《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-48:霜の宮殿

僕は虹の橋(ビフレスト)から雪原へ降り立った。

空はまだ夜明け前。王都ではが登っていたけれど、ずっと北は日の出が遅いのかもしれない。それに、空を黃昏に染めたユミールの侵攻が、遠く離れたこの地にも影響している可能もあった。

ここにまだ太はない。

切りつけるような寒風が、外套や裝備の隙間から吹き込んでくる。

「みんな、來ていますか?」

後ろを振り返る。大勢の吐息が蒸気みたいにたなびいていた。

ああ、とか、おう、とか冒険者の聲がする。彼ら100名ほどが、ユミールを倒す戦いに參加してくれた増援だ。

赤髪をぶるりと震わせて、ミアさんがを抱く。

「寒いねぇ。王都の冬以上だよっ」

フェリクスさんが頷いた。

「神々から魔力をもらっていなければ、凍えて戦いどころではなかったでしょう。さすが、未踏の大雪原です」

アスガルド王國には、冒険者の調査さえ屆いていない區域がある。それが王國の北に広がるツンドラ地帯だった。

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ユミール達は、ルゥをさらってその一角で待ち構えている。

僕は、前方の丘を指さして言った。

「あの上まで進みましょう。念のため、を低くして」

冒険者達の表い。強大な魔が近くにいる――そんな空気をみんなじているんだ。

やがて、僕らは丘に立つ。

雪煙に広大な宮殿が浮かび上がってきた。

「『霜の宮殿』……」

ユミール達の本拠地を、オーディンはそう呼んだ。

真ん中にあるのは、神殿のような建だ。そこから大階段が雪原までびている。階段の終わりからは大きな石柱が列をなし、訪問者を招くように僕らへ向けてまっすぐにびていた。

神殿を守る魔もいる。

大階段の右側に大狼フェンリル、左側に大蛇世界蛇(ヨルムンガンド)。2の前に巨人兵やオーク、炎魔犬(ガルム)が並び、戦線を作っていた。

ただ、真ん中に道が開いているのが妙だ。まっすぐに道を開けるように、大階段の前に魔はいない。

「……でかい場所だな」

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ミアさんの呟きに、同意する。

奧の神殿まで3、400メートルはありそうなのに、神殿は両手よりもずっと大きい。

冒険者達は聲を出さないけど、同じく圧倒されているのをじた。

かつて、ここには大勢の魔が集ったのかもしれない。それこそ、炎骨スルトのような巨大なものまで。

僕はみんなに聲をかけた。

「いこう」

罠を警戒しながら丘を降りて、進む。

崩れた城壁――おそらくはかつての門を過ぎて、石柱が立ち並ぶエリアにる。

達から100メートルほど手前で、僕は止まった。息を吸い、冷たい空気で肺をいっぱいにする。

「來たぞ、ユミール!」

んだ。

集まる魔に向けて、僕は『氷炎の心臓』を掲げて見せる。

「ここに、お前たちのむ力が込められている! ユミールが探していた心臓も、『創造の力』も、ここにある!」

軍勢はかない。聲は吸い込まれるように消えていく。

「これがしければ、僕らと戦え! もし挑んでこないなら――この心臓を壊す!」

僕らも傷を負っているけれど、敵もまた弱っている。それはオーディンの水鏡による見立てでも、『野生の心』による探知でも、はっきりとしていた。フェンリルの魔力も、世界蛇(ヨルムンガンド)の魔力も、弱まっている。

でも、ユミールは天界で巨大な魔力を――創世のために創られた球を、半分ほども食べていた。ユミールとしても、それを自分の力に変えるには時間がかかる。逆に言えば、時間をかければユミールは傷を癒すばかりかさらに強化されるということで――時間はユミールの味方だ。

だから僕は、『駆け引き』する。

ルゥが殘してくれた『氷炎の心臓』をかざした。

敵が1000年間求めてきたアイテムで、相手を決戦に引っ張り出す。

「お前はルゥとフレイヤをさらって、傷を癒し、力が溜まるのを待っている! だけど、時間をかけたら、僕らは必ずこの心臓を壊す! 『創造の力』は――もうお前の手にはらない!」

これ、賭けでもあった。

もしユミールが『創造の力』を不要として、神々を殺すことだけを優先するなら、作戦は瓦解する。ユミールはこの神殿の奧で待てばいい。

でも、希はある。

もしユミールが時間の経過をむなら、世界中を逃げ回ればいいのだもの。一か所にとどまって、まるで僕らを待っているようにしているのは、屆けてほしいものがあるからだ。

空気の震え。

魂ごと揺さぶるような予は、すぐに世界全を鳴させた。

――オオオォオオォオオオオオオオオオオオ!

