふ、なるほど?」
ロキはあえて笑い飛ばそうとし、ふと気づく。
決戦の前、神々は相のよい人間に魔力を授けていった。近接戦闘が得意な者にはトールの魔力。魔法が得意な者にはロキの魔力。治癒が得意な者にはシグリスの魔力。
ただ、ソラーナだけは、殘る魔力をほとんどリオン一人に注いだ。
角笛の年は、ルイシア同様に魔力を宿しやすい質。そのため、今回も多くの魔力を宿したのだが――
「誓った? 人間が神にじゃなくて、神の君が人間に?」
「う、うむ」
「いつ?」
「そ、それは……ええと」
ソラーナは言い淀み、目を泳がせた。頬がみるみる赤くなる。
ロキは察した。さすがに何も言えない。絶対にデートの時だろう。
小聲でつぶやいた。
「……1人の男の子のためにって、それこそ神じゃなく人間みたいな発想だねぇ」
ソラーナが神々の中でも特に長し、人間らしくなっているのは気づいていた。最初は食事さえ知らなかったのに、今ではリオンと逢引まで。
しかし――
「世界の運命を擔うのは神じゃなくて人間。さらには、神が人間そのものの思考をしてる……?」
おまけに主神の姿が再び見えなくなっている。
左手のひらを顎に當てて指先を嚙みながら、ロキはたれ目の目をさらに下げた。
「本當に、この神話はどこに転がるんだ?」
ロキは、再び水鏡を見やる。雪原で鍵となる最後の戦いが始まろうとしていた。
――オオオオォォォオオオオ!
風鳴りのようなユミールの聲が、神殿から黎明の雪原に響き渡る。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月2日(水)の予定です。
(1日、間が空きます)
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