《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》18・熱的にこられると慌てちゃいます

「え、え、えー!?」

ナイジェルの突然の言葉に、変な聲が口から出てしまう。

頭がパンクしそうになっている私の両肩を、ナイジェルがつかんだ。

「君を一目見た時から『なんてしい人なんだ』と思っていた。治癒魔法なんて使えなくてもいい、聖じゃなくてもいい。ただ僕は君が傍にいてくれるなら……」

「ちょ、ちょっとナイジェル様!」

私は大きな聲を発する。

慌ててしまったためか、ついナイジェル『様』と呼んでしまった……。

私の大きな聲に驚いたのか、

「……っ! すまない。し興してしまったようだ。暴な真似をしてしまってごめん」

と元の彼の様子に戻った。

「だ、大丈夫ですわ……しかし王族として、を褒めることを教えられているかもしれませんけど、こういう場ではあまり言わない方がいいと思います。聞かれて、変に勘違いされても困るでしょうから」

私の國では『と會った時は、まずは第一聲はお褒めの言葉から』というものがある。

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だからナイジェルの言ったことを真にけ、勘違いしてはいけない。私は強く自分に言い聞かせた。

「……別にそういうつもりでもなかったんだけど」

「そういうつもりでも?」

「なんでもない」

ナイジェルは誤魔化すように一度咳払いをして、こう話を続けた。

「だけど君にずっとここにいてしいという僕の言葉は噓ではない。まだ短い間だが、君がとても魅力的なであることは分かったからね。どうだろう、エリアーヌ。君がよければ、リンチギハムにずっといてしい」

このお方の真っ直ぐな目を見ていると、なんだか自分のペースが崩されてしまう。

をかけるかもしれないとは思う。

だけどここまで熱的に説き伏せられたのだ。

ならば答えは決まっているようなものだ。

「……分かりました。あなたにそうおっしゃっていただけるなら、しばらくリンチギハムにいさせてもらいます。本當にありがとうございます」

もう一度深く頭を下げる。

しばらく……と言ったのは一応保険だ。こんな良い人達に迷をかけてられない。しでも不穏な空気をじ取ったらリンチギハムから出て行く——そう自分に言い聞かせるための言葉であった。

「禮を言うのは僕の方だ。ありがとう。そう言ってもらえて僕個人としても嬉しいよ」

頭を上げると、そこにはナイジェルの優雅な笑顔があった。

今日は満月。

月の明かりがナイジェルを照らしており、それが彼の形っぷりを際立たせているかのようであった。

「あと……話はもう一つ」

ナイジェルは人差し指を一本立てる。

「エリアーヌ、これからどうするつもりなんだい? 父上も言った通り、住むところは用意するが……」

「先の予定は細かく決めていません。ただどこかで働きながら、靜かに暮らしていくつもりです」

「そうか……うん。エリアーヌがそうしたいって言うならいいんだけど、よかったらもうしばらくここに住まないか?」

「へぇ?」

思わぬことを言われてしまって、私は間抜けな聲を上げてしまう。

「いや……失禮なことを言うかもしれないけど、君みたいな可憐ながいきなり街に出たとしても、困ることが多いんじゃないかと思って……それならもうし落ち著くまで、ここにいるといい。住むところがすぐに用意出來るとも限らないしね」

それは非常に魅力的な提案であった。

すぐに社會の荒波に放り出されても、私みたいなちょっと治癒魔法が使えるだけの小娘が通用するだろうか?

そのまま飲まれてしまわないとも限らない。

だけど。

「ありがとうございます。ですが……本當にいいんですか?」

「なにがだい?」

「こんなに良くしてもらって。他の方から反を買ってしまわないかと思いまして」

「なにを言うんだい。君が僕達に治癒魔法をかけ、救ってくれたことは周知の事実だ。恩人への対応としては普通だと思うけど?」

ナイジェルは「なにをそんなこと、心配しているんだい?」とばかりに首をかしげた。

……これは斷る理由もなさそうですわね。

「分かりました。ただなにもしないでいるのも罪悪がありますし、なにかお手伝い出來ることがあれば遠慮なくお聲がけくださいませ」

「君は本當に良い子だね。分かった。君の力が必要となってくる場合は、相談させてもらうよ」

しばらくのんびりぐたーりしたいと思うが、だからといってかないでいるのもそれはそれで他の人の目が気になる。

我ながら仕事中毒(ワーカホリック)だ……。

王國で聖としてコキ使われていたせいだろうか。

なんにせよ。

「では改めまして……よろしくお願いします」

「こちらこそ」

とナイジェルが嬉しそうに言った。

「じゃあそろそろ帰ろうか。遅くまでごめん。部屋まで送っていくよ」

「いいえ、結構ですわ。そんなことをして他の人に目撃されれば、なにを言われるか分かりません。ですので……」

「君は他人の目線を気にする子だなあ。いいから」

一人で帰ろうとする私の手を、ナイジェルは強引につかんだ。

「エスコートするよ」

ナイジェルは花のような笑みを浮かべた。

その顔をされてしまえば、思考が停止してしまってもうなにも言えなくなってしまう。

本當に私、どうしちゃったのかしら……。

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