神殿から、雄たけびが渡ってきた。

呼応するようにフェンリルが遠吠えし、世界蛇(ヨルムンガンド)を空へ向かって唸る。軍勢も聲をあげていた。

の合唱だ。

が粟立つ。神話の生き達に、神様なしで挑んでるだってことが、どうしてか今初めて実としてつかめた。

それに、ユミールの聲。以前よりもむしろ力が高まっているような……。

がちゃり、と後ろで鎧が鳴る。誰かが震えたんだ。

僕は腰の短剣に手を添えて、深く息を吸う。前を睨んだところで、歩いてくる影に気が付いた。

「……あの人」

黎明の空で、金髪が風になびいていた。

フレイだ。

裏切りの神様は、まだボロボロの裝束のままだった。殘っているのは、革で補強されたズボンとシャツぐらい。シンプルになった分、腰にはいた剣の柄が目立って見える。

フレイは手を叩いた。

「よい口上だ」

微笑と共に手をばし、指先を神殿へ向ける。

「案しよう」

僕は腕で、前に出ようとする冒険者達を制止する。

「案?」

「ユミールのところへ、リオンだけ案する」

フレイは微笑を崩さないまま、ミアさん達を見やる。

鎖斧を握って、ミアさんが鼻で笑った。

「まるで決闘だね」

「ユミールがそうんでいる。心臓を手に取る時、魔にも冒険者にも、邪魔をされたくないのだろう」

「といってもね」

ミアさんが後ろを向くと、冒険者達も淡々とフレイを睨む。

フェリクスさんが一歩前に出た。

「するなといわれても、邪魔をします。リオンさんだけにユミールと戦わせるわけがないでしょう」

「君達の相手は、魔の軍勢だ。軍勢を抜けた後、リオンを助けに行けばよい」

心にさざ波が立つ。

僕は決めた。

「わかった」

「リオンさん」

「罠かもしれないけど、心臓をしがっているなら、求め自は不自然じゃない。それに」

さっきの雄びを思い出す。

「こうして迷わせて、時間を稼ぐことも敵の狙いかもしれない」

フェリクスさんがはっとした。

僕は『氷炎の心臓』をポーチにしまい、外套を翻す。

「いくよ。案して」

僕はみんなと別れ、雪原を進んだ。

薄く雪が積もる石畳を越えて、魔の軍勢に近づく。大階段の右にフェンリル、左に世界蛇(ヨルムンガンド)。

の低い唸りがれ聞こえる。僕が階段を登りだすと、大狼も、大蛇も、深く頭を垂れた。

応えるように、どくん、とポーチで心臓が拍する。

の長、その心臓に軍勢は敬意を払っているのかもしれない。

階段を登りながら、僕はフレイに呼び掛けた。

「フレイ。ルゥはどこだ?」

神様の力を使って、僕は周辺を探す。魔の赤は階下に無數、神殿の奧に異常に強いものが1つ。

そして、人間の小さな息遣い。弱々しくて位置ははっきりしないけど、おそらくルゥのものだ。

「さすがだね」

フレイは階段を登りながら言った。

「君がどうしようもなく神殿に來るのを拒んだら、ルイシアを駆け引きに使わなければならなかったよ」

「……今は?」

「安心していい」

フレイは、5段ほど高い位置にいる。そこで立ち止まり、僕に金の首飾りを突き出した。

「妹の神、ブリージンガメンの首飾り。今はこれの魔力を借りて、ルイシアを拘束している」

フレイの視線が、大階段の遙か先を見上げる。巨木のような柱が3つ並び、その一番右のに、うっすらと緑のが見えた気がした。

「解放には、この首飾りが要る。君達と魔が戦う、その凄まじい余波からルイシアが自力でを守るのにも、神の存在は心強かろう」

フレイは首飾りをしまい、剣を抜いた。冷たい輝きが刀に宿っている。

「リオン、一度、終末は回避された。だが本當に殘酷なことはなんだと思う?」

僕は答えなかった。腰を沈めて、短剣を抜く。

「終わりがないことだ」

フレイは続けた。真っ直ぐ空を突くように剣を構えて、俯いている顔は見えない。

「私は正しかったのか。何かを間違えていたのか。君達と――君とルイシアと何が違ったのか。全て、ここではっきりさせたい」

剣を肩の高さに構え、切っ先を僕に向けてくる。

スキル<剣士>のオリジナル。多くの剣士、そのスキルの大本になった神様は、きっとすごく長い間もがいていた。

揺るぎない構えと、視線に、今までの悩みが詰まっている。

「……心臓は、私からユミールに屆けてやる。君が勝ったら、首飾りをもっていけ」

フレイは微笑んだ。服ももボロボロのはずなのに、今までで一番晴れやかにじる。

「私の結末になってくれ」

フレイが踏み込んだ。

僕は、神様の、みんなの加護をわせる。

――――

<スキル:太の加護>を使用しました。

『黃金の炎』……能力の向上。時間限定で、さらなる効果。

[+]神の魔力により効果が増加。

――――

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は11月4日(金)の予定です。

(1日、間が空きます)

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