《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》16・広い部屋じゃないって言いましたよね?

その後、あの親子が々説明足らずだったことを、すぐに思い出すのであった。

「って……どこがあまり広い部屋じゃないですか!?」

この部屋まで案してくれたアビーさん。

が「ごゆっくり」と言ってドアを閉めたのを見送って、開口一番に私はそう聲を大にした。

「一どこのダンスホールですか!?」

そう。

私に用意されたところは、とんでもなく広い部屋だったのだ。

それだけではない。

天蓋(てんがい)付きのベッドはお伽噺に出てくるよう。一人で寢るには大きすぎるんじゃないかしら?

それに至る所に高級そうな壺や絵畫といったものが置かれている。落ち著いて寢られませんわね……。

部屋も掃除が行き屆いているのか、眩しいまでに輝いて見えた。

「王國で聖やってた頃は、こんな広いところじゃなかったのに……」

何度も繰り返すが、あの頃は酷いものだった。

こんな広い部屋なんて與えられず、狹くじめじめしたところで木製のテーブルと機、そして固いベッドが置かれているのみだった。

でも私は意外と気にっていたけどね。

あんまり広い部屋だと、それはそれで落ち著かないし……雨風は十分凌(しの)げていたから、これで十分だと思っていた。

「十分なおもてなしですわ」

私はベッドに近付き、試しに指で押してみた。

わあー、ふかふかだー! すっごいらかい!

恐る恐るベッドで橫になる。

外著(そとぎ)のまま、こういうことをするのはあまりお上品なことじゃないが、らかさのに勝てなかったのだ。

「追放されてから々ありましたね」

白い天井を見つめながら、ここまでのことを軽く思い出していた。

クロード王子に國外追放……そして婚約破棄までされて。

隣國を目指そうとしたら、魔に襲われた後のナイジェル達を見つけて。

しかも彼は王子様だって、ここ王城まで招待された。

改めて振り返ると、ぐるぐる目が回ってしまいそうだ。

「でも……これからどうしましょうか」

住むところは用意してもらった。

それだけで最大の懸念事項はクリアしたとも言える。

しかし人はそれだけで生きていけない。

生きていくためには、生活の糧を得る必要があるのだ。

端的に言うと『お金』だ。

しばかりのお金は持參してはいるが、すぐに盡きてしまうだろう。

そうなる前に働く場所を探さなければならない。

「救護院にでも行って、雇ってもらいましょうか? 治癒魔法が使えますし」

しかしすぐに首を橫に振る。

「ダメだ。そんなことをしたら聖だって一発でバレる。じゃあパン屋さんとか? 憧れてたけど、私に接客なんて出來るかしら。料理を作るのが好きですし、レストランで働いてみてもいいかもしれませんわね」

んー、今更になって自分の無鉄砲さ加減が怖くなってきた。

としての能力以外取り柄や社會経験に乏しい私を、誰かが雇ってくれるだろうか?

……なかなか厳しいように思える。

「まあそれは後々考えましょう……さすがに眠たくなってきて、頭があんま働かない」

目を瞑ると、さらに急激に眠気が襲ってきて——

「エリアーヌ。ちょっといいかな?」

ノックとともに。

ナイジェルの聲がドアの向こうから聞こえてきて、私はバネのようにすぐに飛び起きる。

「は、はーい! しお待ちくださーい!」

こんなはしたないところ、ナイジェルに見せられません!

私はすぐに鏡を見ながら手櫛(てぐし)で髪を整えて、扉を開けた。

「すまない、お休みのところいきなり來てしまって」

「問題ないですわ。それにしてもナイジェル、どうしましたの? もしかして……私に會いたくなったとか?」

心臓がバクバクしながらも、優雅な笑みを浮かべて冗談を口にする。

するとナイジェルの顔が見る見るうちに赤くなって、

「そ、そういうわけじゃないよ。ただエリアーヌに話があってね」

とたどたどしく口にした。

あれ?

ナイジェルのことだから「ははは、そうだよ。エリアーヌの顔が見たくなってね」と余裕げに、お世辭なのか冗談なのか分からない返しをしてくると思った。

それが今はどうしたことだろう。

私の言葉に、こんなに彼が揺するなんて。

まるで可い犬を見ている時のような印象を、この時彼に初めてじた。

「それで……話とはなんですか?」

これ以上からかってあげるのも、なんだか悪い。

私はすぐにそうナイジェルに問いかけた。

「……ここじゃあ、あんまり喋りにくい。近くにルーフバルコニーに出られるところがあるから、そこで喋らないか?」

「別にいいですけど……」

なんだろうか?

でも彼の表を見るに、ただの世間話ではなさそうだ。

なにか一波ありそうですわね……。

私は一抹の不安を抱えながらも、ナイジェルの後をついていった。

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