《悪魔の証明 R2》第55話 038 シロウ・ハイバラ(2)

レイの指図に頷いたミリアは、早速といったじでアリスの後ろへと回り込んだ。

の顔に手を回してから、そっとリボンを目に當てる。

余った黒い布をこめかみを通して後ろへと持っていき、後頭部辺りでリボンをぎゅっと縛り上げた。

「先生、萬事準備オッケーです」

そう告げるや否や、再び俺のいる壁際の位置へと戻ってくる。

その言葉に會釈を返しながら、

「念のため、最終確認をさせてしいのだけれど」

と、レイがスピキオに要求する。

「ええ、もちろん。答えられることであれば何でも」

スピキオは了承すると、し前へとかす。

仮面の奧から流れてくる機械音聲まじりのその聲。やはりそこからは読み取れそうにない。

「アリス・ウエハラ。この子の能力は千里眼。何を通してもの正しい形を知できる。その能力を最大限に披できるのがこのテークワン。つまり、カード當てゲーム。ゆえに、このゲームで勝敗を決する――これでいいのかしら?」

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「ええ、その通りです。そして、ここからはあなたとアリスの勝負。部外者の私は何も口を出しません。契約通りですよ、レイ・トウジョウ先生。ご心配なさらずとも、お約束はお守り致します」

壁へと再びもたれかかりながら、白のデスマスクは言う。

「そう」

と、レイは気だるそうに吐息をく。

カードが置かれたテーブルへとを戻し、視線をアリスへと送る。

目隠しをされたそのは、それに気がついた様子もなく、ただ呆然と顔を前へ向けたままだった。

「準備はいいわね、アリス」

アリスに向け斷りをれる。

が頷いたのを確認してからすぐに、

「それでは、アリス。このの種類は何かしら」

と、尋ねた。

同時に、左から二番目のカードを翻す。

極端に不細工なカバが現れた。

デフォルメキャラというのは、通常何かしら過剰な特徴を含んでいる。

それはわかっているのだが、こいつの顔だけはいつ見ても見苦し過ぎる。

レイの趣味なのだろうか。

俺がそう訝っている最中、アリスは顔を前にしたまま、カバのカードの上にゆっくりと手をかざした。

ごくり、と俺は息を飲んだ。

スピキオが連れてくるということは、アリスの実力はそれなりなのだろう。だが、本當にこんなにマジックができるのだろうか。

結果的に、俺のそのような心配は杞憂に終わった。

「カバ」

アリスは短く正解を答える。

おお、とそれを聞いて思わず聲をあげそうになった。

今はまずいとばかりに、さりげなく拳を口に持っていき、咳払いのフリをする。

ミリアが怪訝そうにこちらへと視線を向けてきたが、笑って誤魔化した。

その後もアリスは、トラ、ライオンと、レイが開けたカードの図柄を次々と當てていった。

澱みなく次々と正解するその姿に、これはいけそうだと俺の心は踴る。

子供じみた赤いドレスを著たが、これほどまでに勇敢に戦うとは想像もしていなかった。

そして、「ヒツジ」とアリスの口から、最後のの名前が告げられる。

全問正解。つまり、一回戦はアリスの勝利というわけだ。

「どうです、トウジョウ先生」スピキオが唐突に呼びかけた。「負けをお認めになっては。私の記憶が正しければですが――今まであなたがこの一回戦を乗り越えられた経験はほとんどなかったのでは?」

臺詞が終わると、壁際から前に出てレイの元へと歩み寄る。

距離を保ちその場で立ち止まったスピキオに向け、

「あら、そうだったかしら?」

レイはすっとぼけたじで訊き返した。

「生まれの良いあなたのことだから、今まで負けをあまり経験なされたことはないでしょう。ええ、そうです。私はあなたの神狀態を心配しているのです。負けたことがない人間にとって、一度の挫折は神をこそぎ奪われるほどのショックとなりますから」

この言葉に対し、レイは薄気味悪く口を歪ませる。

「あらあら、スピキオさん。相変わらず、アメリカンジョークがお好きね。確かに、今までの人生で私が敗北を味わったことなど記憶にないわ。けれどね、スピキオ。それは、私の神が負けを認めない限り敗北ではないという意味でのことよ。ゆえに、勝利への布石として負けを喫することは、私の神には何ら影響も及ぼさない」

「――つまり、今の勝負は、わざと負けたとおっしゃられたいのですか?」

スピキオが臺詞を総括するかのように尋ねる。

これに対しレイは、

「そんなところね」

と、迷う様子もなく答えた。

靜まり返る空気。レイの放った聲の余韻だけが揺れるように周囲へと流れる。それはあたかも今後の行く末を暗示するかのようだった。

「……なるほど、そんなところなのですね」

そう同じような言葉を返すと、スピキオは肩をすくめた。これで話が終わったとじたのか、元の位置へと戻ろうする。

「ねえ、スピキオさん。あなたに聞いておきたいことがあるのだけれど」

今度はレイが聲をかけた。

前方へと進んでいたスピキオだが、その場で足を止める。

「ええ、もちろん。何でも訊いてください。レイ・トウジョウ先生。問題ありませんよ」

丁寧な口調で承諾してから、くるりと振り返った。

仮面にし手をかけ、その位置を調整する。そうしてから手を前に差し出し、質問の先を促した。

レイは目を細めながら、

「では、早速だけれども訊くわ。スピキオさん――私たちが見えていないと思っているものは、果たして本當に見えていないのかしら」

と、白のデスマスクに尋ねた。

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