《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》10・キレイになりました

「お風呂の方はいかがでしたか?」

アビーさんにタオルでを拭かれながら、私はそう聞かれた。

あの後……私は浴室に連れて行かれた。

これがまた大きいこと!

ベルカイム王國の王城のものより、數段広かったのかもしれない。

リンチギハムは資源に乏しく、最近は経済狀況があまりよろしくないとクロード王子から聞かされていたのに……。

の様子やお城を見るに、とてもそうは思えなかった。

「え、ええ。とても気持ちよかったです」

「ふふふ、エリアーヌ様。浴室でとてもはしゃがれていましたね。もしかしてこうした浴室を利用するのは、あまりないんですか?」

確かに……浴室なんてものはもっぱら貴族が使うもの。

他の人達は水浴びをしたり、あったとしても週に一度大浴場に行ってを洗うくらいだ。

しかし私は一応これでも、クロード王子の近くにいた。

本來なら毎日でも浴室を利用出來る立場なんだけど……。

「前にったのは三日前くらいだったかしら。それにその時は、あまり時間も與えられていませんでしたので……」

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「そうでしたか。まあそれが一般的ですよね」

アビーさんが納得する。

となった最初の方はそれこそ、毎日お風呂にっていた。

しかし次第にクロードの心が私から離れるのに比例して、二日に一度……三日に一度……一週間に一度……と利用出來る回數に制限が出來はじめた。

しまいには、最後の方は五分という時間制限も付けられる始末。

これではゆっくりを洗うことも出來やしない。

まあそれでも、お風呂なんて贅沢だったので有り難くっていましたけどね。

「それにしてもエリアーヌ様。とてもおキレイな髪をしていますね。同ながら羨ましいです」

「そうかしら?」

「お風呂にる前からキレイでしたが、今ではまるで高級な寶石が散りばめられているかのようですよ。自信を持って國王陛下の前に行けますね」

「あ、ありがとうございます」

髪がキレイだ……なんて初めて言われた。

むむむ。

やっぱり聖時代は々とおかしかったのかしら。

「ですが、アビーさんもとてもキレイだと思いますわ」

「ふふふ、お世辭とはいえありがとうございます」

お世辭じゃないんだけどな……。

アビーさんも、あまり表が顔に出ないタイプのようだ。

しかしふと見せる笑顔とかは超可い。

ペットにしたいくらいだ。

……まあ出來るわけないけど!

「さあ、エリアーヌ様。こちらのドレスにどうかお著替えくださいませ。お手伝いしますね」

「お願いします」

そう言って、アビーさんが出してきたのは、それはそれはキレイな純白のドレスだ。

まるで王妃様が著るような、立派な服。

こんなのを著るなんて……大丈夫かしら?

私は戸いながらも、アビーさんにドレスを著させてもらって、鏡の前に立った。

すると。

「やっぱりとてもおキレイです! 人はなにを著ても似合う……と言いますが、エリアーヌ様は似合うどころか、服のキレイさをさらに際立たせますね!」

アビーさんが興した様子で口にする。

本來なら「いえいえ、私なんて……」と謙遜するところだが、今回ばかりはそうはいかなかった。

これが私!?

まるで王様に生まれ変わったかのようだ。

髪もアビーさんに整えてもらっているので、まるで鏡の前の自分がキラキラ輝いて見えるよう。

自分じゃないみたい……。

「どうしたんですか、エリアーヌ様。も、もしやお気に召されなかったですか!?」

私が呆然としていたからなのか、し慌てるアビーさん。

私はすぐに顔の前でバタバタ手を振って、

「そ、そんなことありませんわ! こんな素敵なドレス、ありがとうございます! していただけですので!」

「それだったらいいんですが……」

いけない、いけない。

しすぎて言葉を失ってしまっていましたわ……。

私だって、ダンスパーティーに無理矢理出席させられたりしたので、ドレスを著たことは一度や二度じゃない。

だけどそれも遠い昔のことだ。クロードが私をダンスパーティーに出席させなかったのである。

きっとあの頃にはレティシアに心が傾いていて、私なんてどうでもよかったんだろうな。

ああ……クロードのことを思い出せば思い出すほど、腹が立ってきましたわ。

あまり思い出さないようにしましょう。

「それにしても……私みたいな庶民が、國王陛下とお會いするなんて大丈夫なんですか?」

私も聖だったので、ベルカイム王國にいた頃は陛下と顔を合わせることも多かったが、最後の方は……以下略。

私が不安を口にすると、

「なにをおっしゃいますか。ご主人様から話を伺っております。あなたは命の恩人だって。なんなら、こちらが謙(へりくだ)らなければならない立場です」

「そうですかね……?」

「それに國王陛下は、庶民や貴族など隔たりなく接する方。あなたが庶民の出だったとしても、無下にすることはないと思いますよ」

アビーさんが勵ましてくれた。

「うーん……」

でも不安が取れない。

張しているのかしら?

なんてったって、相手は一國の王である。失禮があっては、後々どうなるのか分かったものじゃない。

「エリアーヌ様、失禮します」

私の不安を察したのか、アビーさんが抱きしめてくれる。

むぎゅー。

「……!」

突然のことに、私はアビーさんにを預けるばかり。

「なにも心配する必要はありません。それにあなたみたいなとってもキレイな方。國王陛下が見たらビックリするに違いありません。『うちの息子は、こんな人を捕まえたのか!』……って」

「ア、アビーさん、息がしにくいです」

「失禮しました」

アビーさんがさっと腕を解く。

元の鉄仮面のような表に戻ってしまいました。

「さあ、そろそろナイジェル様も戻ってまいります。まだ不安なようでしたら、もう一度ぎゅーっをしますが?」

「も、もう大丈夫です!」

「それは良かった」

でもおかげで張が解れた。

アビーさん……若いように見えるけど、なかなかやり手のメイドね。

これならリラックスして、陛下との謁見に臨めそうですわ。心からそう思った。

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